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陰キャとギャル【出会い編】

私は人も環境も悪かったブラック飲食店を辞め、職業訓練校に通うことにした。
私は公務員系の専門学校に通っていたので、これといって仕事に繋がるような何かを身につけていないため、何かスキルを習得したかったのである。
という面接のテンプレのような建前を置きつつ、本音は「勉強しながら金貰えるとか最高じゃーん」という浅はかなものであった。

数ある訓練の中から私はWEBデザイン系の訓練校を選んだ。
理由は様々あるが、興味がある分野だったことに加え、学校が自転車で5分くらいの距離にあったことだ。
5分。
一番煩わしいと言ってもいい通学の時間が5分ということでここを選ばない選択肢はなかった。

面接は「勉強しながら金貰えるとか最高じゃーん」という雰囲気をまるで感じさせない態度で臨み、無事合格を勝ち取った。
面接は終始和気あいあいとしたムードで進み、これで落ちたら人間不信確定なくらいだった。

いざ登校しクラスメイトと顔を合わせると、デザイン系ということもあってか男性は自分を含め16人中3人のみで、席は教室後方に追いやられていた。
なるほど男は男で女は女で仲良くなれということか。

その頃の私は、今までの受け身スタイルから脱出しようとクラスの人全員と仲良くなる計画を立てていたが、ほとんど女子というのは聞いていない。
しかも男性は二人とも私よりひと回り歳上という風格が出ている。
はい、ここで私の計画は終わりました。
クラスの端っこで黙々と勉学に励む陰キャになりまーす!と心の中で高らかに宣言する。

すると急に前の方から、カツカツカツッ!と威圧的な音が聞こた。
そこには、髪こそ黒髪なものの、ド派手なネイルを付けたギャルがいた。
黒髪なのにギャルと認識できたのは、その派手なネイルもあるがなんというか存在の雰囲気がギャルだったのだ。
これに関しては後からの記憶の補正も強いかもしれないが。
その派手なネイルから繰り出される打撃音に、私はすっかりと委縮してしまっていた。

カツカツカツカツと、ネイルと画面が激しくぶつかり合う通常では耳にしない打撃音。
まるでパン屋のトングで威嚇するときのような、部屋に入り込んだカナブンが何度も窓ガラスに突進しているような、打撃音。
ギャルのスマホに同情の気持ちを向けながら、目を付けられないようになるべく目立たないように過ごそうと固く誓った瞬間だ。
しかしその誓いというのもあっさりと破られることになる。
しかもあろうことかそのネイルカツカツギャルによって。

授業をする前に自己紹介の時間があった。
本当に過去の学生生活を彷彿とさせるような響きだ。
しかし学生とはわけが違いここにいる人たちは皆一度社会に出た人間たちである。
自己紹介でもレベルが違う。
ただの自己紹介ではあるのにそのきちんと自分を紹介しつつ、冗談なども交え場を温める皆に対し、カスみたいなことしか喋れない自分は戦々恐々としていたわけだが、そこでギャルの順番になった。

彼女は自身をギャルと自称しとても明るく自分を紹介していた。
その喋り方や内容は真面目ではあったのだが、なんというかテンション感はギャルであった。
「人と話すのが好きなのでいっぱいお話をしたいです!」という解釈一致すぎる言葉と、そしてひとつ、気になる趣味を語っていた。

「建物のつくりなどを観察しながら、散歩するのが好きです!」

ギャルなのに建物のつくりを見たり散歩をするのが趣味とは渋いな、という驚きがあったことをよく覚えている。

そして自分の順番では、ウケ狙いとも言いにくいような、自称真面目そうな自分が少しちょけて見せたのだが無事にスベり倒す。
大丈夫、想定の範囲内。
まだ慌てるような時間じゃない。

そしてギャルは言葉通り、休み時間にいろんな人に話しかけていた。私は席こそ近かったが、話しかけられることはなかった。
彼女は天真爛漫なギャル、まさに陽といった感じだ。
一方の私は言わずもがな陰という感じ。絶対に交わることのない存在なのだ。

そう思っていた矢先、授業でグループワークが行われることになった。ギャルとは同じグループであり内心少し怯えていた。
それもそうだろう、先ほどカツカツカツと威嚇音のようなものを発していたギャルだ。いくら明るいとはいえ身構えてしまうのもしょうがないだろう。

そのグループワークでは、自分がデザインがよいと感じたサイトを他の人に見せる、というものであった。
ギャルは他の人の発表を、「すごーい!」「めっちゃいい」のように明るく、しかし取り繕っていない素直な反応を見せていた。クラスメイトの年齢がわからないため「いいですね」などと敬語を使っている自分とは大違いだ。

ギャルの発表の番となった。
どうせギャルは雰囲気やノリで生きているし「これがやばくてー」みたいなギャルっぽい発表なのだろうと、期待にも似た感情を抱いていると、それはあっさりと裏切られた。

「私はこのサイトの~な点が~で良い作りだと思い、さらに~」とすらすら述べ始めたのだ。
私は驚きを隠せなかった。
比べるものではないのだが、私より圧倒的にサイトの分析と言語化が上手いのだ。
「ギャルはノリで生きている」と失礼な偏見を抱いていた自分をぶんなぐってやりたい。

他のグループワークの際もギャルは自分の感情の言語化ができており、私はたいそう驚いた。
明るくてノリもいいギャルなのに、発表というしっかりする場面ではちゃんと真面目に、自分の考えを言語化できていたからだ。
このあたりから「ただのギャルではないな」と感じていたのだが、その予想は的中する。

グループワークを通じ話したことで、少し仲が深まり雑談もできるようになっていた。お互いの好きなものなどを開示していく中で、私はアニメを挙げた。するとギャルは思ってもみない発言を口にしたのだった。

「あーしも結構アニメとか見るよ!」

!!!

インターネットで無限に擦られていたような構文が、今目の前にあった。「私も超オタクだよ」の画像が脳裏をよぎる。
しかし私もそれをスッと受け入れるほど素直な人間ではない。
どうせワンピース全巻持ってたり鬼滅を見ている程度であろう。
そんな斜に構えた害悪オタクである私は「何が好きなの?」と聞いた。

「イナズマイレブンかなぁ、あと知らないかもだけどバカテスってやつ!」

!!!!!

やばい、明らかに世代が一緒だ。度肝を抜かれるチョイスにビビり倒しているが、実は私はイナイレを通っていなかった。
しかしあっけに取られているだけでは会話も終了してしまうため、インターネットで得た薄っぺらな知識でこう続けた。
「イナイレって最近新作のゲームも出たよね、それもやってるの?」と。

「あ、いや、あーしは面倒な厄介オタクだから新しいの受け入れてないんだよね~、3DSのときのやつ今もやってる。」

!!!!!!!!!!

新規お断り古参厄介オタクだ……!
もうそんなのオタクじゃん!と思いつつも見た目とテンションの圧倒的ギャル感に頭がバグりそうになる。
そのバチバチのネイルとイナイレ厄介古参オタクが両立してたまるか!という差別にも似た感想を抱きながら、ギャルとの会話を終える。

あれ…まてよ。

一人称「あーし」じゃなかった?

「アタシ」とか「ウチ」とか「下の名前」じゃなく。
一人称あーしのギャルってオタクの妄想じゃなく実在したんだ……!
結構アニメ見るよ発言に気を取られて気づくのが遅れたが、あーし呼びもなかなかのものである。

人生で初めてギャルとコミュニケーションを取ったが、これほどまでに情報量が多く面白い人間はいない。
今の時点で「一人称あーし厄介古参オタクギャル」とかいうとんでもない情報量である。
しかしこれはギャルの情報の氷山の一角、いや、その氷の表層にすら達していなかったことがこれから証明されるのである。

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ここまでお読みただきありがとうございます。
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そして、「そんなギャルいるの……?」と思った方も多いでしょう。
実際私も友人にこの話をしたときに、「お前の妄想のギャルだろ」と嘘つき扱いされていました。

いるんです!!!!!!!!

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