「先生、なぜ手袋をして触るのですか?」~救命センターの医師が伝えたいこと~
救命センターやICUで働いていると、
ご家族から本当にたくさんの質問をいただきます。
人工呼吸器のこと。
透析のこと。
気管切開のこと。
病状や治療については丁寧に説明するよう心がけていますし、
ご家族からもたくさん質問をいただきます。
しかし、
直接聞かれることはほとんどないけれど、
心の中で疑問に思われているのではないかと感じることがあります。
それは、
「なぜ手袋をして患者さんに触るのですか?」
ということです。
当院では面会の際、
ご家族にも手袋を着けていただいています。
患者さんの手を握る時。
肩に触れる時。
髪をなでる時。
医療者だけでなく、
ご家族にも手袋をお願いしています。
その時、
「家族なのに手袋をしないといけないの?」
と思われた方もいるかもしれません。
あるいは、
「汚い人みたいでかわいそう」
と感じた方もいるかもしれません。
今日はそんな手袋の話をしたいと思います。
まず最初にお伝えしたいことがあります。
私たちは、
患者さんが汚いから手袋をしているわけではありません。
ご家族にも手袋をお願いするのは、
患者さんとの距離を作るためではありません。
むしろ逆です。
患者さんを守るためです。
ICUや救命センターに入院している患者さんの多くは、
病気やけがによって体力が大きく低下しています。
人工呼吸器が入っている。
首や腕に点滴が入っている。
尿の管が入っている。
透析の管が入っていることもあります。
これらは患者さんを助けるために必要な治療です。
しかし同時に、
細菌が体の中に入りやすい状態でもあります。
健康な人であれば問題にならないような細菌でも、
重症な感染症につながることがあります。
だから私たちは、
患者さんに触れる前に手指消毒を行い、
必要に応じて手袋を着けます。
そして、
ご家族にも同じ目的で手袋をお願いしています。
それは患者さんとの間に壁を作るためではありません。
少しでも安全に触れていただくためです。
ご家族の中には、
「でも家族なのだから大丈夫では?」
と思われる方もいるかもしれません。
もちろん、
ご家族が患者さんを危険にさらすという意味ではありません。
私も面会の際には、
ぜひ声をかけてください。
手を握ってあげてください。
とお伝えしています。
患者さんにとって、
ご家族の声やぬくもりはとても大切だからです。
実際に、
意識がないように見えていても、
ご家族の声に反応する患者さんを私は何度も見てきました。
だからこそ、
触れ合うこと自体は大切なのです。
ただ、
患者さんの体は今とても弱っています。
私たちはそのことを知っているからこそ、
少しでも感染の危険を減らしたいと考えています。
医療者も同じです。
私たちは一日に何十人もの患者さんと接します。
患者さんの体に触れます。
処置を行います。
様々な医療機器を扱います。
だからこそ、
患者さんから患者さんへ細菌を運ばないよう、
より厳密な感染対策が必要になります。
私は時々、
面会中のご家族が患者さんの手を優しく握っている姿を見ます。
その光景を見るたびに、
家族にしかできない役割があると感じます。
そして同時に、
私たち医療者にも役割があります。
患者さんを安全に治療すること。
少しでも感染の危険を減らすこと。
回復の邪魔になるものを取り除くこと。
手袋はそのための道具の一つです。
実は、
アラームが鳴って急いでいる時ほど、
私たちは感染対策を省略しません。
なぜなら、
どれだけ急いでいても、
患者さんに新たな感染を起こしてしまえば意味がないからです。
もちろん、
命に関わるような緊急事態では、
状況に応じて最優先で対応することもあります。
それでも、
感染対策は医療の基本です。
救命センターで働いていると、
本当にたくさんの患者さんと出会います。
そして、
たくさんのご家族とも出会います。
その中で私が感じていることがあります。
それは、
ご家族が知らないところで行われている医療にも、
一つ一つ意味があるということです。
手袋もその一つです。
私たちは患者さんに触れる前に手袋を着けます。
そして、
ご家族にも手袋をお願いしています。
それは距離を置くためではありません。
患者さんを汚いと思っているからでもありません。
患者さんを守るためです。
ご家族が患者さんの手を握る時も。
私たちが患者さんの体に触れる時も。
目的は同じです。
少しでも安全に触れること。
少しでも安心して寄り添うこと。
手袋は、
そのための小さな道具です。
患者さんとの間に壁を作るためのものではありません。
むしろ、
安心して触れ合うための一枚なのです。
もしこの記事を読んで、
ICUや救命センターで働く医療者の行動の意味が少し伝わったなら嬉しく思います。
