TeamSTEPPS®️実践例〜チェックリスト編〜
TeamSTEPPS®️は医療におけるチームワークを改善するためのツールキットです。
そのツールの中でも、最もエビデンスが確立しているのは、「チェックリスト」です。
そう、みんなが使うあれです。☑
チェックリストのエビデンス
医療におけるその効果は、医学論文誌の最高峰、New England Journal of Medicine(以下、NEJM)に掲載されています。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMsa1405556
この論文で評価されたのは、「患者情報の申し送り」を行う時に使われるチェックリストです。チェック項目の頭文字をとって、バトンをパスするイメージの「I-PASS(私がパスする)」が用いられました。
例えば手術室から病棟へ、外来から病棟へ、など、患者さんが治療を受ける部門が変わったときにこれが用いられました。
結果、チェックリストの使用後に、エラー発生率が23%減ったということでした。
I: illeness severity
疾患の重症度
P: patient summary
患者サマリー
A: action list
行動リスト
S: situation awareness & contingency planning
状況把握と、起こりうる事態への対応
S: synthesis by receiver
聞いたことを聞き手が要約したり、質問したりする
同じ項目を「申し送り」で実践してみるのも良いでしょう。
しかし、チェックリストは実はとても奥深く、医療では昔から活用されてきており、申し送りに限らず、有用なシチュエーションは数多あります。

チェックリストは様々な状況で使える
例えば、中心静脈カテーテルを挿入する際に、感染を防ぐためのマキシマムバリアプリコーション(maximum barrier precautions)という物品たちがあります。病院でケアに携わっている方なら誰もが、医師があのガウンと帽子と覆布と手袋を装着しているのを見たことがあるでしょう。
こちらは、過去に、看護師さんが主体となって医師に徹底してもらい、カテーテル関連血流感染を大きく減らしたという歴史がありますが、今では当たり前となったため開発の流れや効果は忘れ去られてしまっています。
これは物品のチェックリストと捉えられ、広く実践されているチェックリストの一つでしょう。

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また、意識、血圧、脈拍、体温、SpO2などのバイタルサインもチェックリストの一つと捉えられます。

チェックリストを申し送りの状況だけ用いるのでは、とても勿体無いということです。あらゆる状況で使えます。更に、一見チェックリストには見えないものもチェックリストの役割を果たしていたりするのです。☑がついているとは限りません。
その他、普及しているのは、入院時のチェックリスト、退院時のチェックリスト、術前のチェックリスト、タイムアウトなどです。
しかし、今回最も強調したいのは、
果たして、皆さんはチェックリストを更新しているでしょうか?リーダーは、更新する機会を作っているでしょうか?

チェックリストの役割
チェックリストには様々な役割があると思います。
抜け漏れを防ぐ
皆のコンセンサスを作る機会となる。何を重視しているか共有できる。
暗黙知を形式知に変える
誰がやっても最低レベルを保ち、属人的にならないようにする
皆が意見を言いやすくする
など、これらの効果を意識しながら作る必要があります。
一人の人間が全てを把握するのは難しいチームプレイにおいては、それぞれの人が持っている情報を引き出しやすい状況にする必要があるのです。

作成の具体例
以下に、気管支内視鏡を始める前から、終わった後までに確認が必要なことを、一連のチェックリストとしたものを紹介します。

リーダーシップの項目では、ブリーフィング(始まる前)、ハドル(途中)、デブリーフィング(振り返り)というツールが出てきますが、これとチェックリストを組み合わせたものとなっております。
チェックリストを使うタイミングも含めたチェックリストです。
ハドルを行うタイミングも皆で共有しています。
また、皆の意見が非常に重要なので、気づいたことは言ってくださいという自己開示を行い、心理的安全性を実現しようと試みています。
これ自体は決して完璧なものではなく、施設によって違うでしょうし、更に改良していくべきものですが、何かの参考になればと思います。また、現在私が使用しているものとは異なります。一つの例えとして認識願います。
気管支内視鏡のチェックリスト
担当者へ:気づいたことは小さなことでも共有してください
1. 検査施行決定時(外来)
<医師のチェックリスト>
□ 患者の理解度は十分か(つまり、経過観察という選択肢、他の検査方法、検査の感度特異度、検査の合併症を理解したか)
□ 入院の相談を病棟などにしたか。検査可能な日を検査スタッフと調整したか。
□ 休薬チェックリストに記入したか。
□ 薬剤アレルギー歴をチェックしたか。常備されていない薬を使う必要がある場合、〜日前までに薬局に取り寄せを伝える。
□ 喘息の有無を確認したか。
□ 電子カルテ上のオーダーを行ったか(透視室の予約を入れたか、パスを入力したか、朝昼欠食にしたか)
<看護師のチェックリスト>
□ 個室対応の必要があるか医師に確認する
□ 休薬チェックリストは記入され、現在内服している全ての薬を提示したかを患者に確認してもらい、また休薬の指示を理解したかを患者自身に復唱してもらう(ティーチバックを行う)。
□ 患者の理解が不十分なら、家族を呼ぶ。
□ その他の気管支鏡前の検査予約も含めて、患者自身に復唱してもらう。入院当日は朝食抜きで検査前まで絶食であることを強調する(このルールは病院による)。
□ 入院予約が入っているかを確認する。
サイン( )
2. 入院直前、患者が外来に到着した時
□ 朝食を抜いてきたか確認する。
□ 休薬できているかを確認する。
□ 喘息患者では、最近の喘息発作のコントロール状況(発作の頻度、程度、頓服の使用状況)を確認する。悪くても軽い場合は術前に吸入を行って対応するが、とても悪い場合は中止するかもしれないので、医師と話し合い、病棟に申し送る。SpO2も参考にする。
□ 患者家族の連絡先に間違いないか。
サイン( )
気管支鏡検査 チェックリスト(入院)
3. ブリーフィング
<3-1. 入院担当看護師・医師>
□ どの鎮痛薬を使うか話し合い、医師はオーダーをする。
□ 入院中のルールについて患者に説明する。パスの表を用いて説明し、患者の疑問点、不安な点がないかを確認する。
□ 食事のアレルギーの有無は、食事のオーダーに反映されているか。
□ 持参した内服薬の投薬方法を医師と確認する。
□ 行う前の酸素必要量、検査時にHFNCが必要か。
サイン( )
<3-2. 検査担当看護師>
□ 用いる内視鏡のサイズを確認する。
□ 行う検査内容やその順番を医師と話し合う。検査オーダーが入っているかを確認する。
□ 検査中の役割を確認する。
マウスピースやバイトブロックがずれていないかの確認
口腔内のサクション
麻酔薬投与、鎮静具合とバイタルサイン測定と報告、記録
局所麻酔の介助
生検介助
□ 以上を踏まえ、人員は十分か、役割として不安はないかを話し合う。
□ 手技や順番が明確でない場合、不安な場合は自ら確認する。
□ 一時停止点(ハドルを行うタイミング)やその時の確認事項を決めておく。
□ 体勢を変換する可能性を確認しておく(枕の準備)。
□ 提出する検査とラベルの確認(医師と看護師にてダブルチェック)
サイン( )
<3-3. 透視室にて。検査開始前。医師と看護師>
□ 役割分担を確認し、機材の位置、人の立ち位置を確認する。
□ 透視を用いるか、必要ならば皆が防護服を着たか。
□ 内視鏡と口腔内吸引は機能しているか。
□ 抜けそうな歯はないか。入れ歯は取ったか。
□ 静脈注射用のシリンジと、噴霧用のシリンジは色で分けられているか。
□ 末梢輸液路の滴下は良好か。
□ リドカインスプレー噴霧の前にタイムアウト(患者に名乗ってもらい、開いているカルテが同一か、中止薬は中止されているか、行う検査予定、検査部位、検査時間、一時停止点でどのような声掛けを行うか)。
□ 病理を呼ぶタイミングと役割を決めておく
4. ハドル、一時停止点
□ 声掛けのタイミングと内容を決めておく(全ての人が声掛けを行ってよい)。
5. 提出検体の確認, 片付け
□ 提出する検体とラベルをダブルチェックする。
6. 検査後
□ 2時間はモニター装着、特に SpO2、喀血の程度を慎重にモニタリングし、経過を2時間後医師に報告する。
□ 水飲みテストでむせなければ食事可。
□ 翌日レントゲンを撮影し、医師は結果を見たか。
□ 退院処方、退院後の予約を医師は入れたか。
□ 合併症の際の症状や、自宅での活動度、連絡すべき症状について患者に教育したか。患者はそれを復唱できたか。
□ 医師は写真を電子カルテに取り込む
サイン( )
7. デブリーフィング
□ まずは労う
□ 皆で一言ずつよかった点、確認すべき点、改善点を述べる
□ コミュニケーションは明確だったか?
□ 役割や責任が理解されていたか?状況認識が維持されていたか?
□ 仕事負荷は均一に配分されていたか?
□ 適切に業務の支援が要求されたり、受けたられたりしていたか?
□ エラーが起こったか、避けられたか
□ 資源は十分だったか?
まとめ
以上、チェックリストの一例でした。
振り返ってみると、少しチェック項目が多いように思いました。皆が使いやすいチェックリストを作成するためのチェックリストというものがあり、また違う機会に紹介したいと思います。
チェックリストを用いることに対し、何故か人間は抵抗を感じるようです。
「個人の能力が卓越している必要がある」。そう思いたいのだと思います。
しかし、人間は完璧ではありません。
航空業界においては、病院よりも更に工夫・洗練されたチェックリストが活用されており、実際にその活用で多くの人命が助かっています。
属人化することの危険さを理解し、世界は変わってゆくのに同じものを使い続け形骸化することの危険さを理解し、是非チェックリストを改良していきましょう。
青ワーク赤ワークの概念からは、その改良する機会をいつにするかもリーダーはあらかじめ決めておく必要があるのです。
