『二十四の瞳』を読んで――変わりゆく時代の中で変わらなかった先生の愛情
以前、書いた下書きをもとに、記事を起こそうと思います。壺井栄の代表作『二十四の瞳』を読んだのは約1年前です。
細かな場面は記憶から薄れてしまいましたが、作品全体から受けた印象は今でも鮮明に残っています。その印象をもとに、今回は読書感想を書いてみようと思います。
一言で表すなら、「とても悲しい物語。でも、人を思いやる心の大切さを教えてくれる作品」でした。
今回読んだ作品はこちらです
Audible版【耳から聞きたい方】(オーディブル会員なら0円)
Kindle版【じっくり読みたい方】
私自身、AudibleとKindleの両方を使っているので、この記事の後半で、実際に使ってみた感想をもとに、AudibleとKindleの違いをまとめてみました。
最初は心温まる学校生活から始まる
物語は、小豆島に新任教師として赴任してきた大石先生と、12人の教え子たちとの出会いから始まります。(教え子たちの瞳の数なので、『二十四の瞳』なのです)
自転車に乗り、当時としては珍しい洋装で学校へ通う先生は、「ハイカラ先生」と呼ばれ、子どもたちから親しまれます。
型にはまらない先生と、無邪気で元気いっぱいの子どもたちとのやり取りは、とても微笑ましく、読んでいるこちらまで温かい気持ちになりました。
しかし、洋装で自転車に乗って通勤する先生は、地域の人たちからすると少し変わった存在でした。
そのため、地域の人たちは最初、先生に強く当たります。しかし、先生の教え子を思うひた向きな姿勢に触れ、少しずつ心を開いていくのでした。
最初は見た目だけで判断されていた先生でしたが、誠実な姿勢は少しずつ周囲の心を動かしていきます。人は見た目ではなく、どう接するかが大切なのだと感じました。
穏やかな日々は少しずつ変わっていく
しかし、この明るい時間は長くは続きません。
物語は子どもたちの成長とともに進み、日本という国も戦争へ向かう時代へと移り変わっていきます。楽しかった学校生活は少しずつ現実に飲み込まれ、それぞれの教え子が厳しい人生を歩むことになります。
冒頭は明るい雰囲気だっただけに、物語が少しずつ暗い方向へ進んでいく展開が、とても切なく感じられました。
世間は冷たくても先生だけは違った
特に印象に残ったのは、女子生徒の一人が体を売るような仕事に就いてしまう場面でした。
世間はその子を冷たい目で見て、陰口をたたきます。
しかし、大石先生だけは違いました。
先生はその子を責めることなく、「どうか元気で生きていてほしい」と心から願います。
人は立場や職業だけで他人を判断しがちです。しかし先生は、その人がどんな人生を歩み、どのような背景を抱えてきたのかまで思いを巡らせます。
その優しさには、本当の意味で人を思いやることとは何かを教えられた気がしました。
戦争によって変わってしまう子どもたちの人生
男子生徒たちもまた、それぞれ戦争へ向かっていきます。
当時は軍国主義の時代です。国のために戦うことが正しいと教えられ、多くの若者が疑うことなく戦地へ向かいました。読んでいる私は、「どうしてそんな危険な場所へ自ら行こうとするのだろう」と思いましたが、それが当時の時代の空気だったのでしょう。
そんな中でも、大石先生は変わりません。
教え子が戦争へ向かう姿を見送りながら、心の中では「どうか無事に帰ってきてほしい」と願い続けます。先生にとっては、兵士ではなく、いつまでも大切な教え子だったのです。
最後まで「先生」であり続けた大石先生
この作品を読んでいて強く感じたのは、大石先生は物語の最初から最後まで「先生」であり続けたということです。
卒業して何十年経っても、結婚しても、仕事が変わっても、教え子への愛情だけは少しも変わりません。
嬉しいことがあれば一緒に喜び、苦しい人生を送れば心配し、亡くなった教え子には静かに涙を流します。
教師という仕事は学校を卒業したら終わるものではなく、「一度教えた子どもは一生教え子なのだ」ということを、大石先生はその生き方で示してくれました。
戦争を通して描かれた人生の無情さ
読み終えた当初は、「これは戦争の悲しさを描いた作品なのだろう」と思っていました。
もちろん、その側面は間違いなくあります。戦争がなければ失われなかった命があり、別の人生を歩めた子どもたちもいたはずです。
一方で、時間が経って改めて振り返ると、この作品はそれだけではないようにも感じます。
人生そのものの無情さも描かれているのではないでしょうか。
子どもの頃はみんな同じ教室で笑い合っていたのに、大人になると進む道は大きく分かれてしまいます。夢をかなえる人もいれば、貧しさに苦しむ人もいる。病気になる人もいれば、戦争で命を落とす人もいる。
これは、現代社会でも同じではないでしょうか。
日本では幸い戦争はありません。それでも人生にはさまざまな出来事があります。うまくいってバラ色人生になる人もいれば、終始うまくいかず貧しさに打ちひしがれてしまう人もいます。病気で道半ばにして亡くなる人もいます。
も未来を選ぶことはできません。とくに最近は、自分が今こうして生きていること自体が、とても幸運なことなのだと感じます。
なぜ人は若くして亡くなるのだろうと信じられない思いもします。
そんなことを考えると、この作品は人生の普遍的な「時代の無情さ」と「人生の無情さ」の両方を描いているように思えます。
それでも失われない大切なもの
それでも、この物語は決して絶望だけでは終わりません。
どんなにつらい時代でも、人を思いやる気持ちだけは失われませんでした。
大石先生は、誰一人として教え子を見捨てませんでした。その変わらない愛情が、この作品全体を温かく包み込んでいます。
私は、この作品が伝えたかったのは、戦争の悲惨さだけではなく、思い通りにならない人生の中でも、人を大切に思う心だけは失ってはいけないということなのではないかと思いました。
時代は変わります。社会も変わります。人の運命も思い通りにはなりません。
しかし、誰かを思いやる気持ちは、いつの時代にも変わらない。そんな思いが、この作品には静かに込められているのだと感じました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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