ラッコを見に霧多布岬にいく③阿寒湖編
翌朝のえとぴりか村の朝食は、牛乳と手作りのジャム、それに野菜とパン。食べ過ぎて疲れていた僕の胃にはぴったりです。少し珍しいトマトのジャムと濃厚な牛乳、とっても美味しかったです。

朝食のときは宿泊客みんなで食べる決まりになっています。僕たちのほかには北海道を旅行しているというおじさんが泊まっていました。なんでも運転が好きだとかで、車でひとり気ままに移動し、各地の美味しいご飯を食べて回っているそうです。オーナーの片岡さんからは、エトピリカやラッコのお話、他の野生動物の話などを聞けました。
初対面の人と話すことを苦手としている僕でも、美味しい食事と片岡さん夫妻の人柄のおかげでとってもいい時間を過ごすことができました。
朝食を終え、完全防備で再び霧多布岬の先端に向かいました。しかし残念ながら昨日よりも悪天候。激しい雨と風の霧多布岬は僕たちの身も心も萎ませてしまいました。僕たちは霧多布岬での観察をあきらめ、次の目的地である阿寒湖に向かうことにしました。

雨の中車を走らせていると、エゾシカの群れに遭遇。慣れているのでしょうか、車が近づいても全く逃げる気配もありませんでした。何気なくその向こうに目をやると、そこには馬の牧場がありました。同じ空間に“馬”と“鹿”がいるという奇跡が起こってしまいました。その後も鹿の群には度々出会いました。
今回の目的はこういった野生動物との出会いです。運転は初心者(免許を取ってまだ半年!)の次女と、ペーパードライバーの長女(最後に運転したのはいつなのやら、、)に任せ、僕の任務は野生動物を探すこと。寝てはいられません。常に周りの景色をみて生き物を探します。とさっそくキタキツネを見つけました。

「お、あそこにキツネいるよ」次女は急には止まることができません。
先の少し広くなったところで車を止めます。
横で寝ていた妻がもぞもぞしながら起きてきました。
車から出て見に行きますが、すでにいません。
妻はおもむろに「ル~ ル~ ル~」と口にします。懐かしの「北の国から」のキタキツネを呼び寄せる、蛍方式です。知らない人はスルーしてください。
残念ながら、キツネは出てきてくれませんでした。
「もう、あなたは本当にどんくさいんだから。車が過ぎてから言ってもダメでしょ」
またまたダメ出しです。
マサイ族じゃあるまいし、僕にはそんなに遠くから野生動物見つけられません。
「あと、見てみたいのは、エゾリスとヒグマとツルとシマエナガね」
「見つけたら早めに言うのよ」妻からミッションを次々と与えられます。
僕の能力では、走っている車からエゾリスやシマエナガを見つけることなど絶対にできません。ヒグマであれば見つけることできるかもしれませんが、それ以前に怖いので見つけたくはありません。
車に戻ると妻は再びダウンコートを枕に寝てしまいます。
僕も昨日の疲れでウトウト、、、
いかん、いかん。眠っていては僕の任務が果たせません。
セイコーマートでコーヒーブレイクをすることにしました。小さな町でも必ずセイコーマートはあるようです。
目をシャッキリさせた僕らは引き続き阿寒湖に向かいます。
コーヒーのおかげか今度は妻も起きています。標茶町を走っているとき、妻が急に「ツルがいた!止まって」と声をあげました。
初心者の次女、やはりすぐには止まれません。とりあえずちょっと広くなったところに車を止め、僕と運転を交代。Uターンして妻が鶴を見たという場所に戻りました。
すると確かにそこには、頭を伸ばした1羽と頭を下げた1羽の鶴、の置物がありました。
妻は「絶対動いていた」と言い張ります。“そんなわけないでしょ”と僕は思いましたが
もちろんそんなことは言えません。
鶴の置物の家の横の道に入り、再びUターンをしていた時でした。
長女が「止まって!あれツルじゃない?!」
と指をさしました。その方向を見ると、
先ほどの家の隣の家の庭に2羽の鶴の置物がありました。
鶴の置物が流行っているのか、、、?
とその時、動きました。置物は本物のタンチョウツルだったのです。妻の言ったことは本当でした。


鶴は隣の牧草地に移動し、ダンスをしてくれました。
僕たちは2羽の鶴の様子をしばらく観察していました。彼らは全身真っ白なのですが、すらっとした首と羽の先は黒くなっています。そして頭の上には鮮やかな赤色。なんとも美しい。大きな翼を広げながら行う求愛ダンスには、4人とも時間を忘れてすっかり見惚れていました。
奥さん、疑ってごめんね。




それにしても、庭に鶴が来るなんてなんていいところなんだろう。僕はもうしばらくここで見ていたかったのですが、長女がやけに出発を急かしてきます。後ろ髪を引かれる思いで、僕たちは再び車を走らせました。
雨はますます強くなってきています。
と突然長女が「お腹すいた、何か食べたい」と言い出します。
周りは原野か牧場。どう考えても食べ物屋さんなど見つかりそうにありません。
「何か食べたいものはある?」と僕がみんなに聞くと、みんな揃って「ハンバーガーが食べたい!」
イヤイヤイヤ、さすがにここにマックはないだろう、、、。というか、食べる事が大好きな3人。普段ならそれぞれ主張しあってなかなかご飯が決まらないのに、なぜこんなにもすっきりと意見が一致しているのか、、、。
「この先の駅にハンバーガー屋さんがあるよ」と重ねて長女が教えてくれます。
なぜ知っているの、、、と不審がる僕をよそに、次女は長女の道案内で車をすすめます。
塘路湖の横をすすんでいると小さな駅に着きました。塘路駅です。
そこにおしゃれなハンバーガー店“Bob's burger”がありました。

大雨の中、なんとお客さんが並んでいました。
車を止めて店の中に入ると、Mrs. GREEN APPLEの写真とサインがありました。


どうもMrs. GREEN APPLEの大ファンの娘はここに来るのが今回の旅の目的の一つだったようです。妻も彼らのライブに行くくらいにファンであり、僕以外はここに来ようとあらかじめ決めていたようでした。通りでスムーズな流れだったわけだ、と僕は納得します。そんなBob's burgerのハンバーガーは、“肉を食べているぞ”というみっちりとした食感と、ソースがよく合うたっぷりのレタスがいいバランスで、かなり満足感のある一品。加えて大きめのポテトが嬉しい。いいお昼ごはんになりました。

お腹いっぱいで再び阿寒湖を目指します。
ここからは思った以上のワインディングロード、くねくね曲がった峠道でしたが、次女は
運転に慣れてきたのか楽しそう。僕は助手席で運転を見守り、妻と長女は後部座席で熟睡です。
途中の峠の道の周りには、数日前に降った雪がまだまだ残っていました。


ようやく阿寒湖に着いた頃には、雨も小降りになっていました。
まずはアイヌ民族の村、アイヌコタンに向かいます。



実は僕、あの名著「ゴールデンカムイ」のファンブックの動物についての監修をしたことがあるのですが、その影響もあってアイヌ文化についてとても興味がありました。
アイヌコタンにあるアイヌシアター「イコロ」というアイヌ文化専用の屋内劇場に行きました。


ここでは、アイヌ古式舞踊に映像や現代舞踊の演出を加えた「ロストカムイ」を見ました。
幻想的な劇場に独特な発声の歌、アイヌの楽器ムックリが奏でる不思議な音が響きわたり、さらにそれに合わせて舞われる一つ一つ意味を持った踊りは、深く僕の心に刺さりました。
特に長い髪を頭をくるくると回す舞踊は迫力満点でした。ベリーダンスのヘッドロール、歌舞伎の連獅子の頭を回す動きなどと似ており、なんだか人間の本能に訴えてくる踊りです。
そんな「ロストカムイ」は、その内容も素晴らしいものでした。
アイヌの人々は全てのものにはカムイ(神)が宿っていると考えて畏敬の念を込めて接し、共に暮らしています。狩猟などをして命を頂く際にはカムイへの感謝を表すために儀礼を行い、肉も血も皮も全てを無駄なく使います。そういった自然とのかかわり方、共存を図る態度は素晴らしく、動物と接する仕事や保護活動をしている身として、自分の考えにも大きく影響を与えてくれました。
その後、途中のお土産屋さんでムックリを購入し、本日の宿「両国総本店」にチェックインしました。



すぐに源泉かけ流しの温泉に入りました。源泉かけ流しは本当に最高です。滞在中に3回入りました。時間が許せばもっと入りたかった、、、。
夕ご飯は蝦夷鹿肉の鉄板焼です。実はこれが目的でこの宿に宿泊を決めました。僕以外はビールで、僕はウーロン茶で乾杯です。お目当ての鹿肉ですが、思った以上の量がやってきました。すぐにバターとともに焼き始めます。どのぐらい焼けばいいのかわからないのでよく焼くことにしました。最初の一枚を尊敬の意味をこめ妻に献上。妻は「硬い、焼きすぎ」といきなりのダメ出しです。次は少しレア気味に焼いてみると臭みもなく、柔らかくて美味しいお肉になりました。

ちなみに鹿肉は低カロリー・高たんぱく・低脂肪と3拍子揃っていて、いくら食べても太りづらい健康食。このことを家族に伝えると、普段はダイエットと騒いでいる女性陣がすごい速さで食べだしました。僕の口にはなかなか入りません。ちょっとちょっと女性陣、いくらカロリーが低くてもそんなに食べれば太りますよ、、、。
一緒に頼んだワカサギの天ぷらは味変になり美味しかったです。辛味の強い行者ニンニクも、白米によく合います。

鹿肉をあっという間に平らげた僕らは、まだ食べられるということでジンギスカンを追加しました。

これも懐かしい味付けで美味しい。この一食だけでも北海道を満喫した気持ちになりました。
ちなみに昨日は魚がメインで、牡蠣にエビにいくらに貝、カニや白身魚とあらゆる魚類を頂きましたが、本日は肉がメインの日。ハンバーガーでは牛、鉄板焼きでは鹿と羊と頂いています。この調子で北海道のありとあらゆる種類の肉を食べるぞ。
宿の近くのセイコーマートで、北海道のお酒とメロンジュース、それにカツゲン(北海道の乳酸菌飲料)を買い込み、夜はお部屋で恒例の反省会です。今回はムックリの練習会も行いました。
まずは妻からトライしてみましたが、なかなかうまく鳴らすことができず少し不機嫌です。次は僕の番でしたが、よりによって鳴らすことができてしまいました。妻はしばらく悔しそうに何か言っていましたが、結局そんなのは関係なくみんなでムックリを楽しみました。ちなみにその後、妻もちゃんと上手に鳴らすことができるようになっていました。妻が奏でるムックリを聞きながらカツゲンを飲む夜。間違いなく最高でした。
つづく
