赤いスカーフが結ぶ未来【ゆるっとリレー小説1年A組|書く部スピンオフ・最終話】
以下、こちらの企画に参加しています。
皆既月食の日から、あたしたちの日々は慌ただしく過ぎていった。
みんなで皆既月食を見たその夜からあたしは不思議な光景をふっと見るようになった。
――病院の病室に寝たままの啓太と、啓太を見守る看護師のあたし。
あたしは、その度に胸がぎゅっとなる。
もしかして……。
あの猫は――。
考えて思わずあたしは首を振った。
でも、気になるのは灰色の毛をした不思議なあの子。
そうだ、あの灰色の不思議な猫、あの子は何かを伝えたそうにしていた。
あたしは、カバンの中から赤いスカーフを取り出し、ぎゅっと握りしめた。
あの子の行動を思い出す。初めから全てを知っているかのような動き。
そして、あの子が消えて、皆既月食が終わってから見る不思議な光景。
何か、意味があるような。そんな感じだった。
多分、教室で見つけたあの箱は、あの子が――。
あの子を初めて見たのは教室。そこから全てが始まって、あたしは啓太と……。
想いが伝わった瞬間、あの子は消えた。
タイムリープ。
そんな言葉を聞いたことがある。
それなら、あの子のすべてを知っていたような行動も全部納得がいく。
もしかしたら、あの子は未来から来たあたし――啓太に想いをお互い伝えられないままいた未来の、あたし。
時々見る不思議な光景も、思いを伝えられなかった未来のあたしと啓太の姿。
――あの子は、あたしたちに何かを伝えようとして、やってきたんだ。
そう思った瞬間、あたしは胸が締め付けられるようだった。
手にしたスカーフをもう一度握り直した。
その時――。
「――本当に、よかった」
誰かの声が、かすかに響いた。
*
卒業式。
ポツポツと桜が咲き始めた道を、あたしは歩いていた。
あたしは、第一志望の工芸大に合格し、啓太も希望していた宇宙科学系の大学に合格した。
あたしたちは、それぞれの道を歩いていく。
カバンにはお守りのように結ばれた赤いスカーフが揺れていた。
卒業式を終えたあたしは、啓太のもとに駆け寄った。
「――合格おめでとう、お互いにね」
「……ほっとした。浪人覚悟だったから」
あたしたちはお互い顔を見合わせ、笑いあった。
これから、あたしたちの未来が始まる。
空からこぼれる日差しがキラキラ輝いているようだった。
*
――2032年4月25日。
大学を卒業したあたしたちは一緒に住んでいる家のベランダに天体望遠鏡をセットしていた。
今日は、あれから7年。また皆既月食が見られる。
ベランダにテーブルと椅子、そして飲み物を用意して。
二人でここにいられることを改めてあたしは感謝した。
「今度は南の空。――おとめ座の方向」
啓太がつぶやいた。
「啓太」
「ん?」
「ありがと、あたしと一緒にいてくれて」
啓太はふっと微笑む。
長い間一緒にいるけれど、あらためて一緒にいられることを噛み締めた。
少し古びた赤いスカーフが、それを思い出させてくれる。
「――あ、始まった」
今度は、ふたりで声を上げて天体ショーに見入っていた。
7年前の不思議な出来事を胸に刻みながら――。
《終》
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