サイバーレジリエンスの取り組み方
※2025年12月24日にイミューダブルストレージ製品に関して加筆しております。
サイバーレジリエンス(Cyber Resilience)とは、ランサムウェアや不正侵入、情報漏洩(ろうえい)といったサイバー攻撃、あるいはシステム障害が発生した場合でも、事業・業務を止めない(または停止を最小限に抑える)ことを目的に、被害を抑えつつ迅速に復旧し、同じ失敗を繰り返さないための 『組織としての基盤』を指します。
従来、自然災害などによってシステムが停止した際のBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)として、復旧手順や運用の整備は重視されてきました。しかし近年は、サイバー攻撃による被害リスクが高まり、ひとたび攻撃を受けた企業は、その後も繰り返し狙われる可能性が高いと言われています。
こうした状況を踏まえ、本稿では私自身の経験をもとに、サイバーレジリエンスを実現するうえで直面しやすい課題や、その『現実的な大変さ』について紹介していきます。
1.そのバックアップって大丈夫?
バックアップの取り方って、様々。データベースをバックアップするタイプ、マシン全体をバックアップするタイプ…。
勤務先では、ランサムウェアの被害を最小限にするべく、バックアップのバックアップ先にイミューダブルストレージ(Immutable Storage:不変ストレージ)を採用しています。イミューダブルストレージとは、一度書いたら何度でも読めるが書き換え不可という、WORM(Write Once, Read Many)機能です。
Azure Backupや、Nutanix Files等にWORM機能があります。勤務先では既に販売終了になってしまいましたが、Arcserve OneXafeを利用し、Arcserve UDP Applianceでバックアップ完了したものがOneXafeに書き込まれる仕組みとなっています。
*OneXafeは販売終了しておりますが、代替製品としてArcserve CRS製品がリリースされたのことです。Arcserve CRSについては↓記事を参考ください。
私はArcserveのメーカーの人ではございません。単なるユーザーにすぎません。パネルディスカッションで登壇した際、バックアップソフトであるArcserve UDPの機能に、「アシュアードリカバリ機能」というの知りました。この機能は、取得したバックアップデータが壊れていないかどうかを調査できる機能で、すぐにでも利用しようと思ったわけです。現在ではタスクに加え、メールに届くログでチェックしています。
Arcserve UDPのコンソールからのタスク追加は簡単です。勤務先ではNutanixないしESXiの仮想基盤を利用していますので、エージェントレス(VMにバックアップソフトをインストールせずに)でバックアップが行えます。そのため、[タスク1]ではエージェントレスでのバックアップを行い、[タスク2]でOneXafeに対してのバックアップデータの複製を行うため、レプリケートを行います。[タスク3]で、アシュアードリカバリテストを行い、Arcserve UDPでバックアップしたバックアップデータに実際にアクセスできるかのテストを行う機能が備わっています。

そのログがメールで自動送信されるわけですが、その一例です。

つまり、バックアップデータを仮想的にマウントさせ、Cドライブに対しアクセスを試みて、アクセスできれば正常と判断という仕組みです。実際にOSが起動して動作するか、までは行われないため、そこは、実際にヒトが実施すべき事項となります。
バックアップデータへのアクセスができるから、これで良しとしましょう!とタスク完了としたいところですが、役員の方からは「実際にリストアして動作するかどうか試さなきゃ分からないだろ」と突っ込みがよくきます。
そんな時はスクショを取りながら結果報告をするわけですが、これが大変です。
2.リストアは時間がかかる
1)ラボ環境の準備
バックアップがあると、「元に戻せばよいだけ」と簡単に言われがちですが、実際の リストア(復旧)作業には非常に多くの時間と準備が必要です。
まず、復旧作業は 通常稼働している本番環境では行えません。本番環境はすでにシステムが動いているため、復旧作業を行うと業務に影響が出てしまいます。そのため、復旧の検証や作業を行うために、別途ラボ環境(検証環境)を用意する必要があります。ラボ環境は、その都度環境を構築していく必要がありますので、その事前準備が必要となります。
勤務先のシステムは Active Directory(AD)を基盤として構築しています。
リストア後は、そのADをラボ環境へ展開する必要があります。ADのラボ環境へのクローニング展開を行わないとシステムにログインできないといった点もあります。また、勤務先では、このラボ環境へのアクセスはデータセンターで処理が必要です。もしくは、ラボ環境向けに作業VM(作業仮想マシン)を用意が必要となります。つまり、ラボ環境に展開にあたっても、その都度準備が必要なわけです。
2)二重バックアップ=復旧がかえって大変になる
当社では以下のようにバックアップを取得しています。
1次バックアップ:Arcserve UDPによる通常のバックアップ
2次バックアップ:Arcserve OneXafeというイミューダブルストレージ(改ざん・削除できない保管先)へのバックアップデータの複製
通常は 1次バックアップからリストアできれば十分です。
ところが、「イミューダブル側からも復旧できるのか?」と指摘されることがあります。イミューダブルストレージからのリストアは、作業負荷が一気に高くなります。
Arcserveの仕様上、OneXafe(イミューダブルストレージ)から直接リストアはできません。復旧するには、以下の工程が必要です。
OneXafe上のバックアップデータを 一度、UDP(バックアップサーバ)へインポート
UDPの管理画面(コンソール)から リストア作業を実施
つまり、復旧作業が二段階になるということです。
3)実際にどれくらい時間がかかるのか
例えば、<バックアップ取得に丸1日かかるVM(仮想マシン)>の場合、
OneXafe → UDP へのバックアップデータのインポート:約1日以上
UDP → 復旧先へのリストア:約1日以上
合計で 3日程度が必要になります。
さらに問題なのは、UDPでは 日常的にバックアップ処理が常に動いている点です。
4)バックアップジョブのスケジュール変更
そのため、リストアを行う前に以下の準備が必要になります。
現在動いているバックアップジョブが いつ終了するか確認
リストア作業(今回の例では2日間)+予備日として1日を見込む
向こう3日間のバックアップ処理が開始されないよう設定変更
これらを行うため、ログを確認しながらジョブの終了予定時間を割り当て、
一つ一つ設定を変更していく必要があります。
また、Arcserveでは、リストア時にも 「書き込み」+「書き込みチェック」という2つの処理が走るため、その分の 『サーバーリソース(性能・空き時間)』もUDPバックアップサーバのリソース確保しなければなりません。
5)実際、リストア時間は準備あわせてどれくらい?
実際の復旧作業自体は2~3日で終わるケースでも、コスト面の都合から リストア専用のサーバーを保有していないため、
バックアップサーバの設定変更
スケジュール調整
影響範囲の確認
これらを含めると、
1つのリストア作業に約1週間かかることも珍しくありません。しかし、現実にはその1週間すべてをリストアに使えることはありません。
通常業務に加え、
社員からのトラブル対応
突発的な問い合わせ
不要不急の営業電話対応
などが発生し、リストア作業に集中できる時間は 全体の数十%程度です。
リストアが完了したのちに、
無効化したスケジュール調整
バックアップサーバの設定変更
が発生します。
このように、環境を切り分ける必要があり、復旧工程が多く、事前調整に時間がかかり、実作業に集中できる時間も限られる、という理由から、
「たった1つのバックアップデータを復元するだけでも、非常に多くの時間と労力が必要」というのが、実際の現場の実情です。
3.とるべき姿
サイバー攻撃対策として新たな製品を導入する、BCPの観点でバックアップサーバを追加する、こうした「何かの目的のために投資する」という考え方は、一般的で分かりやすいものだと思います。実際、システムや製品を導入すれば、その効果は目に見える形で表面化しやすいからです。
一方で、同じくらい重要であるはずの「復旧」に対する考え方や投資は、どうしても後回しにされがちです。復旧には、設備や構成だけでなく、作業時間の確保、運用調整、検証環境の準備、そして担当者の負荷を含めた現実的な計画が必要です。この『復旧のための投資』こそ、本来もっと評価されるべきではないでしょうか。なぜなら、いざという時に最後に効いてくるのは「戻せるかどうか」、そして「どれだけ確実に、どれだけ早く戻せるか」だからです。
さらに復旧作業は、技術的な難しさだけでなく、精神的な負荷も大きく、担当者のリスクを確実に増やしていきます。たとえ2~3日間バックアップジョブを止める作業だけでも、その前後の再調整は想像以上に大変で、バックヤードでは多くの工数と神経を使っています。こうした見えにくい苦労を少しでも理解していただけると、非常にありがたいです。
