短編|桃色の残像、消えない華の刻印
※BLです、若干センシティブな表現があります。苦手な方はご注意ください
🔹あらすじ🔹
――この華は、僕だけのものだ。
幼稚園の発表会、センターで踊る絢斗に目を奪われてから二十数年 。晴矢は、彼という「華」を舞台袖から見守り続けることだけを己に課してきた 。壊したくない友情、隠し通すべき恋心 。だが、雪がちらつく温泉街への二人旅が、停滞していた関係を激変させる 。
宿泊先の旅館を襲った、唐突な停電 。闇と冷気が支配する部屋で、晴矢は絢斗に強く抱き寄せられる 。「ずっと待ってた」――二十数年もの間、互いに「境界線」の向こう側を渇望していた事実が、剥き出しの独占欲と共に溢れ出す 。静寂を切り裂き、晴矢は自らの「華」へ消えない所有の印を刻みつける 。
---
現代恋愛
絢斗は、幼稚園の頃から僕の中ではアイドルだった。
発表会で『桃色片想い』を女子顔負けに踊っていた。しかも、センターでだ。六歳にして僕は、その華やかな絢斗という名の花に、惹かれた。
その頃僕はというと、同じクラスだったが、舞台袖に近いポジションでぎこちなく踊っていた。目立つのは嫌いだったし、何より、顔が熱くて、恥ずかしさが先に来て全身が固まるような状態だったのを覚えている。
絢斗と僕は、幼稚園から大学まで一緒。社会人になって会社は違うが週末は飲みに行く、そんな友達関係。少なくとも絢斗にとってはそうだろう。彼は、華があって何よりモテる。クラスでもいつも中心にいた。そんな彼とは対象的に僕は、教室の隅で本を読んでいる。そんな感じだった。
対照的な僕らだったが、大抵いつも一緒にいた。僕の気持ちも知らないで彼は屈託のない笑顔で話しかけてくる。その度に僕の胸は高鳴ると同時に、締め付けられる。
---
高校時代のある日、読書をしようとし体育館の裏の木陰に行こうとして、絢斗と女子の姿が見えた。絢斗の顔が真っ赤になっている。僕はサーッと全身の血が引いていくように冷たくなっていき、胸の鼓動がバクバクと大きな音を立て、奥が軋んだ。
(絢斗はモテる。僕がずっと絢斗のことを好きでいることは……知られないほうがいい)
僕は、身を隠すように移動し、手を強く握った。
突然肩をポンポンと叩かれる。振り返ると――絢斗がにかっと笑って立っていた。
「そこで何してんだよ、晴矢? ……何深刻そうな顔してんだ?」
僕は、顔をぶんぶんと横に振る。
「何でもないよ……ただ本を読もうと思ってきただけ」
絢斗は、怪訝そうな顔をして、僕の方を見た。その視線は、僕が隠してる気持ちまで見抜いてきそうな鋭いもので、僕は一瞬目を僅かに逸らす。そして絢斗はぽつりと声を落とした。
「さっきのあいつとは、何でもねーから。断った」
それだけ言うと、ひらひらと手を振り、校舎の方に向かっていった。
僕は、へなへなと力が抜けるのを感じ、そのまま図書室へ行き、本を読み耽ることにした。気持ちを見抜かれた気がして、胸の奥が、重かった。
---
仕事が終わると、絢斗からLINEのメッセージが届いていた。
『今晩、時間あるか? 仕事終わったら連絡くれ』
僕はさっと返信を送る。
『今仕事終わったけど、どうした?』
送った瞬間、スマホの着信音が鳴る――絢斗だ。
「晴矢? 話がある。急なんだけど今から飲みに行かね?」
「別に構わないけど……なんかあった?」
「いや、ちょっと話があってさ」
僕の心臓が嫌な音を立てる。僕達だってもう三十歳だ。結婚の報告だってあってもおかしくない。最悪な想像が頭の中をグルグル巡り、足取りは重く指定された待ち合わせ場所へ向かった。
到着した時、まだ絢斗は来ていなかった。僕は、最悪の事態が頭に浮かび、ぎゅっと強く目を閉じたその時、頭上から絢斗の声がする。
「悪い。遅れた」
僕はおそらくこの時ぎこちない顔になっていただろう。
ふたりで近くの居酒屋に向かい、奥の席に通され腰を下ろす。週末だからか人は多く店内がざわざわしている。
「……何、話って」
僕は覚悟を決めたように声を落とす。
彼は、「なんでこんなに深刻な雰囲気なのか」というような表情であっけらかんと言う。
「いや、急なんだけど来週の三連休、旅行でも行かね? 先輩が彼女にフラレたってんで、チケットもらった」
「いいよ。連休暇だし」
僕の最悪な想像はあっさりと打ち砕かれた。絢斗と旅行なんて何度も行ったことがあるのに、なぜか心が軽くなって高鳴っていた。
---
旅行当日、新幹線に乗り、旅館がある町まで列車を乗り継ぐ。
ゴーッっという低いエンジンの音にキィキィと線路に擦れる音がする。……そして、揺れる。
列車の中から見える海がキラキラと宝石のように輝いていて、思わず目を引かれる。
そして、僕は、なぜ絢斗がこの旅に誘ってきたのだろうと考えあぐねていた。
彼の目は、どこか遠くを見ている――そんな気がしていた。
揺られているうちに、絢斗の頭が僕に寄りかかってきた。寝てしまったらしい。
僕は、心臓が跳ね上がり絢斗に聞こえてしまうくらいの鼓動を必死で抑えつつ手を握りしめた。
(ホント無防備だな……僕の気持ちも知らないで)
ふっと笑いながら心の中で僕は独りごちる。寄りかかってきた絢斗の黒い髪がさらさらで思わず少し触れる。
窓の外には、わずかに雪がちらついていた。列車の速度が少しずつ遅くなる。
僕の肩に絢斗の頭を乗せたまま、列車は目的地までたどり着いた。
僕は絢斗を起こし、駅の外に出る。目の前にはレトロな温泉街の景色が広がり、看板が少し錆びているのが歴史を感じさせる。
旅館にチェックインし、僕達は部屋に入る。
改めてふたりきりになると、絢斗の顔が直視できない。体全体に熱を持ち、気持ちを悟られないように必死だった。
夜、急に旅館の照明がチカチカし、ふっと消えた。停電か。
「晴矢? 大丈夫か?」
「うん……絢斗は?」
「大丈夫。すぐ直るって」
お互いの姿が見えなくなり、互いの名を呼ぶ。停電で暖房も切れたのか部屋がひんやりと刺すように冷えてくる。
少しずつ、体温が奪われていく。一瞬にして世界から温度と色が奪われたようだった。旅先で停電に巻き込まれるなんて思わなかった――そんな時、急にぐいっと僕の身体は抱き寄せられ、吐息混じりの絢斗の声が落とされる。
「ずっと待ってた。……子供の時からな。なのに晴矢は俺の境界線を越えてきてくれない。なら、今日、越える」
……は?
一瞬、僕は事態が飲み込めなかった。待ってたということは――絢斗も……僕のことを?
「絢斗。ちょっと待って。なら、僕のことを――?」
「ずっと好きだったよ。子供の頃からな。高校の時、晴矢に言ったことを忘れたのか?」
「体育館裏で絢斗が告白されていた後、『さっきのあいつとは、何でもねーから。断った』って言った、あれ?」
「あれで気づかねぇって……」
長い間気づかれないようにと僕が押し込めていたものを、絢斗はあっさりと打ち壊した。子供の頃から一方的に想っていただけだったと思っていた僕の境界線を、いとも容易く、彼はあっさりと越えてきたのだ。
僕は、視線を落とし、ぽつりと呟く。
「……気づかれないようにしようって、僕の気持ちも知らないでと思ってた時間って、何だったんだ」
「晴矢? それって――」
「僕もずっと絢斗のことが好きだった。子供の頃から」
そこまで言い終わると僕の体は熱を帯び、心臓が締め付けられる。
ふっと部屋の明かりが点灯する。
「子供の時、発表会の舞台の隅っこでぎこちなく踊ってたり、ふわっと笑ったり。晴矢は綺麗だから、いつか別のやつに取られるのかもしれないと……怖かった」
僕に触れる絢斗の手が少し震えている。僕の手を、それに重ねる。
絢斗の顔が、僕に近づき、口づけが落とされる。境界線を越えるように、少し深めに。
そして、吐息混じりに絢斗が呟く。
「もう晴矢は誰にも触れさせない。俺以外、見るな」
「絢斗にそんな独占欲があったなんて、意外だったな」
僕はくすりと笑い、余裕を持った口調で返す。本当は余裕なんてないのに。
随分遠回りをした。それでも僕は絢斗が僕以外見ていなかったという事実だけで、十分だった。
「……絢斗も、僕以外、見るな。これからも」
「当たり前だろ」
絢斗に更に抱き寄せられた僕は、絢斗の首元に『印』を残した。僕だけの大切な『永遠の華』に所有の証として。
すみません。若干ヤンデレ風味という癖を煮込みましたー!!
少し病んでるカプ大好物なんですって!ホント!
いいなと思ったら応援しよう!
いただいたチップで少し豪華なコーヒー飲みます!