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綻びの足あと #005 立たされて、立つ

涙とともに得た、誠実の輪郭


小学校4年生になった。
クラス編成はそのままだが、担任の先生が変わった。アサギリ先生という女性で、特に厳しくて怖いと評判の先生だったので、クラスはざわついていた。
私も怖い先生は嫌だなと思ったのが第一印象だった。ただ、母の評価は違い、以前に姉の担任だったようで、すごくいい先生だと私の担任になったことを喜んでいた。

アサギリ先生は、面白い先生ではあるが、言うことを聞かないわがままな生徒に対して机と椅子を廊下に出し、その生徒を立たせて説教し、よく泣かせるというパワフルな人だった。
私は激しく怒られるタイプではなかったが、そんなアサギリ先生のパワフルさを見て怖いと思っていた。
今でも覚えている強烈な思い出が一つある。

その日は社会のグループ学習の時間で、4人の班で大きな模造紙に、社会学習のテーマに沿った話題を書く時間だった。4人の編成は私とレンくんと女子が2人。
ただ、私とレンくんはおしゃべりばかりして、模造紙へ書くのを女子2人に任せきりにしてサボっていた。
女子たちはかなり不満に思い、私とレンくんが手伝わないことをアサギリ先生に報告した。
それを聞いた先生が言った。
「お前ら2人、廊下に出ろ」

私は言われてから、まずいと思って女子のところに行き、急に手伝い始めた。いや、手伝うふりをした。
レンくんはというと、素直に指示どおり廊下に出ていった。

それからしばらくしても呼び出されなかったので、私は許されたんだと、ほっと胸をなで下ろしながら模造紙へ文字を書いていた。
そこへ廊下からレンくんが戻ってきた。
ほぼ同時に、体がふわっと浮いた感覚がした。椅子の倒れる音がした。
視界の先に天井があった。
アサギリ先生が私の服を引っ張って、椅子から転げ落ちさせたのだ。
私はパニック状態になったが、お構いなしに先生はそのまま私を引っ張って廊下に放り出した。

それからアサギリ先生の前に立たされた。
「何か言うことはないか?」
と問われ、ごめんなさいと言いかけた時、目から涙があふれてきた。恥ずかしさなのか恐怖なのか、口を開くまでは泣くなんてまったく思っていなかったのに、謝罪の言葉を述べようとした瞬間に涙が出てきて、あれ? あれ? どうして? と自分でも混乱しつつ、涙が止まらない。
喉がつかえて声がかすれる。

「レンくんとふざけていました。ごめんなさい」
と、涙で途切れ途切れになりながら、なんとか絞り出した。
そんな私にアサギリ先生は言った。
「ふざけていたことはもちろん悪い。だが、それよりも『廊下に出ろ』と言われたのを無視して、そのまま何食わぬ顔でやり過ごしたり、許されようと思ってはいけない。まずは指示どおり廊下に出ること。そこで女子2人にやらせなければならない事情があったのなら、その言い分は廊下で聞く。そうでないのなら反省すべきだ。レンくんはすぐに廊下に出たのに、あなたは無視して自分だけ許されようとした。それはとても『ズルい』考えだ。あなたは卑怯な人間になりたいのか?」

その言葉は私の奥底にまで響いた。心からそのとおりだと思った。
泣いている状態だったから特別に響いたのか、もしくは私自身の誠実さに対する感度と深く共鳴するものがあったからなのかもしれない。
そして、なんていい先生なんだろうと私は思った。その説教は、涙とともに私の中にあった、私だけ許されようとしたズルい気持ちを浄化させてくれたような気がした。
それ以降、私はアサギリ先生のことを怖い先生だと思うことはなくなり、むしろ好きな先生になった。

似たエピソードがある。
その日は雨が降っていた。お昼休みはいつも校庭で友達とサッカーをして遊ぶのだが、雨なので外に出られない。そこでエネルギーを持て余した私たちは、グループのリーダーである悠希くんが提案した廊下での鬼ごっこを、5人でやることになった。
彼はいつだってワクワクすることを提案してくる。みんなもそれに賛成した。

もちろん校則として廊下は走ってはいけないのに、私たちはみんなで廊下を走り回って鬼ごっこを楽しんでいた。
鬼だった友人にタッチされて、私が鬼になった。新しい鬼となり、みんなが逃げる時間として30秒を数え始める。

結局、私は鬼のまま誰も見つけられず、昼休み終了のチャイムが聞こえたので、次の雨の日には私が鬼からの開始だろうなと思いながら、1人で教室に戻った。
すると、そこには驚きの光景が広がっていた。

さっきまで一緒に鬼ごっこをしていた私以外の4人が、教壇の前に立たされていたのだ。みんな神妙な面持ちで下を向いている。
なんでも、私が30秒数えている間に4人が走ってその場から逃げていく時に、ちょうどアサギリ先生に出くわしたようで、廊下を全力で走って鬼ごっこをしていたことをひどく怒られ、昼休み明けの授業中も前に立っていろと言われたらしい。
馬鹿者として、クラス中にさらし上げられている形になっていた。
事情を知った私はアサギリ先生のもとに行き、
「先生、ごめんなさい。僕も鬼ごっこをしていた一員なので、みんなと同じように立っています」
と伝え、4人が立たされている教壇の横に自ら加わった。

これで教壇の前には、鬼ごっこをしていた5人が勢ぞろいした。
授業の開始直後、アサギリ先生が言った。
「こいつらから話がある。みんなも聞いてやってくれ」
教壇の前に並ぶ僕たちは、みんなに呼びかけた。
「聞いてください。僕たちは昼休みに鬼ごっこをしていました。ごめんなさい」
次いでアサギリ先生が言った。
「この授業中は、ずっとここで立たせるから」

その授業中、小学校の正門からだけでなく裏門からも下校できるようになったら便利なのにね、という話題になり、ある生徒が、
「裏門から出られたら〇〇くんの登下校が楽になるね」
と、前に立たされている友人の名前を挙げた。
するとアサギリ先生は、
「知らないよ。こんな『馬鹿者』のことは」
と切り捨てた。教室の空気がしんと張り詰めた。

また別の生徒が今度は、
「タコの登下校も楽になるね!」
と私の名前を挙げた。私はどきりとした。やめてくれと思った。
同じく一蹴されるものだと思っていたが、アサギリ先生は、
「そうだね。タコの家も楽になるね!」
と言った。
私は拍子抜けしたような感覚になった。

授業後、私たち5人は、あらためてアサギリ先生に廊下で鬼ごっこをしたことを怒られて解散になった。
私は怒られながらも、少し心が温かいような不思議な気持ちになった。正直に自白したことによる心の軽さだったのかもしれない。
間違いや過ちを認められる誠実な人間でありたいと思った体験だった。

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