掌編小説|十年越しの第二ボタン
カタリ、と駐輪場で絡まった自転車を取り出す。駅前のスーパーのたい焼き屋からは香ばしい焼きたての香りが漂ってくる。
卒業十周年記念で同窓会が開かれることになり帰省して、昔と同じ行動をしていることに苦笑いをする。
(高校の卒業式の日も、こうやって自転車を起こして、その後――たい焼きを食べたっけ)
あの日は、三月なのに寒々としていた。あいつの、学ランの第二ボタンがないことに気がついて……私の心は、ぎゅっと軋むように締め付けらていた。
好きだとか、思ったこともなかったし……もう会うこともないし。もう十年も前の話だ。
「――琶音?」
十年前と同じようにたい焼き屋で焼きたてを買って、むしゃむしゃと食べていると、声をかけられる。……と同時に苦い記憶が思い出される。
第二ボタンのない学ラン。期待してた訳じゃなかった。――でも、どこかで期待してた。
「……志貴、帰ってきてたの?」
同じ部活の同級生だった冬野志貴。十年経って少し大人びた彼を見て、私は目線を逸らす。
「相変わらず、駅前のたい焼き好きだな」
くくっと笑う志貴に、私は呟く。
「……久しぶりに会って、それ? ちょっと昔を思い出しただけ。――卒業式のこと」
それを聞いた志貴は、少し俯いて、声を落とした。
「……卒業式、渡したいものがあった。……琶音に、あの時声をかければよかったんだ」
「卒業式?」
「琶音、今……彼氏とかいる?」
「いや、恋愛はこりごりだし、誰も――」
そう言って、また視線を落とした私に、古びたボタンが差し出される。母校の校章が、くすんでいる。
「志貴、これって……?」
「卒業式の時に渡そうと思ってたやつ。誰にも取られないようにって、先に取ってた……内緒だからな」
――!?
私は、十年前の記憶がカチリとはまった気がした。少し、視界がにじむ。
「私、あの時すでに誰かに渡したのかって……思ってた。……バカみたいじゃない、それ」
志貴が急に真剣な目をする。
「……今更かもしれないけど、受け取ってくれますか?」
私の視界はさらに滲んで、志貴の顔なんて見えないけれど、ゆっくりと頷く。
「十年もすれ違って……バカみたいだね、私たち」
志貴が目を細め、微笑む。
「……ホントにバカみたいだな。でも、今から、また始められるなら――」
卒業式で止まった時間が、十年ぶりに動き始めた。
こんな恋愛したかった再会からのアオハル……!
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