野口悠紀雄×AI?AIは文章を書くためではなく、何を言いたいのかを見つけるために使う
野口悠紀雄さんの『「超」文章法 伝えたいことをどう書くか』を読みました。
2002年に出版された本で生成AIの概念すら一般的でない時代ですが、AIで文章を簡単に作れるようになった今読むと改めて重要だと思わせられる話が沢山ありました。
この本で最も重視されているのは、文章表現の表層のテクニックではなく、その文章に伝えるべきメッセージがあるかどうかです。
そこに愛はあるんか?てきなやつです。
10秒で言えるんか?
野口悠紀雄さんは、文章のメッセージは10秒程度、あるいは数十文字で言えるものでなければならないと説明しています。
たとえば、当たり前ですが、
«生成AIについて書きます!»
ではテーマを示しただけです。
«生成AIは仕事に大きな影響を与えます!»
でもほとんどの人が知っています。間違ってはいませんが、その先を数百数千字読もうとは思いません。
一方で、
«AIが使えるように仕事を準備したら、意図せずAIがなくても仕事が進めやすくなりました。»
なら、書き手自身の経験と発見が入っています。
何について書くかではなく、そこから何が分かったのかということ、そしてそれを10秒で言えるところまで考えることが一番重要だと筆者は主張しています
10秒でテーマを話せれば、残りの文章の役割も明確になります。本文は、そのメッセージを具体的な経験や根拠で説明するためにあります。
広く書こうとすると浅くなる
もう一つ印象に残ったのが、扱う範囲を広げるほど、文章は浅くなるという話です。
たとえば、AI時代の働き方というテーマには、仕事の効率化、雇用、組織、教育、著作権など、いくらでも論点があります。
全部に触れようとすれば、一つひとつの説明が薄くなります。最後は、AIを正しく理解して活用することが重要です、という誰も反対しない結論になりがちです。
一方で、
«Copilotに会議資料を読ませるため、事前準備の方法を変えました。»
まで狭くすれば、以前と何が変わったのか、どこで失敗したのかまで具体的に書けます。
その経験を深く掘ることで、
«AIが使えるように仕事を整えることは、人間にとっても仕事を分かりやすくすることでした。»
という、ほかの仕事にも通じるメッセージが見えてきます。
入口を狭くして、深く掘ります。そこから広い話につなげます。
メッセージは考え抜くしかない
では、そのメッセージをどうやって見つけるのでしょうか。
本書の答えは、考え抜くしかない、というものでした。
情報を集めたり、文章の型に当てはめたりすれば、自動的に見つかるわけではありません。自分は何に引っかかったのか。一般的にいわれていることと、実際の経験にどんなズレがあったのか。なぜ、わざわざ人に伝えたいのか。
私も記事の結びが決まらず、何度も書き直すことがあります。そんなときは表現が悪いのではなく、そもそも何を伝えたいのかが決まっていないことがあります。
生成AIを使えば、そんな状態でも文章を完成させられます。
テーマを入力すれば、導入、見出し、きれいなまとめまで作ってくれます。しかし、メッセージが見つかっていないのに、文章だけが完成してしまう危険もあります。
AIとの対話で見つける
一方で、AIはメッセージを見つけるためにも使えます。
AIに文章を書かせるのではなく、まず自分の経験を話します。何があったのか、何に驚いたのか、それまでどう考えていたのか。まとまっていなくても、そのまま話します。
するとAIに、こんな質問をしてもらえます。
- 一番意外だったのは、どこですか
- 単に便利だったという話とは、何が違いますか
- その経験の前後で、考えがどう変わりましたか
- 読者に何を持ち帰ってほしいですか
質問に答えていくと、自分でも分かっていなかったことが見えてきます。
AIにメッセージの候補を出してもらい、いや、そうではないと感じることもあります。
しかし、その違和感にも価値があります。何が違うのかを説明するうちに、自分が本当に伝えたかったことへ近づくからです。
話して、問い返されて、違うと言って、また考えます。メッセージは、その対話の中から見つかります。
広げるAIと、狭める人間
AIは話を広げるのが得意です。
一つのテーマを渡せば、関連する論点や具体例を次々と追加します。ほかに盛り込むべき論点はありますか、と聞き続ければ、文章は長くなり、一番伝えたかったことが埋もれます。
だから、AIには狭めるための質問をします。
- この文章を10秒で言うと何ですか
- 主張と関係のない部分はどこですか
- 扱っている範囲が広すぎませんか
- 誰でも言える一般論になっていませんか
AIは文章をいくらでも広げられるので、人間にはそれを狭める力が必要です。
また、自分の主張に反論してもらう使い方もできます。
反論に答えられれば主張は強くなります。答えられなければ、言いすぎているのかもしれません。主張の範囲を狭めたり、根拠を加えたりする必要があります。
AIに賛成してもらうより、反論してもらうほうが文章の説得力は高まります。
AIに書かせる前に、AIと話す
AIは、質問、要約、反論、構成、推敲までできます。
しかし、そのメッセージが自分にとって、どうしても伝えたいことなのかは判断できません。
AIには、私が実際に仕事で困った経験も、Copilotを軽く見ていた過去も、使って驚いた感覚もありません。
最後に何を伝えるかを決めるのは、当たり前ですが自分です。
AIとの対話は、考えることの代わりではありません。自分の考えを外に出し、問い返してもらい、さらに考えるために使うのがよいのではないかとおもっています。
生成AIによって、長い文章を作ることは簡単になりました。しかし、書くに値するメッセージは、今も考え抜くしかありません。
その考え抜く作業を、一人でやらなくてもよくなったのはありがたい限りですね。
