粉物の天下 | ショートショート
私は店なら広島派。
🍳
鉄板の前で、探偵は腕を組んだ。
メニューには二つ並んでいる。
広島風。
大阪風。
「……これは、おかしい」
店員は水を置きながら言った。
「どちらになさいますか」
「両方あるのが問題だ」
「はあ」
探偵はメニューを指で叩く。
「どちらかに絞るべきだ」
「二種類あります」
「それが異常だ。食文化は統一の歴史だ」
「そうなんですか」
「秀吉を思い出せ」
店員は水を注ぎながら立っている。
「中国地方攻めだ。毛利を包囲し、水攻めをし、最終的に天下を一本にした」
「水攻めは岡山では」
「毛利の城だ」
「場所は備中高松城ですけど」
「毛利だ」
「……はい」
探偵はメニューを叩く。
「その毛利の国と、天下人の国が、同じ鉄板の上で並び立つ」
「粉物です」
「重ねる広島、混ぜる大阪。これは戦後処理の失敗だ」
店員は無表情のまま、一拍置く。
「現代は平和ですので」
「平和の象徴が二枚看板か」
探偵はさらに勢いづく。
「平家はどうなった。壇ノ浦で沈んだ。二つの潮流は共存できない」
「お好み焼きです」
「広島は重ねる。大阪は混ぜる。これは調理思想の根本的対立だ」
店員はペンを構えたまま、待っている。
「重ねるとは階層構造だ。歴史の堆積だ。一方、混ぜるとは同時性だ。民主主義的だ」
「どちらも美味しいです」
「問題はそこだ。両方美味しいという事実が、思想を曖昧にする」
店員の顔から表情が消える。
「では、どちらに」
「待て。なぜ東京で両方出す」
「需要があるからです」
「需要とは迎合だ」
「商売です」
探偵は鉄板を見つめる。
「広島風は麺を入れる。麺は中国大陸との交易の象徴だ。大阪風は混沌だ。天下人の器だ」
「決まりましたらお呼びください」
店員が下がろうとする。
「待て。この二つを並べることは、歴史的和解を意味するのか」
「トッピングもございます」
「もしかしてこれは、東軍西軍の再演ではないか」
店員の顔には諦念が浮かぶ。
そのとき、隣の鉄板から声が飛んだ。
「ごちゃごちゃうるせいな」
隣の客はコテを鳴らしながら言った。
「もんじゃ食え」
酩酊した客との議論は夜更けまで続いた、
