推し活と串カツ,どっちにするの?|アマノ文筆クラブ
◆まあ,おかしいとは思ったのだ。
「推し活・命」を公言してはばからない鈴香が,アニメが原作の2.5次元とやらのミュージカルを観た後,出待ちもしないで,さして仲がよいわけでもない姉の私と落ち合い,串カツ屋で乾杯とか。
そう,串カツ屋! 鈴香がネットにアップするのは,たいていSNS映えのする小洒落たビストロの類か,よくわからない,話題の「創作料理」やら「何とか喫茶」みたいなのばかりである。よりにもよって,何の変哲もない串カツ屋に鈴香……! まったく,場違いにもほどがある。
何か相談事でもあるのかと思ったが,ちょっと顔が見たくなって,などと,柄にもないことを言う。お互い,見ずに済めばそれに越したことはない顔なのだ。鵜呑みにしろと言う方が無理がある。
そのくせ,どこか上の空で,ろくに人の話を聞いていない。何やらブツブツ早口で呟きながら,普段にも増して,スマホばかりチェックしている。
かと思えば,店の大将やバイト店員,果ては相客たちにまで話しかけて,無邪気な天然娘を演じ,イジられてははしゃぎ,1人で盛り上がってる。
……久しぶりに見たな,鈴香の「ニセ陽キャ」モード。何だこれ。もう帰っちゃおうかな。
とか思っているうちに,鈴香が後から来た若い男子の2人組にさかんに絡みつき,しまいには勢い余って,私を引き連れて,カウンターの隣の席まで押しかけてしまった。
ナンパ狙い,っていうか,まさかの逆ナン?と思ったが,その2人はそれほど長居せずに,サワーを2杯ずつ飲んだら,お行儀よくサクッと帰って行ってしまった。
鈴香はがっかりしているかと思ったら,意外にもニコニコしている。
「将を射んと欲すれば,って言うでしょ。
啓太郎君はダメだったけど,連れの人とは,ノリでメアド交換できちゃった。さあ,攻めるぞー,ここから」
「ん? 鈴香,今の知ってる人たちだったの?」
「うん,今日観てきたミュージカルで,私の推しを演じてる役者さんと,もう1人は,彼と仲良しのスタッフさんだよ。はー,ドキドキしたー。
私,3次元は守備範囲外だったんだけど,何度も観てるうちに,なんかいいなーって思うようになっちゃって。
公演期間中は,よくここで一緒にチルアウトしてから帰るって,スタッフさんのブログに書いてあったの。昨日は雑用で寄れなかったみたいだから,今日はきっと来るはずと思って,張ってたんだ」
なんと,推し活を捨てて串カツを取ったかと不審に思っていたが,実は串カツが推し活の一環だったとは!
「……あー,ファンだってことは,敢えて伏せておいて,普通に『出逢う』作戦だったのか。それで怪しまれないように,先に来てはしゃいで,お店に馴染もうとしてたのね。私はまんまと,ダシに使われたってことかな」
「ごめんね,お姉ちゃん。でも,せっかくブログの画像とかから,頑張ってお店を割り出したのに,同担の友達を誘って,せっかくのアドバンテージ潰すわけにもいかないでしょ?
その点,お姉ちゃんなら趣味も違うし,地味だし人見知りだし,だいたい私の方が可愛いから,間違っても啓太郎君横取りされるような心配もないし。お姉ちゃんと並ぶことで,私の魅力も3割アップなのだ!」
「ひどいなあ,鈴香」
……まあいい。啓太郎君とやらは店内でもキャップもサングラスも取らなかったから,どんな顔やらよくわからなかったが,連れの方は無防備だったから,顔はバッチリ覚えた。
ネットでじっくり検索して,スタッフ君のブログとやらを見つけたら,親切ごかしに鈴香の根性の悪さと腐女子っぷりを,あることあること,洗いざらい吹き込んでやる。
陰キャは敵に回すと,恐いのよ。
姉をナメてかかるとどんな目に遭うか,そろそろあんたに思い知らせてやんよ,鈴香。
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