組織の「デザインリーダー」に必要な、「感情」の読み方
デザイナーなら誰もが、キャリアのどこかで「どれだけクオリティの高いデザインを作っても、なぜか社内の会議で通らない」「プロダクトのためを思って正論を言っているはずなのに、他職種から煙たがられる」「気づけばただの“言われた通りに画面を作る人”になってしまっている」という壁にぶつかったことがあるでしょう。
ここで多くの人が「自分にはリーダーシップがないのではないか」「どうすれば組織でデザインの価値を認めさせられるのか?」と悩むことになります。
結論から言うと、デザインができることと、組織をリードできることは全く別のスキルです。AIが画面を自動生成してくれるようになった今、デザイナーが組織で「デザインリーダー」として生き残るために必要なのは、Figmaの操作スキルではなく、組織の「合理」と「情理」を読み取る技術です。
この記事では、組織で「デザインリーダー」になるための方法を構造化して考察します。
デザインリーダーを定義する「2つの軸」
組織でデザインリーダーになるためには、プロジェクトやタスクの裏側に流れる「背景と目的(合理)」に立ち返ることと、関係者の間に漂う「感情(情理)を読むこと」の2つが不可欠です。
背景と目的(合理): 「なぜそれをやるのか(背景)」と「何を達成すべきか(目的)」を理解し、言語化する力。
感情を読む(情理): 「今回の件に誰がどう関わっていて、どう進めれば角が立たないか(地雷のありか)」を曖昧にせずに言語化する力。
人は論理だけでは動きません。しかし、感情ばかりを気にしてもプロダクトは前に進みません。この2つの要素で軸を切ると、組織にいるデザイナーを次の4つのタイプに類型化することができます。

1. 作業者
タスクの背景や目的を疑わず、周りの人の感情にも配慮せず、ただ言われた通りの画面を作るだけの状態。AI時代に最も早く居場所を失うタイプです。
2.狂犬推進者
目的からブレないロジックは持っている。しかし、関係者への配慮や根回しを欠いているため、正論を武器に周囲をなぎ倒して失敗するタイプ。
このタイプは往々にして、制作会社出身でデザインスキルが高い方が多い印象です。制作会社ではデザインスキルと論理で進められますが、事業会社はチーム戦なので上手く活躍できず厄介者になっているパターンをよく見ます。
僕も制作会社(博報堂アイ・スタジオなど)の時代は完全にこの狂犬推進者でした。制作会社であれば、組織全体を巻き込む社内政治が少ないため、これでも一定の機能はします。しかし、事業会社のように「組織全体で滞りなく動くこと」がアウトプットの前提になる環境では、ただの「変にこだわりがあって扱いづらい、嫌な奴」になってしまいます。しかも、本人は正論を言っているつもりなので、自覚しにくいのが一番やっかいです。
3. 進まない調整者
周りの意向を気にしすぎて、目的に沿った取捨選択ができないタイプ。関係者の言いなりになって右往左往するため、プロジェクトが全く前に進みません。結果として、メンバーを疲弊させるマネージャーになりがちです。
上司として優しいけど、評価されないタイプに多いです。
4. デザインリーダー
合理と情理をどちらも深く理解し、その上で、あくまで「合理性(もしくは短期的には非合理だが、長期的には合理的)」の高い選択肢を心を無にして選び続けられる人。人の感情を読み解き、そこに寄り添いながら、組織全体を正しいゴールへとリードできる存在です。
では、私たちが狂犬や調整者を卒業し、本物の「デザインリーダー」になるにはどうすればいいのか。デザインリーダーを定義する「2つの軸」を解説します
1. 背景・目的の把握
まずやるべきは、上司の指示やPdMの要件定義を鵜呑みにせず、その裏にある「背景」と「目的」に戻って言語化することです。
作業の引力とは凄まじく、頼まれたタスクが具体的であればあるほど、僕たちの脳は「早く手を動かして画面を作って、楽になりたい」という欲求に支配されがちです。しかし、この作業の引力に逆らって、一度「背景」と「目的」を把握する。そのほうが結果的に手戻りが減って、自分が一番楽になります。
改めて、背景と目的の定義を整理しておきます。
背景: なぜ、今それをやる必要があるのか?(市場の変化、発生した問題、誰かの危機感)
目的: その仕事を通して、最終的に何を達成したいのか?(判断材料、目指す状態、納得させたい相手)
これらを読み解くために、僕が実務で実践している3つの手順がこれです。
手順①:状況の確認
まずは、その仕事が置かれている基本的な前提(いつ、どこで、誰に使われるか)の基本線を合わせます。
あなた: 「この新機能のUI検討は、来週の経営会議向けのデモ資料という認識で合っていますか?」
上司: 「そうそう、その会議で使う」
手順②:背景を特定する(★ここが重要!)
単なる状況説明ではなく、「何がきっかけで、何に困っているか」という真の文脈を特定します。ここが抜けると、ピントのズレたデザインになります。
あなた: 「今回、急にこの機能の優先度が上がったのは、何か競合の動きや顧客からの強い要望があったからでしょうか?」
上司: 「実は、A社が急に類似のプランを出してきて、ウチの既存顧客から解約の打診が数件入って困っているんだ」
ここで初めて、「既存顧客の解約を防ぐためのスピード感」という真の背景が見えます。
手順③:目的を合意する
背景が見えれば、目的の解像度が上がります。
背景を聞く前: 新機能の画面を網羅的に作る(作業)
背景を聞いた後: 顧客に「これなら解約をとどまろう」と思わせるコア体験に絞り、会議で実装の意思決定ができる材料をFigmaに揃える(判断材料の提供)
この違いが伝わるでしょうか。
作るべき画面の量も、議論の質も、全く変わってくるはずです。
2. 感情(地雷)を読む
正しい目的地が決まっても、そこへ至るルートに「地雷」が埋まっていれば、ゴールには辿り着けません。組織における地雷とは、関係者の「メンツ」「過去の経緯」「変化への不安」です。
多くの人がここで失敗するのは、相手の感情を読み違えるからではありません。単純に「地雷を踏まないための手順」を知らないからです。「なんとなく配慮する」という曖昧な精神論ではなく、「誰を、どの順番で、どう共犯者にするか」という具体的な戦略が必要です。
手順①:「隠れキーマン」を特定する
組織図上の決裁者(役員など)だけを見ていては不十分です。その仕事を進める上で、「実質的な拒否権(=あの人がNOと言ったら進まない力)」を持っている人物を探します。
実務の主導権を握るベテラン社員
現在のやり方(あなたが変えようとしている古いUIや仕様)を作った前任者・考案者
彼らを無視して「論理的に正しい改善案」をいきなり会議に出すことは、彼らの過去の仕事を全否定することと同義です。これが最大の地雷になります。あなたは全てのメンバーにリスペクトをもって接していますか?ここでYesと言えないと、デザインリーダーになることはできません。
手順②:相手の「損失」を想像する
人は「得られるメリット」よりも「失うもの」に2倍近く敏感に反応します。あなたの提案が合理的であればあるほど、誰かの何かを脅かしている可能性があります。
自動化・効率化の提案: 「自分の仕事や存在価値がなくなるのでは?」という不安
デザイン変更の提案: 「俺のデザインの何が悪いんだ?」という拒絶
感情論ではなく、戦略として「誰が、何を損するか?」を徹底的に想像し、そのケアを事前に準備します。
手順③:会議の前に「相談」という形で共犯者にする
公式の会議でいきなり提案してはいけません。必ず個別にアプローチします。これは陰湿な裏工作ではなく、相手への「敬意の表明」です。
あなた: 「今度、〇〇のUIを大きく刷新しようと思っているのですが、現場を一番よく知る△△さんの視点で、使いづらくなりそうな懸念点がないか事前にアドバイスをいただけませんか?」
ポイントは「許可をもらう」のではなく、「知恵を借りる(相談する)」というスタンスをとること。人は頼られると、無下にはできません。
ここで一度でも意見を聞き、その内容をデザインに10%でも反映させれば、その相手は「敵」ではなく「一緒に案を作った共犯者(味方)」に変わります。会議の場で「実は事前に△△さんにもご相談させていただき、現場の懸念をクリアした状態なのですが……」と添えるだけで、その会議は驚くほど滞りなく進むようになります。
まとめ
人間は、感情で意思決定し、論理でそれを正当化する生き物です。
どんなに美しいUIを作れても、どんなに優れたUXを設計できても、組織の文脈を読めないデザイナーは、ただの「狂犬推進者」として孤立していくか、「作業者」として都合よく使われて終わります。
デザインリーダーになるということは、画面をコントロールすることではありません。
タスクの裏側に流れる「背景と目的」からブレないこと(合理)
関係者の間に漂う「感情」を読み取り、地雷を避けて味方にすること(情理)
この両輪を回して初めて、あなたのデザインは組織を動かし、プロダクトを本当の「勝ち」へと導くことができるようになります。
焦る必要はありません。まずは明日受ける小さなタスクから、「背景と目的の把握」と「メンバーの立場による感情の把握」を始めてみてください。
一歩ずつ経験を積んでいけば、必ず組織にとって重要な「デザインリーダー」になっているはずです。
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