【現場から】病院によって違う腎臓食
以前総合病院で勤務していたある日。管理栄養士として別の病院で働いている友人と話していた時、腎臓食の話になり、思わずお互い声が出ました。「病院の方針によってこんなに違うんだ」と。うちの病院が間違っているのか、友人の病院がゆるいのか——そんな疑問が、このコラムを書くきっかけになりました。
腎臓食に基準はあるの?
私が以前勤めていた病院では、腎臓食に生果物は絶対に出さなかった。それどころか、ジャガイモ、小魚、汁物まで提供していなかった。
腎臓食の基準となるガイドラインはあります。ただし「ジャガイモを出さない。」とは書いていません。
腎臓食の根拠となるのは「CKD診療ガイドライン2024(日本腎臓学会)」です。
これが示すのは、カリウムやリン、たんぱく質などの「1日あたりの摂取量の数値目標」です。
腎機能のステージ別に目標値が設定されていました。ステージはG1〜G5の5段階で、G3以降から「慢性腎臓病」として食事管理が厳しくなってきます。数字が大きいほど腎機能の低下が進んでいることを示す。
カリウムはステージG3bで1日2,000mg以下、G4〜G5では1,500mg以下が目安。血清カリウム値は4.0〜5.5mEq/L未満に管理することが推奨されており、これを超えると不整脈や心停止のリスクが高まります[1]。
リンも同様に、たんぱく質制限をしっかり行うことで自然と抑えられるとされており、小魚や乳製品はリンが多いため注意が必要な食材です。しかし「何の食材を使うか・使わないか」という食品リストではありません[1]。
施設により食事提供の内容が違う
私が勤めていた病院では、カリウムやリンが多い食品は献立から完全に排除していました。ジャガイモの代わりに春雨、生果物の代わりに缶詰の実(缶汁を切ったもの)、汁物は一切なしで1品別のおかず。「高カリウム血症は命に関わるため、誤食リスクをゼロにする」ということでした。
一方、友人が勤める病院では生果物を半量で提供していました。「食べる楽しみを奪いたくない」「過度な制限は食欲低下や低栄養を招く」という考え方があったようです。実際、入院中の患者にとって食事は数少ない楽しみのひとつでもあります。
どちらが正しいか——というのは、施設ごとの戦略だったのだと今は思います。
ガイドラインが示すのはゴールの数値であって、そこへの道のりは現場に委ねられています。
カリウムはゆでこぼしや流水にさらすことで含有量を減らすことができ、果物も缶詰の実はカリウムが少ない。野菜は小さく切ってゆでこぼすだけで数十%カリウムを落とせます。こうした「調理の工夫で量を確保する」方法を栄養指導では患者さんに伝えていました。ガイドラインも「管理栄養士を含む医療チームのもとで個別に対応すること」を推奨しており、画一的な除去より患者の血液データに基づいた判断が本来の姿です。
「なぜこの食事なのか」を伝えること
今振り返ると、友人の病院食の話を聞いたときの違和感は、間違いへの驚きではなく、自分が当然だと思っていた方法が唯一の正解ではないことへの気づきでした。
ガイドラインはゴールを示す。しかしその道のりを設計するのは、現場の管理栄養士と医師のチームです。だからこそ、患者やその家族には「なぜその食事なのか」を伝えることが大切だと、現場での経験から強く感じています。
【参考文献】2026年5月20日閲覧
[1] 日本腎臓病:CKD診療ガイド2024
[2] 文部科学省:日本食品標準成分表(八訂)増補2023年
