カフェNullといちごシロップの午後 4話【創作大賞2025】【全6話】
4 未完成のレモンケーキ
まだ暑さの残る午後、ゆらはカフェNullのカウンターの中で、ため息をつく。このところレモンケーキを試作しているのだが、思うようにいかない。
今日焼いたレモンケーキは、前よりいい焼き色だけれど少しすっぱいようだ。レモンのしぼり汁を入れすぎたのかもしれない。
ゆらは、うまく作れるようになったら、Nullのメニューとして出したいと思っている。しおりさんも賛成してくれた。
「ねえ、しおりさんも味見してくれる?」
「うん。いい香りだね」
一口食べてしおりさんが言う。
「ゆら、これおいしい。さわやかな気持ちになる」
「うん。でもこの前と味が違うよね。ちょっとすっぱい気がするの。」
「うーん、そうかな。でも、ゆらの気持ちも、レモンも、気温もこの前と違うでしょう。同じ味にならなくてもいいと思うの」
「そう?」
「私はそう思う。同じじゃなくても、ゆらがおいしいと感じる味ができたらいいんじゃないかな」
「うん。ありがとう。」
「お客さんに出す日が楽しみだね」
「うん」
その日の夕方、ゆらはレモンケーキを包んで持ち帰ることにした。両親に感想を聞いてみたらなんて言うだろう。Nullのお客さん達も、新しいメニューを喜んでくれるかもしれない。誰かを喜ばせることって、自分が嬉しくなることだ。ゆらは、すみれ色の空を見上げながら、レモンケーキの包みを抱えて歩いた。
