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掌編小説|旅行先はサプライズ

 始発の特急電車は、なぜか特別な空気をまとっている気がする。
 窓の外は、朝と夜がないまぜになったような風景が見え、瑠璃色から淡い橙色に変わろうとする光が差し込む。
 
 そして、私の胸の内も、言葉にしがたい感情がないまぜになっていた。

 「……なんで今日なんだろうね?」

 私は頬を膨らませ、横にいる彼を見る。
 遥輝くんはふっと笑い、私の方を見返す。

 「一緒に住むなら、ご挨拶しないと」
 「まぁ、そうだけど……」

 温泉旅行のはずが……いや、私の実家は温泉地だ。
 旅行って、私の実家――?
 
 「旅行先って、私の地元だったの!?」
 
 彼は笑いながら話す。
 「……黙っていてすみません。ちゃんと旅館は予約しています。どうせならと思って」
 私は頭を抱える。いや、突然のことで実家に何と連絡しようか。

 「ちょっとデッキに行ってくる。実家に連絡する」

 フラフラと席を立ち、特急電車のデッキに出た私は、カバンからスマホを取り出す。

 「お母さん? 突然ごめん。今日旅行で近くまで行くから、寄るね。……ちょっと、話があって」
 「何? 

 一瞬うっと言葉に詰まる。母は昔から鋭い。言う前から見抜いていた。
 私はしどろもどろになりながら、言葉を返す。

 「ま……まぁ、そんなとこ。お土産持って行くから」

 張ってあるカイロは熱を持っているはずなのに、背中が冷たくなる。
 席に戻る時、ちらりと推しキャラが載った確定申告のポスターが見える。
 
 (こういうのってポスターだけ欲しくなるよね)

 私は口角を僅かに歪めながら、座席に戻る。
 遥輝くんが私の方をちらりと見、缶コーヒーを差し出す。

 「ありがと。……実家、今日オッケーだって」
 そう言うと、彼の顔がぱぁっと晴れる。
 
(挨拶に行くことになるなんて――思ってなかったけど)

 地元に降り立った時、乗車した時は瑠璃色だった外の光は白く、高く降り注いでいた。
 
 「……地元、案内する」
 私は、彼にそう呟き、背を向けた。
 突然の出来事に、胸の鼓動だけがうるさく響いていた。

 ――また、彼にしてやられた気がする。


こちらのお題に参加しています。

サプライズは程々に。

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