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石積みが教えてくれた「見る目」と「繋がる力」—石積み甲子園 優勝メンバー・土井さんインタビュー


石積み甲子園」は、全国の高校生チームが制限時間内に空石積み(コンクリートを使わない伝統的な石積み)の技術を競う大会で、企業・団体の協賛に支えられながら回を重ねてきた。舞台となるのは中山間地域の棚田。崩れた石積みを実際に修復するという実践型の競技で、参加者は技術だけでなく、地域の景観を自分たちの手で守る経験を得る。
この大会に、土井さんは1年生から3年間出場し、最終学年で見事優勝を果たした。卒業後は料理の道に進む予定で、まずは隠岐島のホテルでインターンとして働く。地域固有の食文化に強い関心を持つ土井さんにとって、石積み甲子園で過ごした3年間は、思いがけないかたちで将来への土台になっていた。石積みに夢中になった日々のこと、仲間と自分たちだけで技術を磨いた過程、そしてその経験がこれからの道にどう繋がっていくのかを聞きました。(聞き手:金子/石積み学校)


中山間地だからこそできる「部活」

金子:石積み甲子園に3年間出場してきて、振り返ってみていかがですか?

土井:石積み甲子園が青春だったなと思ってて。

金子:いやあ、それは嬉しいですね。

土井:神山みたいに来る子が少なくなってる高校って、部活も盛んじゃないことが多いなと思うんです。地域みらい留学※で県外から生徒を呼んで、いろんな活動をしているところもあると思うけど、やっぱり何かに打ち込むみたいな機会は、部活がないぶん少ないなと思ってて。その中で、山の中で、しかも誰かの役に立てることで自分たちが熱くなれるものがあるっていうのがすごいいいなと。中山間地だからこそできる部活だと思うから、これがめちゃくちゃ広まってほしいと思ってます。

※地域みらい留学・・・日本各地にある魅力的な173の公立高校の中から、住んでいる都道府県の枠を超えて、自分の興味関心にあった高校を選択し、高校3年間をその地域で過ごす国内進学プログラム。土井さんが通っていた徳島県立城西高校神山校も対象校の一つ。


まず「楽しい」があった

金子:土井さんは1年生の頃から出てくれてましたよね。最初から石積みに惹かれていたんですか?

土井:はい。でも1〜2年生の頃は、本当に「楽しい」っていうだけでやってました。勝ちたいとかよりも、楽しい。ゆるく、みんなで石積みを習得できたらいいねって感じでやってました。

金子:その「楽しい」っていうのは、どういう感じの楽しさなんですか? 

土井:積むのが本当に楽しいんです。石積みって、始めるときは自分が積むっていうイメージが全然ないから、「積もう」とかいう発想にすらならない。でもやってみると、自分が積めるんだっていう嬉しさがある。ゲーム感覚じゃないけど、パズルというか。石を選んで、はめて、積み上がっていく。その間ずっと楽しくて、一回積む機会があったら絶対ハマる人がいるなと思います。

金子:わかります。石積みのワークショップをやっていても、参加者の中にものすごく熱心な方がいて。始まったら黙々と土掘りもして、石もめちゃくちゃ積んで、「休憩しましょう」って言っても全然休憩しないっていう方がよくいるんですよね。

土井:こんな感じですね。

金子:きっかけさえあればハマる人がいるっていうのは、本当にそうだと思います。


楽しさの先に芽生えた悔しさ

金子:最初は「ただ楽しい」で始まって、そこから変化があったんですか?

土井:はい。仲間と一緒にとか、勝つためにっていう競技としての楽しさは、結構後からついてきたなと思ってます。石積みがただ楽しくて、やっていくうちに大会で負けて悔しかったり、自分たちの技術のなさに悔しくなったりして。どんどんやる気が湧いてきて、競技として楽しい方に行きました。

金子:1年目はどんな感じだったんですか?

土井:1年目はすごい「何も歯が立たなかった」感がありました。楽しかったけど、自分もちゃんと積み方自体を全然理解してなかったから、「これはもうちょっとちゃんとやりたいな」と思って。でもそのタイミングで3年生の先輩が全員卒業しちゃったんです。

金子:ああ、そうでしたよね。それまで一緒にやっていた先輩がいなくなって。

土井:はい。そこからまたイチから石積みをやりたい人を集めて、連れていって。でもその2年生のときもやっぱり、楽しいが一番で。ゆるくみんなでやってました。大会前にはガーッとやるんですけど。

金子:それで2年目の大会はどうでしたか?

土井:2年目はやっぱりめちゃくちゃ悔しくて。そこから「もっとちゃんとやろう」って、1年間頑張りました。

第2回石積み甲子園出場時の集合写真

写真を分析し、仲間と語り合って掴んだ技術

金子:3年目に向けて本気で技術を上げようとなったとき、どうやって練習していたんですか? ずっと教えてくれる先生がいたわけではないですよね。

土井:一応先生が一人いたり、他にも教えてくれる方がいたりはしたけど、ほとんどの練習は自分たちだけでやってました。伊予農業高校が優勝したときの石積みを写真で撮って、ひたすらそれを見て。「これ、最初に凸凹にしてるから、こう積み始められるんだ」とか、本当にそれを一つ一つ分析して。自分たちで試行錯誤しながら積んでた感じですね。

金子:いやあ、それは本当にすごいことだと思います。優勝チームの石積みの写真から、自分たちで技術を読み取っていくっていうのは。

土井:3年生になってからは、それをもっと徹底して。自分たちが積んだ後に毎回写真を撮って、「ここはこうだよね」ってめちゃくちゃ言い合って振り返るようになりました。「斜めに積むにはこうしてこうして」みたいなフィードバックを重ねて、技術を上げるためにすごい話し合って。

金子:感想にも書いてありましたけど、改善点とか疑問点があったらもう全部言い合って、それを次に反映させるっていうのがあって。練習のときから、みんなものすごいやり取りをしながらやっていたんだなと感心しました。

土井:一緒に暮らしてるから※こそ、そこまで話し合えるのもあるかなと思うんですけど。

金子:そもそも僕は事前講習の時の光景に驚きました。近くの石積みを積んでもらったんですけど、みんな動きがテキパキしていて、「口を動かすな、手を動かせ」という声も聞こえて。しかもすごくうまいし、こちらから教えることもほとんどないっていう状況で。みっちり教えてくれる指導者がいたわけじゃないのに、あれだけ自分たちで積めるようになったのは、教育的にも本当にすごいことだなと思います。

土井:それをやっていけばいくほど、石の解像度が上がっていくんです。本当に沼というか。どんどん見えるものが増えていって、止まらなくなる感じですね。

※城西高校神山高校の学生の希望者は少人数制の町営寮で暮らすことができる。

城西高校神山校チームの石積み練習の様子(右端の黒いシャツを着用しているのが土井さん)

前日の夜、石のないところでイメージトレーニング

金子:3年目の大会で、「今年はいけるぞ」って思った瞬間はありましたか? 「優勝するぞ」みたいな。

土井:「いけるでしょ」まではいかなくて。正直、勝てる自信はなかったです。それで前日の夜にみんなで集まって、1時間ぐらいイメトレしたんです。

金子:ずっと伊予農業さんの石積みを目指して練習してきたわけですもんね。

土井:はい。それで前日の夜にみんなで集まって、1時間ぐらいイメトレしたんです。

金子:イメトレですか。それは全員でやっていたんですか?

土井:全員で、声に出して言いながら。下見で見た石を思い出して、「この石と、あの石がいいんじゃないか」とか狙いを決めて、積む順番や流れもめちゃくちゃ話し合ってました。

金子:前日の夜って、別にその近くに石があるわけではないですよね?

土井:そうなんです。石はないけど、頭の中で積んでました。最後まで全然自信がなかったからこそ、ギリギリまでみんなで話し合ったのが良かったのかなって思います。


手に職——誇れるものが一つ増えた

金子:卒業後に、石積みの仕事をする機会があったと聞きましたが。

土井:はい。親戚がやっている会社の仕事で、空石積みをやる機会があったんです。久しぶりに積んだんですけど、全然手が止まらなくて。3年間重ねてきたことが自分の技術として身についてるんだなって。

金子:大会のときに石工さんとか、本職で石積みをされている方も来られていたんですけど、土井さんたちのことを「めちゃめちゃ上手ですね」っておっしゃっていて、本当にすごいなと思いました。

土井:嬉しいです。自分の身につけた技術がこういう形で活かされるとは思ってなくて、めちゃくちゃ嬉しかったです。

金子:実際の仕事を手伝えるまでになるとは想定していなかったので、僕もびっくりしました。

土井:これから料理の道に進んでいくけど、石積みは本当に楽しくてやってるだけだったけど、自分のもう一つの誇れるものとしてあるなって思います。


景色を見る目が変わった

土井:3年経って、景色を見る目が変わったなと思ってて。この前、五島列島に自動車学校で行ってたんですけど、周りを散策してるときに目に入ってくるのは、石積みが一番なんです。

金子:確かに五島列島も石積みが結構ありますもんね。

土井:はい。多いし、火山だった山から取れる石を積んでて、地域による違いとかも見えてきたりして。神山との石の違いとか、そういうのがわかるようになった。まちの見え方がどんどん変わっていく楽しさがありますね。

金子:石積みって、その土地の石を使って、その土地のやり方で積んでいるから、地域性がものすごく出るんですよね。その土地ならではの風景が見えてくる。3年間石積みをやってきたことで、そういう目が自然と養われたんですね。

土井:はい。どこに行っても石積みが目に入ってくるようになって、その土地のことがわかるようになった感じがします。

五島列島の石積み(土井さん撮影)
城西高校神山校の向かいの山からの眺め

石積みで扉を開く

金子:これから働かれるわけですけど、石積みの経験とこれからの仕事で繋がるところってありますか?

土井:直接的に繋がらなくても、みんなで話し合いながら分析して技術を上げていったプロセスとか、何かに本気になってやるっていう経験は、これからの仕事にも活きると思います。あと、石積みが一つのコミュニケーションの手段になったなって。

金子:コミュニケーションの手段ですか。

土井:はい。この前、五島列島に行ったときに、地元のことを聞きたくておじいちゃんに話しかけたんです。そしたら石積みの話で繋がって、縁ができた。甲子園があったからこそ、おじいちゃんに聞けるぐらいの知識があって、話を理解できるぐらいの自分の身になるものになっていた。

金子:それはよくわかります。僕も石積みができるからこそ、初対面の方に石の話をすると、めちゃくちゃその地域のことを話してくださることがあるんですよね。「石積んでます」って実際に体を動かして地域のことをしているとわかると、すごく信頼してもらえるというか。

土井:それ、すごくわかります。田舎で食文化とか郷土料理にすごい興味があるんですけど、そういうのを聞こうとすると初対面だとどうしても壁がある。食べ物の話だとなかなか入りづらいけど、石積みとか目に見えるものだと話しかけやすいし、「すごい、できるんだ」って信頼してもらえる。そこからお家に入れてもらって、そこでようやくその土地の食の話に繋がっていく。そういう経験が実際にあって。

金子:なるほど。石積みが、その土地の人と信頼関係を築くための入り口になっているんですね。隠岐島でも、きっとそういう場面があるんじゃないかなと思います。島に行って崩れているところを見たら「私直せますよ」って言えるわけですし。地元の食文化を深く知りたいと思ったときに、石積みが役立つかもしれません。

土井:はい。石積みが、その土地の人と繋がる入り口になってくれると思います。

金子:今日は本当にありがとうございました。

土井:ありがとうございました。


石積み甲子園は今年で4回目を迎えます。全国の高校生が石積みを通じて技術と仲間を得ています。
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この大会は企業・団体・個人の皆さまの協賛で成り立っています。
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