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t85 メタバースの先駆者「セカンドライフ」の栄枯盛衰:なぜ没落し、今どうなっているのか

2021年頃から「メタバース」という言葉が世界中を席巻しましたが、そのはるか以前、2003年にすでに巨大な仮想空間を構築していたサービスがありました。それが米リンデンラボ社が開発した「セカンドライフ」です。セカンドライフは、現代の私たちが思い描くメタバースの概念をいち早く体現し、爆発的なブームを巻き起こしたものの、数年で急速にメディアから姿を消しました。本記事では、その栄枯盛衰、特に没落の背景と、意外と知られていない現在の姿に迫ります。

​■ 黎明期と熱狂の黄金期

セカンドライフの黄金期は2006年から2007年にかけて訪れました。ユーザーは「アバター」を通じて3DCGの仮想世界を自由に動き回り、他のユーザーと交流できました。最大の特徴は「リンデンドル」と呼ばれるゲーム内通貨が現実の米ドルと換金可能だったことです。仮想空間内の土地を売買したり、自作のアイテムや衣服を販売したりして莫大な利益を上げる「仮想不動産王」やクリエイターが誕生し、メディアはこぞってこの新世界を報じました。IBM、トヨタ、ロイター通信など、名だたる大企業も次々と仮想店舗やショールームを開設し、セカンドライフは次世代のビジネスプラットフォームとして期待の頂点に達しました。

​■ 没落を招いた複合的な原因

しかし、熱狂は長くは続きませんでした。2008年頃から急速にユーザー離れが進み、企業も次々と撤退していくことになります。その没落には、大きく分けて3つの原因がありました。

​第一に、ハードウェアの壁です。当時の一般的なパソコンでは、広大な3D空間を遅延なく描画するにはスペックが圧倒的に不足していました。操作は重く、画面は頻繁にフリーズし、快適な体験を得るためには高価なグラフィックボードを搭載したハイスペックPCが必要不可欠でした。

​第二に、自由度が高すぎるがゆえの「目的の不在」と「高い学習コスト」です。セカンドライフには、敵を倒す、レベルを上げるといったゲーム的な明確な目標が用意されていませんでした。自由である反面、ユーザーは自ら目的を見つけなければならず、複雑な操作方法も相まって、ログインしたものの何をしていいかわからないまま離脱する新規ユーザーが後を絶ちませんでした。

​第三に、そして最も致命的だったのが、スマートフォンの登場とSNSの台頭です。2007年のiPhone登場を皮切りに、FacebookやTwitterといったテキストや写真ベースのSNSが爆発的に普及しました。人々は重い3D空間にわざわざパソコンからアクセスしなくても、手元のスマートフォンでいつでも手軽に友人とつながることができるようになったのです。手軽で即時性の高い新しいコミュニケーションツールに、当時のセカンドライフは太刀打ちできませんでした。

​費用対効果が合わないと判断した企業たちは、閑古鳥が鳴く仮想店舗を次々と閉鎖し、セカンドライフは世間の記憶から急速に薄れていきました。

​■ 現在のセカンドライフ:独自の進化と成熟

では、セカンドライフは完全に消滅したのでしょうか。実はそうではありません。現在もサービスは継続しており、ビジネスとして一定の成功を収め続けています。

​一過性のブームが去った後も、クリエイティブな活動や深い交流を愛するコアなユーザーたちはこの世界に残り続けました。現在の月間アクティブユーザー数は数十万人規模で安定しており、リンデンラボ社にとって利益を生み出す黒字事業となっています。ユーザー同士のコミュニティはより成熟し、高品質な3Dモデリングによるアイテム制作や、音楽ライブなどのイベントが日常的に開催されています。長年プレイしているユーザーにとって、ここはすでに単なるゲームではなく、生活の一部として不可欠な居場所となっているのです。

​■ 現代のメタバースへの教訓

近年、VR技術の進化などで再びメタバースが脚光を浴びましたが、新規参入するプラットフォームの多くが、かつてセカンドライフが直面したハードウェアの壁や目的の不在という同じ課題にぶつかっています。セカンドライフの栄枯盛衰は、仮想空間におけるクリエイター経済の可能性を示すと同時に、技術的な未成熟さとユーザー体験のギャップがもたらすリスクを如実に物語っています。テクノロジーがどれほど進化しても、人が仮想空間に何を求め、どう定着するのかという本質的な問いに対し、セカンドライフの歴史は今なお色褪せない教訓を与え続けています。

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