掌編小説|エビフライと春の約束
寒い日はしばらく続き、アパートの軒から滴る水が凍って小さなつららになっていた。
雪はやんだが、周りには雪が解けずに残っている。そして、私が吐く息は雪のように白かった。
こんな日でも電車は動いているらしい。
(お弁当は……ふたつ。エビフライも入れた)
私は今朝作ったお弁当のことを思い出す。気がつけばコンビニでお弁当ばかりになっている遥輝くんのことが気になり、こうしてたまにお弁当を差し入れる。彼が好きなエビフライを今日は入れたのだ。あと、甘めの卵焼き。
自分はこんなにも世話焼きだっただろうかと自問する。けれど、彼の素顔を知るにつれ、放っておけないという想いが募るのに時間はかからなかった
――昼休み。休憩室の奥で彼はコーヒーを飲みながらぼんやりと遠くを見ていた。
私は彼にお弁当の包みを見せるように声をかける。
「はい、忘れ物……というか、差し入れ?」
私は少しおどけた口調で彼に話しかけると、振り向いた彼がぼんやりとした表情から次第に微笑む。
「お弁当……ですか?」
「作ってきたよ。――今日はエビフライと卵焼き入りです!」
遥輝くんの目が丸くなり、子犬のように輝いている。
私は自然と隣の席に座り、お弁当を広げる。
「卵焼き……甘い、美味しいです! エビフライも」
「前、甘いのが好きって言ってたでしょ? ……だから、作ってみた」
彼が、ぽつりと呟く。
「侑里さんの料理がいつも食べられたらいいのに」
私はぷっと吹き出しそうになる。そして、試すように呟く。
「じゃあ、一緒に住む? ちょうど三月で今のアパート、更新だから」
冗談めかして口にしたはずなのに、喉の奥が引き攣れるほどに鼓動が速まる。
彼は驚いたように私を見つめた後、ふっと、これまでにないほど深く優しく微笑んだ。
「俺の部屋、物がないので、侑里さんの推し活祭壇を持ってきてもスペース、ありますよ。――うちに、来ませんか?」
突然の提案に私の心臓が飛び上がるかのごとく跳ねる。そして、休憩室を流れる空気の音が急に止まったような気がした。
「……え?」
「だから、一緒に住みましょう。春からでも……すぐにでも構いません」
いつもより真剣な彼の眼差しに、私は言葉を失い、顔だけが熱を持つ。
ただ、こくこくと頷くと、彼の頬がふわりと緩んだ。
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