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止められた米国製AIのスイッチ〜Fable 5停止が暴いた高市官邸の盲点/アンチグローバリズム観測~反既成秩序のうねり(第38回)


◆ただのAI停止ではない


妙な事件である。

AnthropicのClaude Fable 5とMythos 5が止まった。米政府が国家安全保障上の理由で、外国籍者による両モデルへのアクセス停止を命じたためである。

対象は国外の利用者だけではない。米国内の外国籍者、さらにはAnthropic社内の外国籍社員にまで及んだ。結果として同社は、Fable 5とMythos 5を全顧客向けに止めるしかなかった。

新聞の見出しはこうだ。

「米政府、先端AIに輸出規制」
「最新AIのサイバー悪用を警戒」
「安全保障上の懸念で提供停止」

しかし、これでは肝心なものを見落とされている。

今回の出来事の本質は、ひとつのAIモデルが危険だったかどうかではない。日本の国家機能が、米国政府の判断ひとつで最先端AI能力へのアクセスを失い得る、と露呈したことにある。

日本はアメリカの同盟国である。しかしながら、同盟国が使用しているものであっても、スイッチは操作できる者の意思のみで切ることが出来る。トランプ政権のアメリカは、そのことに何の躊躇もない。その当たり前の事実が、急に目の前へ出てきた。

◆防御の道具であり、攻撃の手段にもなり得る高性能AI

Fable 5とMythos 5は、ただ文章を整えるための道具ではなかった。AnthropicはProject Glasswingで、Claude Mythos Previewを使い、重要なソフトウェア基盤の脆弱性や弱点を発見・修正する取り組みを進めていた。対象には、ローカルな脆弱性検出、バイナリのブラックボックステスト、エンドポイント防御、ペネトレーションテストなどが含まれる。

ここが面倒なのである。

高性能AIは、攻撃者にとって危険な道具である。同時に、防御側にとっても強力な道具である。

ロイター通信は、NvidiaやAdobeを含む米主要企業のサイバーセキュリティ責任者らが、Fable 5とMythos 5への制限解除を求めたと報じている。彼らの主張は、こうしたモデルを取り上げれば、ソフトウェア欠陥の発見と修正が遅れ、サイバー防御が弱るというものだった。

攻撃者を縛るつもりの縄が、防御側の手首にも食い込んだ。

サイバーセキュリティーの現場では、こういう失敗は珍しくない。危ない能力を制御しようとして、最前線の防御能力まで削ってしまう。しかも攻撃者は、別のモデル、ローカル環境、流出ツール、国家支援の設備で動き続ける。規制を守る側だけが脆弱化する。悪いパターンだ。

◆米政府の正否より重い問題

もちろん、米政府の判断が正しかったかどうかは、公開情報だけでは断定できない。米政府には表に出せない情報があるのかもしれない。Anthropicの説明にも、自社防衛の色はある。そこは割り引いて読むべきだ。

しかし、日本にとって重要なのは、米政府の判断の正否だけではない。

正しくても、誤っていても、日本側に降ってくる危険は同じである。重要なAI能力が、ある日突然、使えなくなる。

この一点が問題なのだ。

カナダのカーニー首相は、今回の件を、少数の米国AIプロバイダーに依存する危険を示すものとして受け止めた。「選択肢が一つしかないのは危ない」という趣旨である。「Reuters Breakingviews」も、米国のAI輸出に規制上の停止スイッチが見えたことで、同盟国側が米国依存を警戒し、ローカルAIやオープンモデルの魅力が増すと論じている。


では、日本はどうするのか。

日本にはAI基本計画がある。AI戦略本部もある。内閣府の人工知能戦略本部は、高市早苗首相を本部長とし、全ての国務大臣を本部員とする体制になっている。紙の上では、いかにも政府一体で動けそうに見える。

だが、危機管理の本性は紙の上に完全に現れているものではない。

止まった瞬間に、誰が椅子から立ち上がるのか。誰が政府全体の利用状況をつかんでいるのか。誰が米国と交渉するのか。誰が重要インフラに代替手順を指示するのか。

果たして人工知能戦略本部に今回の事態の本質をとらえた的確な対応力があったのか。

今回の事態で高市政権が問われているのは、AI産業政策ではない。国家危機管理である。

米国製AIを使うな、というわけにはいかない。そんな幼稚な反米論では国は守れない。むしろ話は逆だ。米国製AIを使い続けるなら、米国政府の輸出管理、米国企業の経営判断、クラウドの運用方針、モデル提供条件、そのどこで日本の行政、防衛、金融、通信、電力、医療、研究開発が詰まるのかを、官邸は把握し、対応を想定していなければならない。

問題は、以下への影響が把握されているかどうかである。

政府、防衛省、警察、自治体、独立行政法人、重要インフラ、防衛産業、金融、通信、電力、医療、大学、研究機関の諸活動。そしてその委託先、再委託先のそれ。

それらが、どの外国A I、とりわけアメリカの傘下にあるものをどの業務で、どのデータと組み合わせて使っているのか。

官邸は、そして人工知能戦略本部は即答できるのか。

できないなら、Fable 5停止で露わになった最大の急所は、Anthropicではない。日本政府である。

(以下、有料)

以下では、今回の停止劇を「米国AI企業の一時的混乱」としてではなく、日本政府の神経系に関わる危機管理案件として読む。焦点はモデル名ではない。国家機能が、どこに、どれだけ、知らぬ間に依存しているかである。


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