短編小説|この眼鏡、合ってない
数年ぶりにメガネを新調した。ぼんやりとしていた視界が急に輪郭を持つ。
いつもと同じ店で、同じようなデザインのメガネを買ったはずなのに今日は何かが違う。
私はその場でキョロキョロと周囲を見渡す。すると、何故か人の輪郭に色がついている。
輪郭を持ったものは、世界だけではなかった。
ある人は青、また別の人は赤。だいたいの人は赤か青どちらかに寄った紫。
人の輪郭の色はくるくると変わっていく。青い輪郭がだんだん躊躇いがちに紫に変わっていったり。その逆もしかりだ。
私は不思議に思い、しばらく周囲の会話に耳を傾けてみることにした。
すると、私の心が次第に凍りついていく。と同時に輪郭が何を表現しているのか少しずつすとんと理解した。
幸せそうなカップルは赤い輪郭か曖昧な紫色をしている。一見険悪そうな夫婦は澄んだ青。
(あのカップル、実際はやばくないか……?)
幸せそうなカップルを見やると、女性の方は赤から、時々澄んだ青色の輪郭を持つ。対して男性は、どす黒いほどの赤、時々、赤紫。
一見険悪そうな四十代ほどの夫婦は澄んだ青色から濃い青色を行ったりきたりし、変わらない。
カップルの女性の気持ちを考えると、胸が軋むように締め付けられるが、忠告もできない。忠告したとて、ただの「変な人」で終わるからだ。
一見険悪そうに見えても、長年一緒にいるのだろう。口調は荒く、雰囲気もピリピリしていても、絆があるのだろう。だから青く輝いているのだ。
「優佳、眼鏡受け取り終わった?」
眼鏡屋を出たところにあるショッピングモールの吹き抜けが見えるベンチに座っていると、彼氏の修平が戻ってきた。
私は、ゆっくり頷き、彼の方を向く、そして立ち上がる。
彼の輪郭が青く輝いていることにほっとする。
ふと自分の手を見ると、私の輪郭は赤紫色をしている。
(あれ……? なんでだろう?)
それに気がついた時、私は自分の中の輪郭が段々曖昧になっていた。
(私の修平に対する気持ちが――わからない?)
私の胸がふっと曇る。
同時に、彼に対する申し訳なさが募る。
修平が、心配そうに私の顔を覗き込む――青い輪郭のままで。
「優佳? 具合でも悪い?」
私はゆっくりと首を振る。
(今度、この眼鏡のレンズを交換してもらおう。度が合わなかった、とか言って)
私は修平の手を取り、ショッピングモールの雑踏に踏み出した。
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