クックパッド「レシピスクラップ騒動」
クックパッドが発表した新機能「レシピスクラップ」。他サイトやSNSのURLを貼るだけで、AIが内容を読み取ってアプリ内に「自分だけのメモ」として記録してくれる機能ですが、料理研究家たちから批判が殺到する事態となりました。
ここで問われるのは、「AIが行っているこの行為に対して、誰が責任を負うのか」という点です。
クックパッド側は「ユーザがメモとして使っているだけ」と言うかもしれません。
しかし、AIが自動で「複製」に近い形で情報を整理してしまう仕組みを、商業ベースのアプリとして提供している以上、その著作権侵害の責任をシステム提供側が問われる可能性は極めて高いと言えます。
実際、プレミアム会員であれば「無制限」に利用できるそうです。
私たちが日常的に行う「お気に入り登録」と、何が違ったのでしょうか?
1. 「便利」の裏側に潜む著作権の境界線
最大の懸念は、「他人の情報にただ乗り」と捉えられた点です。
・ユーザの行動: URLを貼り付けるだけ。
・AIの行動: 元サイトの料理写真、材料、工程、動画などを読み込み、クックパッドの
アプリ内で「再現」して表示する。
一見、個人の備忘録に見えますが、元サイト(ブログやYouTubeなど)に行かなくてもクックパッド内でレシピが完結してしまいます。これは、クリエイターの大切なアクセス数(収益源)を奪う行為に他なりません。きれいに纏められたレシピがあれば、わざわざソースまで確認しにいく人は何人いるでしょうか?
2. 「商業ベース」での仕組み化という問題
個人がブラウザのブックマークに保存するのと、企業が「他人のコンテンツをAIに読み込ませて自社アプリに取り込む仕組み」をビジネスとして提供するのとでは、重みが全く異なります。
問題の核心: AIが自動で「複製」に近い形で情報を整理してしまうため、もはや著作権法上の「引用」とはいえず、クリエイターの権利を侵害しているのではないかという点です。
3. レシピは料理家の創作
料理研究家にとって、レシピは試行錯誤の末に生み出された「作品」です。それをAIが無断でまとめ直すことに対し、料理家たちは強い拒絶反応を示しました。クックパッド側は「URLを引用しているだけ」という認識だったかもしれませんが、AIによる高度な再現性が、結果として「無断コピー」と変わらない状態を作り出してしまったのです。
レシピはアイディアと表現が併存
難しいのは、料理のレシピという「アイディア」には著作権が認められないことです。
しかし、写真、動画、文章には当然著作権があります。AIが材料や工程を読み込んでいる以上、少なくとも複製(キャッシュやデータベースへの蓄積など)は行われています。AIが行うからよいというものではありません。
また、レシピは非公開の個人メモだそうですが、「私的使用」は個人が自分で自分のためにメモをつくる場合です。自社のアプリを使ってユーザ個人のメモを作る場を提供することが、法的な私的使用といえるかは、かなり疑問です。
問題となる著作権
① 複製権の侵害(法第21条)
AIが元サイトから写真やレシピ文を読み込み、サーバー等に保存する行為は複製です。「ユーザがURLを貼ったから」という建前があっても、そのようなシステムを提供しているプラットフォーム側の責任が問われます。
② 同一性保持権の侵害(法第20条)
AIがレシピの表現を「ユーザが見やすいように」と書き換えたり、手順を省略したりすることは「改変」にあたります。さらに、情報の選択や配列に創作性があれば「編集著作権」の問題も生じます。
③ 公衆送信権の侵害(法第23条)
元のサイトを介さず、アプリ内で他人のレシピや写真、動画を閲覧できる状態にすることは、著作権者に無断で「公衆送信」しているのと実質的に同じです。
「引用(法第32条)」が成立しない理由
日本の著作権法で引用が認められるための要件(明瞭区別性、主従関係、必然性など)を、今回の機能はクリアできていません。
・自分のコンテンツが「主」で引用が「従」であること。(→他人のレシピが「主」)
・引用の必然性。(→アプリ内で閲覧可能にすることに必然性は認められにくい)
まとめ:これからのAI共生ルール
クックパッドは批判を受け、「機能の仕様も含めた見直し」を表明しました。 (参照:クックパッド公式声明)
この問題は、AIがいかに便利であっても、「元となるコンテンツを生み出した人への敬意と利益還元」が置き去りにされてはならない、という教訓を私たちに示しています。技術の進歩は止まりませんが、それを使う側の倫理と法的なリテラシーが今、試されています。
弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
翻訳家、執筆家、弁理士(奥田国際特許事務所)
株式会社インターブックス顧問、バベル翻訳学校講師
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)英検1級、専門は特許翻訳。アメーバブログ「英語の極意」連載、ChatGPTやDeepLを使った英語の学習法の指導なども行っている。『はじめての特許出願ガイド』(共著、中央経済社)、『特許翻訳のテクニック』(中央経済社)等、著書多数。
