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レンタルできるお店

その店は郊外の雑居ビルの2Fにあった。
どこの街にもあるような雑居ビルだ。
壁が薄汚れていて、窓ガラスがとりあえずはまっていて、近くに立つ電柱にはカラスが何羽かとまっている。
そう、いまあなたが想像したような雑居ビルだ。

私がチラシで膨らませたイメージとは全く違っていた。私はなぜだかカラオケルームのようなものを想像していたのだが。

私は手に持っているチラシ見る。
店は2Fらしい。
階段を登ると看板らしきものが見えた。
『レンタルの店』とある。

意を決して店内に入ると、待ち構えたように店の入り口に男は立っていた。その男は燕尾服のような奇妙な格好をしていた。背は高く、ヒョロリとしていて、顔は浅黒く日焼けしていて、綺麗なシワが顔全体を覆っていた。

「どうぞこちらへ」と男は目にシワを寄せて優しく微笑み、私を部屋の奥に案内した。部屋の中は10畳くらいの雑居ビルによくありそうな空間だった。無機質な白い壁に無機質な天井。そこに酸素カプセル風のベッドが一台とイスが2足、それとオーディオ装置のような機械があった。

「ここに来たということは、恐らくご存知だとは思いますが、この店は亡くなった人の才能をレンタルすることができる店です。効果はだいたい一か月ほど続きます。だんだん空気が抜けていくみたいに、その効果は無くなっていきます。そして、この施術はできるのは一回こっきりです。」

私は頷いた。

私は兄さんに憧れていた。
10歳年上の、優しく才能溢れる兄さんに。

でも兄さんは突然死んでしまった。
自殺だった。
なんで自殺したのか分からなかった。
遺書すらなかった。

兄さんは私と違って優秀だった。
私と兄さんはとても仲がよかった。
10歳離れていたせいもあるかもしれない。
とても面倒見が良く、勉強や絵の描き方を教えてくれた。
でも私は兄さんの様にはできなかった。
当然、親は兄さんと私を比べた。

私はベッドに案内された。
その時、私の目を覗き込むように燕尾服の人が言った。
「お兄さんですね」
「そうです」と私は内心驚きながら言った。
なぜ分かったのだろう。私は何も言ってないのに。
燕尾服の男は微笑んだ。
「それでは横になってこのヘッドホンをつけてください。お兄さんの事を考えてください。どの様な人だったか」
絵が上手かった。勉強もできた。
それに引き換え私は。

「しばらくすると音が聞こえてくると思います。音が聞こえなくなったら施術は終了でございます。個人差はありますが、効果は1ヵ月ほど続きます。」

私は兄さんになった。
見える景色が全く違った。
全てが色鮮やかに見えた。
これが兄さんの見ていた景色。
これが才能。

この景色は私がいくら努力したって手に入らなかっただろう。

私は家に帰って、試しに絵を描いてみた。
私が思った通りに絵を描いた。
ただそれだけで素晴らしい絵が描けた。
やはり才能なのだ。
生まれ持った才能なのだ。
私が努力しても足元にも及ばない、圧倒的な能力。

絶望。

私は、絶望する。

才能のない私は生きている意味なんてないのではないだろうか?

「そうだ」

才能のある人間はなんで早く死んでしまうんだろう。

「生きている意味なんてない」

生きている意味なんてない。

「そうだ、生きている意味なんてない」

じゃ、なんで人は生きるの?
兄さん。

「なぜだろう?」

生きている意味はないのになぜ生きるの?

「生きている事に意味を見出すのが人間だからだ」

私には何も無い。

「生きていればそのうち分かるよ、何も無い人間なんていないよ」

私は気がつくとベッドに突っ伏して泣いていた。
兄さん?
兄さんだったのだろうか?
私は夢を見ていたのだろうか?
兄さんが発した言葉は雲のように、私の頭の中に浮かんでいた。

今の自分には何もない。何もできない。
兄さんのようにはなれない。
でも。
私は生きて行こう。
生きていこうと思う。

ありがとう兄さん。




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