流れる汗ととどまる言葉
インタビューの仕事があった。猛暑で、白のブラウスと紺のスラックスを着る私の首筋や、こめかみからつーっと汗が伝っていく。
インタビュイーは、この暑さが吹き飛んでしまうくらいの爽やかな方だった。彼の放つ言葉のひとつひとつが、しみしみと心に馴染んでいった。
編集長の川上さんと、東京駅で昼食を食べた。ご馳走してくださった。ありがとうございます。私はカレーライスを頼んだ。アイスコーヒーも。銅マグが汗をかいていた。ひと口飲むときん、とする。喉と脳を冷やしてくれた。
ご飯、お肉、ルー、福神漬。均等にスプーンの上に乗せて、口に運んでいく。川上さんと記事や育児の話をする。アドバイスもいただく。暑さでほてっている身体に、カレーの辛さがエネルギーを運んでくれる。
外に出ると、また滝のような汗。私という人間が、ものすごく活性化しているのがわかる。美術館に行こうと思ったが、疲れて断念し、自宅へ戻った。
お迎えの時間までに、シーツやタオルを洗う。ぎんぎらと太陽の差し込む2階へ、洗濯物をえっちらおっちらと運び、干す。車のエンジンをかける。図書館に寄って予約本を受け取り、幼稚園へお迎えに行く。今日は室内で体操の授業があったらしい。
昨日作り置きしていた、大量の豚汁を火にかける。そのあいだに洗い物をし、油をあたためる。エビフライのじゅう、という音。ぱちぱちと油がはぜる。息子のリクエストでしおむすびを作る。もうもうと、湯気が私に降り注ぐ。
ぼうっとした暑さのなかで、インタビュイーが話してくれた言葉の数々を思い出す。それはリアルタイムに聞いていた時の熱量とは少し違う。じんわり、私の細胞までいきわたっていく感じ。しみしみ。しみしみ。
開け放ったキッチンの小窓を見る。時計は18時半をさしている。まだ、空は薄いピンク色だ。さっきまで私の身体を強制的に活性化させていた暑さは、いつのまにかぬるい風に変わっていた。
「なかなか暮れない夏の夕暮れ」。私はつぶやく。江國香織さんの小説のタイトルだ。なぜ、それを思い出したんだろう?
ピンクと水色、それにちょっとだけ悲しいような、うすい黄色の混じった夜を見たから?ああ、あの話の主人公は本をたくさん読んでいる。それが、インタビュイーの姿と重なった?
『なかなか暮れない夏の夕暮れ』は、主人公が読んでいる物語の世界と、主人公が生きる現実の世界が交差しながら展開されていく。その「ぶつ切り」感が面白い。
私の現実は、といえば。いつだって、滝のように流れる汗と、流れていかずに私に留まる言葉たちが、同居している。それらが、私のいのちを作っているのだ。
否が応でも、生きていると思い知らされる暑い夏。きらいじゃないよ、夏。
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