ふかふか生地と過ごす夜
かじかんだ手でハンドルを握りながら、
陽がとっぷり暮れた帰り道に車を走らせる。
数ヶ月前はまだこの時間でも明るかったのに、
すっかり陽が短くなったなぁと感じる。
まぁ、もうすぐ冬至だしなぁ…
そんな事を考えていると
ライトが照らす視界の端に、
コンビニの明かりと風に揺らめくのぼりが見えた。
『中華まんセール 10%オフ』
心動かされる文字が後ろへ過ぎ去っていく。
いやいや運転に集中しろ。
だけど…
その時私の頭は、
「中華まん食べたい」でいっぱいになっていた。
***
中華まん、といえば懐かしい記憶がある。
私がまだ5歳くらいだったころ。
風邪でひとり留守番することになった時の話だ。
母が「何か食べたいものある?」と聞いてくれて、
私は「肉まん」と答えた。
30年以上前のあのころ。
子どもの私にとって、
中華まんはちょっと特別な存在だった。
だから消化にいいかはともかく、
元気になれそうな気がしたのかもしれない。
買ってきてもらった肉まんのふかふか生地。
じゅわっと口に広がる肉汁。
たけのこの歯ごたえ。
しいたけの香り。
玉ねぎの甘み。
それらが合わさった、あん、の美味しさったら。
温かいうちに食べたい。
だけど無くなっちゃうのが惜しい。
そんな気持ちで、肉まんを頬張ったあの日の思い出。
なぜか忘れられない、そんなエピソードだ。
***
そんな私の「中華まん食べたい」はというと…
結局数日持ち越され、やっとやってきた休日。
せっかくならお腹いっぱい食べてやると思って肉まんを手作りすることにした。
小麦粉に砂糖やイースト、水などを混ぜてこねて、生地を寝かせる。
その間に豚挽き肉やみじん切りの玉ねぎ、調味料を加えてあんを作る。
蒸し器にお湯を沸かす。
水滴が落ちないように、蓋に蒸し布をつけるのを忘れずに、っと。
お湯が沸くまでの間に、寝かせた生地であんを包む。
隙間ができないように閉じ目はしっかりと。
肉汁がこぼれたらもったいない。
蒸し器から湯気がもくもくと立ったら、
やけどに気をつけてふたを開け、
包んだ肉まんを並べる。
キッチンタイマーをセットしたら、
いそいそと第二弾で蒸す肉まんを包む。
出来上がりまでの時間に、空いたボウルやスプーンを洗う。
時間よ、早く、すすめ。
キッチン周りをほぼ片付けてお皿を出していたら、
いい頃合いでキッチンタイマーが鳴った。
火を止め、蒸気に気をつけながらふたを開ける。
ふわぁっと湯気が立ち上る。
そこに並ぶのが一回り大きくなった肉まんたち。
ああ、美味しそう!
でも今触ると激アツなので危険。
トングで取り出し、触ることができる熱さまで待つ。
その間に第二弾の肉まんたちを並べ、再度キッチンタイマーをセット。
さて。
くるりと私は向き直り、
中身の確認とばかりに、
早速キッチンで肉まんを割る。
中から、いい香りの湯気が立ち上る。
自家製だからこその具沢山。
生焼けでないことを確認し、
料理人の特権で口に運ぶ。
うんうん。
ふかふか生地と絶妙な、あん。
これだよこれ!
もぐもぐと肉まん頬張りながら、
「中華まん食べたい」が消化されたことと、
大満足の仕上がりに、
思わず笑みがこぼれた。
盛大な味見が終わったところで、
黒いお皿に肉まんを並べる。
寒い冬にはふかふか生地の肉まんで、
心も体も温めようか。
第二弾ももうすぐ蒸しあがり。
懐かしい記憶とともに
ふかふか生地と過ごす夜はまだまだ続く。
