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台湾でろう児が出会うあたたかさ。本当の異文化は健聴者の世界か。ー『黄色い子』TIFF2025-3

台湾の夜市で警察を探すろうの男性、ようやく警察官を見つけ、路地に行くと泣き崩れる。彼は日本からの旅行客で、同じくろうの息子を見失ってしまった。その息子は、商店で万引きをしたり、公園で賭け将棋をしたりして暮らしているろうの老人チェンを見かけ、助けを求める。チェンは渋々彼を助け、台湾のろう者の団体に連れて行くが、台湾手話では上手くコミュニケーションが取れず、日本手話ができるチェンにろう児を預け、父親の手がかりを聞き出してくれるよう頼む。

老人と少年の交流を描いたほのぼのした作品にも見えるが、この映画を健聴者がみてまず思うのは、なぜろう協会の人たちは警察に通報しないのか、そしてろう児も警察に行くことを嫌がるのかということではないか。実はそこに、この映画が本当に描こうとしていることが潜んでいる。

彼らが警察を嫌がるのは、まずコミュニケーションが難しいことが理由に挙げられる。ろう協会には手話通訳がいて、その通訳は警察に行こうとするが、ろうの人たちは嫌がる。それは、これまでの経験上、警察とはコミュニケーションが上手く取れないと思っているからだろう。警察に頼んで面倒なことになるよりは、自分たちでやったほうがスムーズにことが運ぶという経験がこれまでもあったのではないか。

実際に、日本のろう者の知り合いと情報を交換することで、父親を発見できるのだから、彼らの考えは正しかったことになる。そしてこれはろう者と健聴者の関係を見事に表しているとも言える。ろう者は健聴者から見ると、ただの耳が聞こえないあるいは聞こえにくい人だが、実際は、手話を第一言語とする異文化に属する人々で、外国人に近いかもしれない。

そして、この映画でわかるのは台湾と日本の手話が近い関係にあるということ。手話は国ごとに異なるのだが、台湾の手話は日本統治下に日本から入ってきたもので、世代が上に行けば行くほど日本手話に近くなるようだ。だからチェンは日本手話を使うことができる。ということは、日本のろう者にとって台湾のろう者は日本の健聴者よりコミュニケーションが取りやすい相手なのではないか。それは台湾のろう者にとっても同じで、だから、警察にいうよりも日本のろう者に連絡したほうが早いと考えたのだろう。

©サンドプラス

その前提にあるのは、ろう者と健聴者は別の価値観の別の世界を生きているということだ。このことはろう者自身が携わった映画や文学を見ると、感じることでもある。

その前提のもとにこの映画を見ると、異文化の中で助け合いながら生きる人々の姿が見えてくる。彼らの生き方は私たちと何も変わらない。健聴者からどう見えるかとは関係なく、彼らは彼らの人生を生き、それは耳が聞こえる聞こえないとはなんの関係もない。父親は異文化の中で困惑し苦労するが、息子の方は異国の地でも自分が属することができる世界を見つけ、その中で意外と楽しく過ごす。

その、ろう者の世界の中の交流を深める老人と少年のほのぼのとした雰囲気はこの映画の大きな魅力になっている。そしてそれこそが監督が描きたかったことなのではないだろうか。言い古されたことかもしれないが、ろう者は可哀想な人でも助けを必要とする人でもない。彼らは彼らの世界を生き、そこにはいいことも悪いことも、幸せも不幸せもある。その中で生まれる素敵な物語を描くことが、健聴者のろう者に対する偏った見方を覆すきっかけになるのではないだろうか。

テレビ電話で話した日本のろう者が「ろう者でよかったね」といったのも印象的だった。健聴者中心の社会で生きるのは大変だろうが、ろう者の世界で生きているからこそ起きるいいこともある。それを知ることができるのは嬉しいことだ。と同時に、マジョリティとしては後ろめたさのようなもやもやも感じる。

完全に色眼鏡を外すことはできない健聴者からの映画の感想はここまでとして、この映画がもう一つ重要なのは、ろう者自身によって作られているという点だ。この映画の監督は自身もろう者である今井ミカ、父親を演じた今井彰人は実の弟で彼もろう者だ。彼らは、ろう者を中心とした芸能プロダクション「サンドプラス」を設立し、ろう者による映像制作を進めて来た。ろう児を演じた人夢(トム)も所属する子役だ。

©サンドプラス

ろう者の役をろう者自身が演じることの意味は計り知れない。フィクションにおいては健聴者がろう者の役をやってももちろんいいし、健聴者の観客はそこに違和感を覚えない。しかし、ろう者から見て違和感を感じるならば、それは健聴者が異文化を間違って描いていることになる。これはある種の「文化の盗用」であり、黒塗りした白人が黒人を演じたかつてのハリウッド映画と程度の差はあれ、基本的には変わらないとさえ言える。当時と現在のハリウッド映画を比べれば、どちらがより良い映画かは一目瞭然だろう。

もちろん、しっかりと監修を入れることでろう者も喝采するような演技をする健聴者の役者もいる。しかしそうではない映画も多いのだから、ろう者自身が演じることが増えたほうが、ドラマや映画はより良くなっていくのではないだろうか。

『黄色い人』
2025年/日本/72分
監督/脚本/編集:今井ミカ
撮影:湯越慶太
サウンドデザイン:山﨑 巌
録音:佐藤和希
撮影助手:TONO
カラリスト:小林亮太(オムニバスジャパン)
台湾ろう者監修:リュウ・チウシュイン
プロデューサー:岡本麻姫子
制作進行:ウー・ショウティン
制作進行:ウー・ジャリン
キャスト:グー・ユーシャン、人夢、今井彰人、ホアン・シュウフェン、リン・ズージェ

トップ画像©サンドプラス

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