中堅デザイナーが陥る、残酷な真実
デザインの世界に足を踏み入れて4、5年。
いくつかのプロジェクトを経験し、一通りのツールは迷いなく使える。後輩に教える場面も増えてきた。そんな、いわゆる「中堅デザイナー」と呼ばれるあなたが、今こんな壁にぶつかってはいませんか?
クライアントへのデザイン提案が、なかなか通らない。
デザインの戻しが多く、修正作業に疲弊している。
ここ数年、自分のデザインが上達している実感がまったくない。
有名なギャラリーサイトに、一度も掲載されたことがない。
もし、この中のどれか一つでも胸に突き刺さるなら、この記事はあなたのためのものです。
僕がデザインメンターとして多くの方と接する中で、このような悩みを抱えるデザイナーには、ある共通した経歴があることに気づきました。それは、「ずっとフリーランスとして、一人で戦ってきた」あるいは「会社には所属しているが、先輩デザイナーから質の高いフィードバックを受ける機会がほとんどなかった」という経験です。
そして、彼らがこの根深い悩みに対して見出そうとする解決策も、不思議なほど似通っています。
「もっと上流工程から関わることができれば、デザインの意図が伝わるはずだ」
「マーケティングの知識があれば、説得力が増すに違いない」
「これからはブランディングの時代。そこを学べば、道は拓ける」
「Webは向いていないのかも。事業会社でUIデザインをすれば、もっと本質的な仕事ができるはず…」
もちろん、これらのスキルや知識は、デザイナーにとって非常に重要です。しかし、もしあなたが今の悩みの根本的な原因から目を背けているのであれば、残念ながら、これらは単なる「逃げ」でしかありません。
残酷な真実、それは「感性の品質」の低さ
あなたが抱える悩みのほとんどは、たった一つの残酷な真実に集約されます。それは、あなたのデザインにおける「感性の品質」が、単純に低いという事実です。
僕が考える「デザインの品質」は、大きく3つの要素で構成されています。
目的達成の品質: 設定された課題を解決し、ビジネス目標を達成できているか。
利用体験の品質: ユーザーが迷わず、ストレスなく利用できるか(ユーザビリティ)。
感性の品質: 人の感性に訴えかける、視覚的な美しさや心地よさを備えているか。
これら3つの品質は、互いに深く関連しています。例えば、美しく整ったレイアウト(感性の品質)は、情報の分かりやすさ(利用体験の品質)を高め、結果として目的達成の品質にも繋がります。
問題なのは、多くの経験を積んだ中堅デザイナーほど、この中で最も言語化しにくく、かつ上達しにくい「感性の品質」から逃げ、目的達成やユーザビリティといった「正解のある(ように見える)議論」に終始しがちだということです。
しかし、僕たちは「デザイナー」です。その職能の根幹を成すのは、間違いなくこの「感性の品質」なのです。
そのデザインが「ダサい」なら、誰も見向きもしない
映画監督の押井守さんが、ヒットするSF映画の条件について語っていました。彼が言うには、最も重要なポイントは「宇宙船や武器などのプロダクトデザインが、圧倒的にイケていること」だそうです。
いくらストーリーが面白く、キャラクターが魅力的でも、登場する宇宙船やロボットのデザインがダサいと、観客はその時点で作品世界に入り込めず、見るのをやめてしまう。
でも、逆のパターンはあり得る。ストーリーは凡庸で、倫理観も曖昧。だけど、登場するプロダクトデザインが、もうバッチバチにクールで、全編通してイケていたら、それだけで熱狂するファンは確実に存在する、と。
これは、僕たちの仕事にもそのまま当てはまります。
先日、クリエイティブディレクターの佐藤可士和さんが登壇するイベントに参加しました。そこで彼は「デザイナーは医者のようなもの」と語り、クライアントの課題を発見するために、一年間ずっと社長と対話し続けることがあると、それを「問診」に例えていました。
この例えで考えてみましょう。
いくら問診が上手く、病気の原因を正確に突き止めたとしても、処方する薬の品質が低く、全く効き目がないのであれば、病気は決して治せません。
デザインにおける「問診」が上流工程や課題発見だとすれば、「薬」こそが、僕たちが最終的に作り出すアウトプット、すなわち「感性の品質」が宿るデザインそのものです。
なぜ、初心者の方が伸びるのか
デザインメンターをやっていると、時々パラドックスのような現象に出会います。それは、実は初級者の方が、4〜5年目の中堅デザイナーよりも、デザインスキルが早く、大きく伸びることがある、という事実です。
なぜでしょうか。
答えは、「プライド」です。
4、5年の経験は、人に自信を与えると同時に、やっかいなプライドを植え付けます。
「いまさら、トレースのような地道な反復練習なんてやりたくない」
「このフィードバックには納得できない。自分のやり方の方が正しいはずだ」
このように、熟達に必要不可欠な「素直さ」を失ってしまうのです。
あらゆるスキルにおける「上達の法則」は、今も昔も変わりません。それは、質の高い「反復練習」と、的確な「フィードバック」のサイクルを、どれだけ回せるか。ただそれだけです。
プライドによって、このサイクルを回すことを拒絶してしまう分だけ、上達は遅れていきます。伸び代しかない初級者が、素直にサイクルを回して急成長していくのを、横目で見ることになります。
あなたの「感性の品質」を測る、簡単な方法
最後に、ウェブデザイナーやコミュニケーションデザイナー限定ですが、自分に「感性の品質」が備わっているかどうかを、簡単に見分ける方法をお伝えします。
それは、「4、5年のデザイン経験の中で、ギャラリーサイトに一度でも掲載されたことがあるか?」と自問することです。
たくさんのギャラリーサイトが乱立し、掲載のハードルが下がっている現在の状況で、それでも一度も掲載されていないという事実は、分かりやすい判断基準になります。
ギャラリーサイトは、「目的達成の品質」や「利用体験の品質」をあまり評価しません。評価基準の大部分は、見た目のインパクトや美しさ、すなわち「感性の品質」です。
その土俵で一度も評価されていないのであれば、一度立ち止まり、マーケティングやブランディングという「逃げ道」を探すのをやめて、「自分のデザインスキルは、本当にプロとして通用するレベルなのか?」と、真摯に疑ってみるべきではないでしょうか。
その残酷な真実を認めることこそが、停滞を抜け出し、本物のデザイナーとして再び成長するための、唯一のスタートラインです。
「感性の品質」を上げるには?
感性の品質は、残念ながら知識を入れただけでは上がりません。
必要なのは、徹底的な観察と反復練習です。私の経験と、これまで多くのデザイナーを見てきた中で有効だった方法を3つ紹介します。
1. 模写 → 抽象化 → 具体化を徹底する
私が別の記事でも書いた方法です。
模写は「そのデザインの骨格や美しさの理由を体で覚える」ための最短ルートです。
しかし、模写だけで終わってはいけない。模写したら必ず抽象化し、「何が共通しているのか」をパターンにします。そして、そのパターンを使って別の題材で具体化(再構築)する。
この一連の流れを繰り返すと、ただ“見たことがある”ではなく、“作れる”感性が身についていきます。
2. 美しい写真・構図・色彩を日常的に摂取する
デザインは視覚的な感度の総合格闘技です。
写真の扱いが上手いデザイナーは、例外なく写真を見る量と質が高い。
ギャラリーサイトやDribbbleも良いですが、むしろ写真集、建築誌、映画のワンシーン、美術館など「デザイン以外のビジュアル」から学ぶのがおすすめです。色の組み合わせや光の演出、余白の美しさは異分野からの方が吸収できます。
3. 第三者からのフィードバックを意図的に受ける
感性は独学だけだと、必ず偏ります。
特に中堅になると、自分の“感覚”が正しいと信じ込みがち。そこで、信頼できるデザイナーやメンターから、作品の細部まで指摘を受けることが必要です。フォントの字間1px、余白の1pxも見逃さないレベルのフィードバックは、最初は辛いですが、確実に感性を研ぎ澄まします。
おわりに
最後にポッドキャストの宣伝をして終わります!
現職のデザイナーと一緒に、デザインの学びについてちょっとタメになる話しをするので、ぜひ聞いてみてください!
