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観覧車・靴下・マシュマロ|せりふ三題噺

▼今週のお題
◆セリフ
「あれ?亀?」
◆三題
・観覧車
・靴下
・マシュマロ


◆突拍子もない出来事,というのは,意外に起こるものである。
「それはまあ,昔からそうだったわな」
と,甲羅から首だけ出したデッカい亀が言った。
「あれ? 亀? なんでうちに亀がいるのかな。
……はっ,これもまた『突拍子もない出来事』?」
「何を言うとる。ワシだ,エヌ爺だ。コタツに潜り込んだジジイを,亀と間違えるヤツがあるか。オトボケも大概にせえ,ミドリ」
「爺ちゃん,やっと起きたんだ。コタツなんかで寝てると,ますます干からびて,ミイラになっちゃうよ。
爺ちゃんの干物なんて,きっと誰も買ってくれないから,見切り品コーナーに直行だ」
「売るな売るな。わざとコタツで寝とるわけじゃないわ。寝落ちしたんじゃ。
そして,それに気づいてそっとベッドへ連れていくのが,家族であるお前の役目じゃないのか。ミドリよ,まだまだ気がきかんのう」
「それはごめんなさい。だけどもう朝なんだから,爺ちゃんにはとっとと起きて,ご飯を済ませてほしい。
それに,もうじき町長が,爺ちゃんに会いに来るよ」
「またあいつか。今日は何の用だ」
爺ちゃんがゴソゴソと動き出す。
「さあ,それは聞いてないけど」
爺ちゃんと町長は長い付き合いらしく,茶飲み仲間の間柄である。憎まれ口は叩いても,仲はいい。年齢はやっぱり,爺ちゃんの方がかなり上らしいが。
コタツまで朝食を運んであげると,爺ちゃんが顔も洗わないまま,もそもそと食べ始める。
「ねえ,しょっちゅう無茶苦茶なことが起こるのって,『この前の大戦争ラストウォー』以来のことじゃないの?」
「そうでもないぞ。
『大戦争』の起こるちょっと前のころだってな,旅客機が乗っ取られて高層ビルに突っ込むわ,思いもかけないところで大地震が起こって人が大勢死ぬわ,絶対の絶対の絶対に安全!ということになっておった施設で事故が起きて周辺数十平方キロメートルにわたって人が住めんようになるわ,風邪の症状を重くしたような出所不明の流行はややまいが世界中に蔓延してこれまた大勢の人が死ぬわ,護衛をぞろぞろ引き連れた首相がド素人にあっさり射殺されるわ,まともな責任能力にすら欠けるようなヤツがなぜか大国のリーダーに選ばれて好き放題やらかすわ,気候の変化で餌がなくなったとかで,熊がぞろぞろ山から人里に下りてくるわ,どこかの国が理由らしい理由もなく突然どこかの国に攻め込むわ,どこかの海峡が封鎖されたとか言って,産業の血液とも言うべき石油が,ある日突然1滴も国に入ってこなくなるわ,突拍子もないことは,毎年何かしら起こっておった。どれも事前には,まったく予測のつかんかったことばかりだ。
……いや,ほんとはその気になりゃ,ちゃんと予測できたはずのことばかりだったのかもしれんがのう」
「じゃあ,そのころも今も,何も変わらないの?」
「もちろん,まったく同じってわけじゃない。
気候は今よりずっと穏やかだったし,人は今とは比べものにならないくらいあちこちに,嫌になるくらいうじゃうじゃとおったわ。
しかし,『大戦争』で文明社会が崩壊した後は,突拍子もないことが,より激しく,頻繁に起こるようになったな。もはや突拍子のないことは,日常茶飯事じゃ。
……たとえばの話,あのマシュマロマンだ」
「ああ」
マシュマロマンは,何の前触れもなく,ある日突然,街に現れた。
朝,西の方から大通りを通って,街を東へ抜けていき,夕方は東から戻ってきて,西へと抜けていく。
海に面していて港を擁する西側のコミュニティの住民によれば,マシュマロマンは毎朝海の中から現れて上陸し,毎晩海へと帰っていくのだという。
東のコミュニティの住民によれば,いつも山へと入っていって,その先でどこまで行っているのかはわからないそうだ。
マシュマロマンは巨大で,10階建てのビルよりも背が高い。が,重量は大してないようで,舗装道路の損傷は,ほとんど見られない。
ただ,身体を構成するマシュマロのようなふわふわした物質が,どんどんちぎれては後に残されるのが,邪魔っけなだけだ。
毎日マシュマロマンが通る大通りには,路面に白いふわふわが少しずつ溜まってきている。
西のコミュニティーでは,どこかの馬鹿のポイ捨てタバコで,ふわふわに火がつき,けっこう洒落にならない規模の火事が起こったという。
「何とかしねえとな,あのふわふわは。このままじゃ,うちでもそのうち,同じことが起こるぞ」
町長が渋茶をすすりながら,ため息をついた。
「何とかってお前,どうすんだよ。ブービートラップでも仕掛けて,デカブツを足止めすっか?」
「いや,アレの正体もわからんのに,怒らせるようなことはしたくない。
白いふわふわ以外,特に害になるようなこともしてないしな」
「じゃあ,どうする?」
「そこで,この町中の修理屋たちの元締めであるあんたの出番だ。百貨店の上に,観覧車があるだろう」
「あるな。もちろん,とっくに動いちゃいないが」
「あれをな……あんたに動かしてもらいたいんだ」
「何だって?」
「観覧車の上の方なら,何とかマシュマロマンの頭のあたりと同じ高さになる。そこまで上がって,メガホンで精一杯呼びかければ,俺らの声がマシュマロマンの耳に届くんじゃないかって思ってな」
「耳……? そんなもんあったかな,あれに」
「まあ,駄目で元々だ。観覧車にロープやらをかけてよじ登ることもできるが,例の突風がいつ来るかわからんしな」
「『とっぴんぱらり』か。確かに,観覧車に登っとる最中にあれが来たら,たまったもんじねえな」
「だから,通電してどうにか観覧車を動かし,上まで持ち上げてもらった方がいいんじゃないかと思うんだ」
「なるほどなあ」
「どうだ,やってみてくれるか」
「うーん,できるかどうか,実際にやってみねえことには,何とも言えねえな。まあ,成功は保証できないが,それでもよければ」
「もちろんだ。頼んだぞ」
それから,エヌ爺は,そしてもちろん,その下働きである私も,やたらと忙しくなった。
街中の修理屋や何でも屋に声をかけて動員し,巨大な観覧車の錆を落とし,油を差し,部品を取り替え,歪みを直し,切れていた配線をつなぎ直し,同時進行で,電源の手配もした。太陽光と風力を合わせてもまだ足りないので,新型風車の開発までやった。
結果として,ダメ元だった観覧車大作戦は……なんと,見事にうまく行ってしまった。
ピルとビルの間にロープを張って,マシュマロマンの動きを止めた上で,観覧車の上からメガホンで声をかけたところ,帽子の部分が開いて,中から人が出てきたのだ。
かくして,我々はマシュマロマンの「中の人」たちに懸念を伝え,マシュマロマンに一種の「靴下」をはかせてもらうことで,ふわふわ公害を収束させることに成功した。
ちなみに,あのふわふわは,うっかり誰かや何かを踏み潰すようなことがないように,という,やさしい配慮の元に選択された素材だったそうだ。
そして……,我がコミュニティーは,(たぶん)世界で唯一,「稼働中の観覧車」がある街として有名になり,私たちの街には,観光客が押し寄せるようになった。
私の仕事は,エヌ爺の手伝いから,観覧車の運営ということに変わり,驚くほどのお金が流れ込んでくるようになり,てんやわんやになっていくのだが……それはまた,別のお話。


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