「何かお探しですか?」の優しさと、「見てるだけです」バリア
「春だし、ちょっと新しいシャツでも買おうかな」
そんな軽い気持ちで洋服屋さんの前まで来たはずなのに。
お店の入り口で、なぜか「ふぅ……」と小さく呼吸を整えて、ちょっと身構えてしまう自分がいます。
店内に入って、並んでいるきれいな色の服を眺めていると、なんだか遠くの方から視線を感じるような……。
……あ、こっちに来る。
「こんにちは! 何かお探しですか? よろしければ広げて鏡に合わせてみてくださいね」
その瞬間、私の頭の中でなんだか警報が鳴ったみたいになって、無意識に 「透明なバリア」 を張ってしまいます。
「あ、大丈夫です、見てるだけなので……(苦笑)」
本当はちょっと気になる色があったのに、話しかけられた瞬間に「すみません、私なんかが来てしまって!」みたいな、変な申し訳なさを抱えて逃げるように店を出てしまう。
実は、あの逃げ出したくなる気まずさには、ちょっとした理由があるみたいなんです。
なぜ私たちは「話しかけられたくない」のか?
実は、「話しかけられると逃げたくなる」のは、私たちが冷たい人間だからでも、コミュニケーション能力が低いからでもありません。
そこには 「心理的リアクタンス(心理的抵抗)」 という、人間なら誰しもが持っている脳の仕組みが関係しています。
人は、自分自身の「自由に選びたい」「自分で決めたい」という権利が侵害されそうになると、たとえ相手が親切心からの提案であっても、無意識に反発を感じてしまう生き物なのだそうです。
「このシャツ、おすすめですよ」と言われると、脳はそれを 「君の自由な選択肢を、今から私が絞り込んであげるよ」 というプレッシャーとして受け取ってしまうんですね。
つまり、あの気まずさは、私たちの脳が必死に「自分の自由」を守ろうとしている、生物としてとっても正しい反応だったんです。
最近では、そんな私たちの心理を汲み取って 「声かけ不要バッグ」 を用意するお店も出てきました。
「今は一人でじっくり見たいです」という意思表示を、言葉ではなく「バッグを持つ」というアクションで伝える。これは現代の「透明なバリア」を公式に認めてくれる、とてもありがたい仕組みですよね。
店員さんの「声かけ」に隠された、健気な工夫
一方で、店員さんの側にも立ってみると、また違った不思議な世界が見えてきます。
「話しかけたら嫌がられるかも……」
実は、店員さんの側も、そんな不安を感じながら声をかけていることがあるみたいです。それなのに、なぜあえて「バリア」を突破しようとするのでしょうか。
そこには、プロならではの、ちょっと 「健気な工夫」 がありました。
例えば、接客のプロは 「お客様の右側から声をかける」 という技術を使うことがあるそうです。
人間の心臓は左側にありますよね。そのせいか、左側から近づかれると本能的に「攻撃されるかも!」と身構えてしまうんだそうです。そこをあえて右側から近づくことで、私たちのバリアをそっと解きほぐそうとしてくれているんですね。
さらに、あの「いらっしゃいませ」という声かけには、もう一つ重要な役割があります。
それは 「万引き防止」 です。
「私はあなたを認識していますよ」「何かあればいつでも助けますよ」というメッセージを発信し続けることで、お店の平和を守る「ガードマン」のような役割も果たしているんですね。
そう思うと、あの「何かお探しですか?」という言葉が、お店を安全に保つための 不思議な呪文 のように思えてきませんか?
気まずさを「お互い様の儀式」として楽しむ
私たちは「自由に選びたい」と思い、店員さんは「お店を守り、より良い提案をしたい」と願っている。
お互いに「良かれ」と思って行動しているのに、なぜかその中間地点で「気まずさ」という火花が散ってしまう。
でも、この「不要バッグ」という現代の工夫や、店員さんのプロの気遣いを知ると、これまでは「プレッシャー」でしかなかった声かけが、なんだか 「一生懸命な人間同士のやり取り」 に見えてくる気がします。
「あ、プロが右側から来たな……!(笑)」
「今日のお店は、バッグ一つで『一人で見たい』を認めてくれてるんだ、ちょっとホッとするな」
そんな風にちょっとだけ見方を変えてみると、あのドギマギする時間も、お買い物の楽しみの一つとして受け入れられるようになるかもしれません。
次に服屋さんで「何かお探しですか?」と背後から気配を感じたらほんの少しだけバリアを横に置いて、 「まずは一人で見ますね」 と、さらっと返す…...くらいの大人になりたいものです (笑)
▼もう少し「ふしぎ」を眺めたい方へ
店員さんの視線のプレッシャーを避けるあの心理。実は、道ゆく人と目を合わせない「あの不自然な沈黙」とも、深い関係がありました。
距離感にドギマギするのは、お店の中だけではありません。三人で歩く時にふと感じる「あの疎外感」の正体も、覗いてみませんか。
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