思いつかない アマノ文筆クラブ
また参加させて頂きます。
ちょっとズレてるかもしれませんが。
皆様よろしくお願いします。
【短編小説】思いつかない
「レィージョ・アックヤック侯爵令嬢!
我、レーサイ王国王太子エアヘッドは、本日只今をもって、お前との婚約を正式に破棄する!
今更後悔してももう遅い!我は最愛の聖女カレン・ナーオトーメ男爵令嬢と結ばれて幸せな結婚生活を送るのだ!!」
パーティーの中、端正な顔をした馬鹿一人。
「……状況説明有難う御座います。解説の手間が省けましたわ」
パーティーの中、怜悧な美しさと冷静さを保つ美女一人。
「メタだわ……」
パーティーの中、可憐さとツッコミを備える美少女一人。
賢明な読者諸兄には必要ないと思われるが、敢えてもう一度言おう、ここは『断罪イベント』の最中にある。それだけ覚えて帰ってください。
「レィージョ、お前は将来の国母の地位を約束されながら、些事に囚われ、あまつさえ下らぬ嫉妬に狂い、この私のカレンに散々嫌がらせをしていた事はとうに調べがついている!」
「嫌がらせ?はて……」
扇で口元を隠し、思案する美女。
「しらばっくれるつもりか!よかろう。データ子爵、調査結果をここで詳らかにせよ!」
促され、王太子の側で控えていた眼鏡キャラがフレームをクイッとさせながら語り出す。
「調査報告。◯月◯日、レィージョ侯爵令嬢は、カレン男爵令嬢に手紙を使って学園裏に呼び出し、脅迫行為に及びました」
「ああ、あの時」
「ええと……お、王太子殿下……」
「続いて、◯月✕日、レィージョ侯爵令嬢は、カレン男爵令嬢の私物を取り上げるという、嫌がらせを行いました」
「あの時の事かしら?」
「あの〜……」
「さらに、◯月△日、レィージョ侯爵令嬢は、カレン男爵令嬢をお茶会に招待し、公衆の面前で辱めるような行為を行いました」
「そんな事もありましたわね」
「レィージョ様……」
「以上が主な調査結果の抜粋となります」
満足気に眼鏡をクイッとしながら報告を終えた。
「さあ!これで申し開きも出来まい!己の犯した罪を贖う為、そなたは最北の修道院へと行ってもらう!」
決まった!ドヤ顔がそう物語っている。
これが彼の人生の最大の見せ場だったとも気づかずに。
「……殿下、よろしいでしょうか?」
侯爵令嬢の表情は依然、氷の様に冷たいままだ。
「うむ。将来の王として敗者の弁明を寛大に聞いてやるのも度量のうち。もう会うこともないだろうし、最後の情けだ。聞いてやろう」
「有難う御座います」
「あ、ちょっと……」
優雅な一礼の侯爵令嬢と何故か狼狽える男爵令嬢。
「まず、学園裏にお呼びだてしました件ですが、ワタクシ彼女を一目見た時から、愛らしいお姿に心奪われてしまいましたの」
怜悧な細面に、さっと朱が差す。
「……え?」
「しかしながらワタクシ、仮にも王太子殿下の婚約者。国王夫妻とお父様に土下座までされて泣いて頼まれて……嫌でしたけど、ほんと〜っに嫌でしたけど、今迄大切に育てて下さったお家とお国の為と思って、しぶしぶ了承した関係でしたけど……」
「お、おい……」
風向きが変わってきた。
「それでも抑えられないこの想いを、せめて彼女に知って貰おうとお手紙をしたためて、校舎裏においで頂きましたの」
頬に両手を宛てて恥ずかしがる姿は、先程の怜悧さが影を潜めまた違う彼女の魅力を際立たせていた。
「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花……ああ!この世で最も愛らしい彼女を表すのに、こんな使い古されたレトリックの言葉しか思いつかないなんて!我が身の語彙の貧困さをこれ程惨めに感じた事はございませんわ!」
「お、おう……彼女の愛らしいことには同意しよう……」
男爵令嬢の顔は羞恥の為か真っ赤である。
「王太子殿下も女性の趣味はさすがですわね」
「う、うむ」
コホン。
「さて、続きまして彼女の私物の接収でしたわね?おっしゃっておられるのは多分、日記帳のことかと思いますわ」
「日記……帳?」
動揺の現れか、眼鏡がクイクイしてる。
「ええ。お手紙を差し上げた後、交換日記をしてくださることになって、あの日は早く内容を拝見させて頂きたくて、いてもたっても居られなくて。つい、奪うような仕草になってしまいましたわ」
「恥ずかしいわ」と言って一層頬が染まる侯爵令嬢。
「そんな……甘酸っぱい青春みたいなことしてたのか……羨ましい……」
殿下、結構、純情である。
「レィージョ様ったら……」
こっちもまんざらではないらしい。
「だ、だが、貴女が主催したお茶会において、カレン男爵令嬢を辱めたのは間違い無い!」
「そ、そうだ!聞いておるぞ、始まって暫く後、俯いたまま、お茶会を去るカレンの姿があった事を!」
「あれは、確かにワタクシの失策でしたわ……」
「そうだろ!お前はそういう奴なんだ!昔っから何かと目立って私を蔑ろにし、称賛は全てお前のものだった!次期国王の私より……」
「あの時はワタクシも少々浮かれ気味で、我慢出来ず、つい手が出てしまいました」
「何だと!暴力まで振るっていたのか!淑女としてあるまじき行いだ!やはりお前と婚約破棄して正解だったな!」
勝ち誇った顔も、次の言葉で吹き飛んだ。
「余りにドレス姿が愛らしくて、周りの隙をついて思わず唇を奪ってしまったんですから」
「……はぁ?」
端正な顔が、間抜けヅラになった。
「レィージョ様!それは秘密って……」
りんごのような男爵令嬢は、いっぱいいっぱいになっていてどうしたらいいか、パニックのため何も思いつかなかった。
「ば、馬鹿な……こんな事……情報が足りなくて……これ以上の対応が、思いつかない……」
眼鏡を高速でクイクイ動かしながら、データ子爵は沈黙した。
「キスしただと?私より先に?女同士だぞ……
ははは、何だ……この展開は……私はこれから……劇的なざまぁの後、私に惚れ直したカレンとの明るい未来を送る……そう言う筋書きだったはずだ……これからの展望が……思いつかない……」
崩れ落ち、放心状態のまま呟く王太子。
「まあまあ、皆さんお疲れのご様子。婚約も破棄していただいたことだし、ワタクシはこれでお暇させて頂きますわ。カレンさん行きましょう?」
「え、でもレィージョ様、追放ってさっき……」
「何の権限もいまだ持たせて貰えない人間の言葉なんて、法的拘束力はございませんわ。今回の騒動で殿下もきっと廃嫡されて、第二王子のキレール王子が立太子されますわよ」
「で、でも……」
戸惑う男爵令嬢にそっと腰に手を回し、寄り添う侯爵令嬢。
「大丈夫、ワタクシを信じて?貴女はどうしたいの?」
「え、え~と……」
アワアワと戸惑う男爵令嬢。
「思いつかない?いいえ、違うわ」
お互いの顔が近づく。
周りには多くのギャラリーがいたが、全く意に介していなかった。
「貴女はもう、わかっているもの」
重なる花弁。
今、ここに美しい百合の花が咲きました。皆様温かく見守ってあげてください。
了
