今日の1600字小説「友達以上のルームメイト」
『僕ルームシェアやってるんですよ!』
『へーホンマか!大変やろ、どんな感じなん?』
PC画面の中でお笑い芸人さんが話しはじめた。
「あ、ねえねえ、ルームシェアの話してるよ!」
台所仕事をしていたナオに話しかける。私はリビングにノートPCを持ってきて、ソファーに ぐでっ としながらくつろいでいた。
「なにそれ、YourBoom?」
「これテレビ番組だよ。TValueで観てるの」
ナオとルームシェアしているこの部屋にテレビはない。でも子供の頃に見てたテレビ番組をたまたま民放配信ポータルで見つけたとき、反射的にお気に入り登録していた。いつの間にか配信されるたびに見ていた。
『いやもう一週間で同居人キライになりましたわ!』
どきっと同時に胸の奥がヒリっとする。え?なんで?
ナオとルームシェアをし始めて半年が過ぎた。一人で生活していたときより毎日が楽しいし、私にとっては良いことしかないのに。
『ウチの同居人も芸人なんですけど、散らかしっぱなしで掃除も洗濯もなんにもしないんですよ、もう頭に来て!』
う、思い当たる節がある。ナオに聞かれてないかな。
「あはは、カナデみたいなヤツだな」
ナオがいつものカフェラテをテーブルに置いてソファーの端に座った。あ、聞かれてた。やばい返さなきゃ。
「は?えええ、ど、どこがー?」
やっぱりナオもそう思ってたんだ。てことは私のことキライってこと?
「っはは!なに動揺してんの。冗談だよ」
モヤモヤが取れない。
「や、でも、よく散らかすのはホントだし、いつもナオに掃除させちゃってるし」
思い返せば甘えすぎてる。全部ナオにやらせてる。
「ごめんごめん、そんなのお互い様でしょ。余裕があるときにやればいいって」
なんでナオが謝ってんの。そんなつもりじゃないのに。やばい、私めんどくさい女になってる。
『もうあいつは友達じゃないですわ!』
やめて、そんなわけない。でも…
「カナデだって家にいるときは料理してくれるし、今だって洗濯物畳んでくれてたでしょ」
うう、フォローしてくれてる。ナオ優しすぎる。でもそれって友達?
『でもしばらく一緒に住まなアカンのやろ?』
そう、これからも一緒に住んでいきたい。だったら気になったまま終わらせたくない。やっぱりいま聞かなきゃ。
「ナオは、私のこと、いまも友達だと思ってくれてる?」
「やめてよ恥ずかしい。そんな番組消しなよ」
なら私から言う。私は大事なパートナーだと思ってる。
「私は、ナオのこと大事な友達、いや親友だと思ってるよ!」
パートナーとは言えなかった。まだ照れくさいなんて思ってるのか。ナオの顔が困ったような、何かをこらえているような表情になる。こっち見てくれない。
「わかったよ」
ナオがカフェオレを一口すする。真剣な顔でこっちを見る。
「私も親友だと思ってるよ」
…!胸のつかえが取れていく。ナオは続けた。
「でもね、一緒に生活しているとさ、もちろん友達だったら見えなくていいところも見えてくる。そういうのをさらけ出すのって、友達じゃなくてさ。それはもう…」
ナオは言い淀んだ。一度目線を外し、呼吸を整えている。横顔かわいい。私は黙って見守る。口を開くと
「それはもう家族って呼んでもいいんじゃないかな」
そう言ったナオの頬はほのかに赤くなっている。私の中でなにかが込み上げてくる。
「やー!嬉しい!いいの?家族でいいの?私もね、ホントはパートナーって言いたかったの!家族?ファミリー?もう一生ついて行きま〜す!」
「こいつ調子いいな!」
私も顔が熱くなるのを感じていたけど、ハイテンションでごまかした。
『いやね、結局のところ、あいつとはもう戦友みたいなもんですわ!』
PCの中で芸人さんが宣言した。あんまりウケてはいないようだった。
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