カフェNullといちごシロップの午後 3話【創作大賞2025】【全6話】
3 クラシックギターと雨の日
朝から雨が降っている。カフェNullの窓の外は、うす暗くかすんでいる。
ゆらがオレンジ色の小さなランプをつけた時、常連のホソダさんがやって来た。
「おはようございます、ホソダさん」
「おはようございます。コーヒーをください。」
「はい」
ホソダさんが、いつもの奥の席に座る。隣にギターケースをそっと置く。
ホソダさんは、クラシックギターの演奏家で、先生で、時々こうしてギターを持ってNullに来る。
ゆらは、丁寧にドリップしたコーヒーを運ぶ。しおりさんが、カウンターの中で雑貨を手際よく梱包しながら、声をかける。
「ホソダさん、おはよう。あとで何か弾いてくれない?」
「おはようございます。もちろんいいですよ」
ゆらは、まだホソダさんの演奏を聞いたことがないので、そわそわしてしまう。しおりさんと2人で、ホソダさんの前の椅子に座って演奏を聞く。クラシックギターの透きとおるような音が重なり合っては広がって、ゆらはうっとりとする。
その時、Nullのドアが静かに開いた。音色に誘われるようにして入ってきたのは、雨に濡れた肩、眼鏡をかけた静かなまなざしの若い男の人だ。ゆらは、立ち上がって小さく声をかける。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
「はい」
みんなで、ホソダさんの演奏を聞いた。曲が終わると、一斉に拍手をした。男の人が、ゆらに声をかける。
「あたたかい紅茶をください」
「はい」
しおりさんが言う。
「ホソダさん、もしよかったらもう1曲聴きたい。ねえ、あなたも構わない?」
男の人がほほえんでうなずく。
「ぜひお願いします」
ホソダさんが、またギターを構える。
「はい、弾きましょう」
タビーは、今日もすみっこで丸くなっている。ゆらは、カウンターで紅茶を淹れながらホソダさんの音楽を聞く。ケトルのしゅんしゅんという音、クラシックギターの音色、雨音、タビーの寝息。ここには、ゆらの好きな音があふれている。
