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初恋 Time and Space Travelers.3章

200章 カウントダウン What she has been fighting is fear.

 結局、アレクは帽子っ子たちの坂滑りに毎日付き合わされ、リーヴァイはチェスに毎日付き合わされ、酔ったスカーレットをホテルに放り込むという冬季休暇で、いよいよ祝日だ。
 旗が翻り、アレクはカイの店で花を買いマダムの店に寄って一杯ひっかけ、アイスの情報を思いがけず聞いた。
「婚姻かね」「らしいわ」「ジャンの息子はまだなのに、もう婚姻か」
「アイスは珍しくヘルランドなのよ。だから簡単だったんじゃないかしら。一人息子だし」
「ジャンはかなりお冠だがな」
「そりゃそうでしょ。まあ、シーランドの婚姻は中々難しいのよ」
「アイスには確か恋人がいたはずだが」
「そんなの、とっくに終わってるわ」
 考えてみればアイスはレッドと同じ年か1つ上だ。という事は17か18なのだ。
「子供の成長は早いね、マダム」
「本当ね。ところで、色男さんと綺麗なお嬢さんはどうなったの?」
「まあ、男の方が凄く鈍いんでね。自分の気持ちは分かっていてヤキモキヤキモキしてるんだが、なんというのかな。恐らくだが、性愛の対象として見られない所に問題があるんだと思う」
「あのお嬢さんは女性を否定している所があるものね」
「つまり色気が無いのかな」
「そうじゃなくて。正しく育った年頃の女の子は、女性になるのが怖かったり、どうしていいか分からなかったりするのよ。リーナと違ってね」
「マダム。俺には相変わらず女の子の事が分からないよ」
「まあ、なんていうのかしら。きっと突然きちゃうわよ。狼狽うろたえる色男さんを見るのは楽しみね」
 良いお年をとお互い言い合い、ジャンの店に行く。スカーレットのオッパイ問題に振り回されたが、やはりオッパイで年末を終えるのか。

「よし、今夜は夜通し呑むぞ!」とスカーレットは言うが、毎晩呑んでいて、スカーレットが夜通し呑めた事は無い。
 今回は全員でカウントダウンに参加した。0で爆竹が鳴り、「シーアに栄光を!」と叫び、シェイクされては皆んな喜ぶ。
「これは中々愉快だな」とアレク。「愉快だ」とスカーレット。
「でも、息子さんたちが派遣で減ると、こう全員をシェイクするのは難しいだろうね」とリーヴァイ。
 次々と酒が注がれる。次々とシェイクされる。
 スカーレットがケタケタ笑う。アレクは違和感を持つ。
 無理して喜んでいるような気がした。
「サーシャの店では4人で回してるけど、息子さんが派遣になれば3人で回すようになるだろうな」
「そうだよな。よく切り盛りできるよな」「絶対またキビがいるぜ」
 イーナのマジック鍋が出されて、みんな旺盛に食べた。

「レッドがよ」とスカーレット。「もしかして1度帰るかもしれねえんだ」
「本当かね」とアレクは驚いた。
 あれはどのくらい大人になっているのだろう。
「シドに頼まれ事してっから王都に寄るかもしれねえって」「ふうむ」
「アイツ、ビフ食うの楽しみにしてるぜ」「どのくらい滞在するんだね」
「短いんじゃねえか?」とスカーレットは首を傾げる。すっかり美麗となったのに男言葉である。眩しいようにように美しいと思う時があるのに、言葉がどんどん悪くなる。そして、じっと見られると居心地が悪くなるのだ。理由をマダムに聞けばよかった。
「シドの用事済はすぐ済むから、勉強の追い込みしたいって書いてあった」
「そんな年齢か」「まあ、受験ったってまだ先だけどな。今は追い込みだ」
「何月なんだね?」「えっと、今年って書いてあったな。ついでだから船舶免許取ってこいとか言われたらしくて、ブー垂れてた。その前か後に寄るって書いてあったから、まあ春くらいじゃないか?」
「会えるといいな、船かね」スカーレットは首を傾げる。
「違うみたいだぞ。最終的には船らしいけど、シドの伝手で2ヶ月はかけないって」
「船舶免許かー。俺も欲しいな」「いいよな、船旅」「ロマンだよね」
「うむ、ロマンだ」
「俺にロマンが来るのはいつだろうな。ロマンってのがそもそも分からんな」
 鍋のお代わりが来た。
「姫は理系だからな、オツムが」「そこな」
「免許取ったら船買って、ケロちゃん乗せて遊ぼうかな」
「それはどうかな」とスカーレットが首を傾げる。
「イヤなの?」
「イヤっていうより、星座の位置も分からない奴の船に乗るのは危険だよな」
「うむ」「勉強するよ、勉強すればいいんでしょ?」「今更なあ」
「うむ。大体お前は方向音痴だぞ」「それについては俺にも言い分がある」
「聞いた」「だったら」
「でも今回は顧問として引率という役割がある。ボーッと歩かれても困る」
「歩かないもん。ジャジャで行くもん」
「そういう問題ではない、つまらんことを言うな」
「イーナって粉があって捏ねるのかな」「そうだろ」
「これで魚か。オレはビフの方が合うと思うけどな。レッドも今頃食ってんのかな」
「飽きたと言ってるんだろ?」「言ってたな」
「まあ、1年に1度だから旨いのかもな」
 鍋を結局5人前食べ、どーしても行くという既に足元のおかしなスカーレットを連れて行くが、「お前、歌え」と言われリーヴァイが音頭を取って歌った。
 歌ってみんなでケラケラ笑う。みんなもケラケラ笑う。キビの店にやはりキビはいて、店中で歌った。

 次の日、厩にキラがいないのを見てリーヴァイはジャジャに乗り海に行った。やっぱりケロちゃんがいる。
「寒くないの?」と聞くと。うん、と言う。キラが1人で遊んでいるから、リーヴァイもジャジャから降りた。2頭で戯れている。
 その体から湯気が上がっている光景は美しいとリーヴァイは思う。
「海に降る雪って綺麗だね」「うん」「戦地には、キラで行くの?」
「いや、あいつはまだ子供だ。いいな、ああやって甘えられて」
「じゃ、ノイジー?」「あいつは戦う馬なんだ。適材適所だ」
 ケロちゃんも甘えたいの?という言葉をリーヴァイは飲み込んだ。
 スローテンポだ。
「小石」「うん」
「オレは海の先が見たかった。でも最近、海の先を見るのが怖くなった。見たくないと思うようになった」
「そう」「そんだけか?」
「大人になるとさ、そんなもんだよ。俺はケロちゃんが無邪気なままで、あのキラみたいなままでいて欲しかったけど、そういう願いは叶わないのかもしれないね。大人になるって、怖いものを沢山知る事なんだよね。ケロちゃんだって、もう18じゃない。子供って物を知らないじゃない。怖いものも知らないじゃない。ケロちゃんはそういう意味で大人になっちゃったのかな」
 ケロちゃんはじっと海を見ている。リーヴァイもそうした。
 俺の告解はどうなったんだろう。結局役立たずだったのだろうか。
 ケロちゃんの冷えたコアは溶けないまま、大人になってしまうのか。
 無邪気な時間とさよならしてしまうのだろうか。
 それとも、俺以外の誰かが王子様のように現れ、ケロちゃんの孤独を癒すのだろうか。
 いや、俺は王子様じゃなくて聖職者だけど。
 俺はどこまでいっても、ケロちゃんの言うところの「インチキ聖職者」なのだろうか。
「ケロちゃん」「なんだ」「俺は変われるかな」
「何にだ、そもそもお前は何になりたいんだ」
 そう言われると困る。改めて考えると、俺の人生行き当たりばったり。こっちの国に来たんだって、決心付かないまま巻き込まれ体質で同行したし、今の仕事だって捕まったようなものだ。
「なんだろね」と言ってみる。
 分かっているのは、ケロちゃんが好きだという事だ。こんな孤独な子は初めて見る。こんな強情な子も、こんな強かな子も、自分を譲らない子も、どうやったら出来るのか知りたいという事だ。

「ケロちゃん、オムレツが好きだったの?」
「砂漠の事か?」ケロちゃんが赤を出して火をつける。
「寄宿舎で最大のご馳走がオムレツだったというだけだ。今思うと、よくあんな不味い物で喜んでたと思うけど、その日は大騒ぎだったな。厚さが2cm位で、ケチャップが少しついてんだ」
 ふー、と煙を吐く横顔は、すっかり大人になったケロちゃんだ。
「先生のどこが好きだったの?」
「そうだな。厳しくもあったけど、優しくもあった。先生の言う事にはいつも筋が通っていた。今思うと、困ったヤツだったと思うけどな」
「まだ会いたい?」
「そうだな、オレを逃した後が気になる。オレの魔力は完全に察知されない所まで来た。けどオレは先生の魔力はどこにいても分かる。でも、今は無理だな。今帰ったら、怒られる気がする」
「なんで?」
「途中で放り出すからだ。先生はそういう事は怒る。オレは褒められて帰りたい」
「ケロちゃんが生きてるってだけで、先生は喜ぶと思うけど?」
「お前は」「うん」「オレにいなくなって欲しいか?」
「一緒に行くよ」「お前にも、放り出せない物がある筈だ」
 そうだろうか。兄貴か。そりゃ兄貴探しに来てんだから、手ぶらという訳にも行かないだろう。
 それに、あっちの国に帰ればまた戦争に招集される。
「飲むか?」とケロちゃんがキビの瓶をリュックから出した。
「ケロちゃん、飲み過ぎじゃない?これ、どこで仕入れたの?」リーヴァイは呆れる。
「親族だから、どうぞって持たせてくれた」
「温まる」と言われてラッパ飲みした。「まあね」と返した。
「そうか、オレは精神が未熟なまま大人になっちまったのか」
「大人になるというのは、精神が成熟したという事だよ」
 俺はケロちゃんの事をもっと知りたい。そう言いたかったがスローテンポだ。
 ケロちゃんは内面に入ろうとすると傷ついたような顔をする。
「あの2匹はキリがねえな」「呼ぼうか?」「小石」
「うん」「お前と海を見られて良かったよ」
 謎な言葉だ。リーヴァイは指笛でジャジャを呼び、キラも続き、2人でシーア街に帰った。

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