イソンギュン氏最期の遺作『大統領暗殺裁判』
『KCIA 南山の部長たち」と『ソウルの春」をつなぐ韓国史上最悪の政治裁判を描いた衝撃サスペンス
『大統領暗殺裁判 16日間の真実』は、時系列でいうと、『KCIA 南山の部長たち』と『ソウルの春』の間に入る映画。
『ソウルの春』を観た感想を以前投稿したとき、『ハゲ』という言葉を何度も書いた気がするが、チョンドゥファンはもうハゲでは収まらない。
もはや人間じゃない、ハゲ悪魔!!
この映画の中では、チョン・サンドゥという役名でユ・ジェミョン氏が演じているが、ここでもクズ人間炸裂しまくり!

あらすじ
1979年10月26日の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領暗殺の後、同12月12日の全斗煥(チョン・ドゥファン)陸軍少将らハナ会を中心とした「粛軍クーデター」が起きるまでの短い期間の物語。
大統領暗殺事件の首謀者はキム・ジェギュKCIA部長だったわけだが、その指示によって警備員を射殺するなどした現役軍人がいた。
史実ではパク・フンジュ大佐だが、『大統領暗殺裁判 16日間の真実』では役名はパク・テジュとなっており、亡きイ・ソンギュン氏が演じている。
テジュ大佐は犯行集団のなかで唯一の現役軍人だったので、ただ1人軍法裁判にかけられてしまう。
このテジュ大佐を弁護するべく選ばれたのが、俗物弁護士のチョン・インフ。
正義感の強い弁護士…ではなく、普段は損得で仕事しているようなチョン・インフだったが、その背景には人をかばって刑に服す父の姿があり、正義感強く生きたところで、他人のために家族を犠牲にしてしまう父を恨めしく思いつつも、どこか尊敬している部分も。そんな姿がテジュ大佐と重なり、次第に助けたい!という気持ちに変化していく。
見どころ
いわゆる「男の中の男」根っからの軍人気質で
軍人とは!いかなる命令にも従わねばならない!
を、一徹した男であるテジュ大佐は、裁判で不利になる発言でも「俺はウソはつけない」と融通がきかない性格。

それに対し、インフ弁護士が「だからー!あーもう!裁判に善悪はいらない、勝つか負けるかなんだよ、ウソなんか誰でもつくだろう!」と、融通がきかない「クソ軍人」と罵ったり笑

インフ弁護士は、清廉潔白で自分の事より人の心配をするような高潔な大佐と自分の父が重なり、この人を絶対に死なせてはならないと翻弄する。
この姿が本当に痛々しいわ、悲しいわで、それでもハゲ悪魔に決死の覚悟で思いをぶちまける姿は胸がすく思いだった。

インフ弁護士とテジュ大佐は、最後にはお互いを「本物の軍人」「本物の弁護士」と思えるような関係性を築いていくようになり、お互いの信頼関係が深くなっていく姿は2人の息がピッタリで感動ものだった。
制作にあたって監督の思い
10.26事件そのものは、映画や小説で何度も扱われている中、(本作でイ・ソンギュンが演じた)朴興柱(パク・フンジュ)について触れたものはほとんどなく、歴史そのものよりも人物にまつわる物語を描きたいと思ったと。

混乱に満ちた歴史的事件の中で個人がどのように犠牲になっていくのかを描こうと考え、この事件を選んだ、という監督。
なかなかスポットがあたりにくい役でイソンギュン氏も演じるのに躊躇してたそうだけど、弁護士役にチョジョンソクが配役されると聞いて、一緒に共演できるのを喜んでいたらしく…
劇中の2人のやり取りは、それはもう息ピッタリで!逆にそれがなんだか悲しくもあり…
こんな風に深く、気持ちのこもった熱演ができる俳優なのに、改めて悲しさとやるせなさを感じてしまった…

この無精髭ですら渋くて素敵
個人の感想
イソンギュン氏最期の遺作ということもあり、もう評価は無用の満点!
迫力ある法廷劇で、何としてでも生きてほしくて闘ったチョジョンソク演じる弁護士や、イソンギュン演じる軍人も最後まで軍人として誇りを持って責任を負った大佐、2人の熱演に涙が止まらず、劇場だったので嗚咽しそうになるのを必死に堪えたほどだった。
劇中の「何とかして生きてほしい」という強い思いが、何だかイソンギュンの未来を予測してたかのように思えてならず…
止められるものなら…と余計に辛かった
イソンギュン氏最期の遺作であるけども、それ以上に熱意のこもった役者達の名演技と、臨場感たっぷりの迫力ある法廷劇を、是非劇場で観ることを強くおすすめしたい。
その後の判決と死刑執行

1980年3月6日、京畿道(キョンギド)始興郡蘇莱面(シフングンソレミョン)の第33師団遊撃訓練場において、銃殺刑が執行された。一審判決からわずか75日後であり、事件に対する裁判(内乱首謀の金載圭の上告審が進行中であるにもかかわらず)がまだ進行中なのに死刑を執行したことは前例のないことだった。10.26事件の関係者のうち最も早く銃殺刑が執行された。
遺体は遺族に引き取られ、家族・親族、ソウル高校の同窓生らによって、京畿道抱川市(ポチョンシ)蘇屹邑(ソフルウップ)二東橋里(イドンギョリ)の東信(トンシン)教会墓地に埋葬された。
5月20日、大法院全員合議体は、金載圭らの上告を棄却し、金桂元を除く5人の死刑が確定した。金載圭、朴善浩、李基柱、柳成玉、金泰元の5人は、5月24日、西大門刑務所で絞首刑に処された。
パク大佐が遺した遺言内容
朴興柱は、城南市(ソンナムシ)の南漢(ナマン)山城近くにある陸軍刑務所に死刑囚として収監された。妻の金妙春(キムミョチュン)は、収監中に3回の面会を許された。2回目の面会には娘の惠英と惠恩を、3回目には生後10ヵ月の息子を連れて行った。
朴興柱は、結婚10年目に授かったその息子を抱き、別れ際に妻の手にそっと何かを握らせた。金妙春は、それを差し入れの弁当箱の空き容器の中に隠し、刑務所を出てから開けてみると、そこには家族に宛てた手紙が入っていた。キムチの汁で滲んでいたが、なんとか読み取ることができた。
その手紙(遺書)には、こう綴られていた。
この世の如何なる言葉が、あなたの慰めになり得ましょうか。ただ、あなたがこの悲しみを強く乗り越え、愛する我が子のために毅然として耐えてくれることを願うばかりです。
親になるのはたやすいことでも、親としての務めを果たすのは本当に難しいものですね。私がその務めを全うできなくなってしまうとは…。
けれども、賢母のもとで立派な人が育ったことを思い起こせば、すべての重荷をあなたに託すことになってしまうとしても、一方で、子どもたちにとって幸いなことではないかとも思います。
子どもたちには、お父さんが当然なすべきことをしたのだということ、そして当時の状況もそのようなものだったということを、よく理解させ、劣等感に陥らぬよう誇りを持たせてあげてください。
これから生きていく家族のために、言いたいことをすべて伝えられなかったけれど、世の中は知るべきことを必ず知るようになるでしょう。
そして、この社会が死んでいないならば、私たち家族をそのままにはしておかないでしょう。精神的にも経済的にも支えてくれると信じています。
たとえそうでなかったとしても、毅然として堂々と生きていけばよいではありませんか…
そして、娘たちに
ヘヨン、ヘウンへ、
最後に大事なことを一つだけ言っておく。
選択をちゃんとするように。
私たちが生きていくうえで最も重要なのは、どう選択するかということではないだろうか。
自分の判断で選択したなら、その責任は選んだ人が否応なく負うことになる。後悔しないよう、計画性があり合理的な判断のもとに、着実で賢明な選択をするようにしなさい…

長女の惠英(ヘヨン)は、父が作ってくれた王冠を片手に、妹の次女・惠恩(ヘウン)とともに「朴興柱、うちのお父さんを助けてください」と書かれた幕を掲げ、カメラの前に立ったが…
家族の思いも虚しく、パク大佐は帰らぬ人となった…
