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回収事故の舞台裏:異物混入から学ぶ食品メーカーの品質管理と危機管理

先日、よつ葉乳業のバターで回収事故がありました。

正直当事者だったとしたら背筋が寒くなる事態なのですが……悲しいかな、そこそこの頻度でこの手の食品事故というのは起こります。

ただこの辺りは食品メーカーの人で、間近に経験されたことがないとなかなかイメージがつかない、というのが正直なところだと思いますので、あまり触れられない「食品の回収事故」についてざっと語っていきたいと思います。


1.食品の異物混入はそれなりに起こる

これまた残念な話で、あまり言うのも……というのはあるのですが、まず食品の異物混入というのはそこそこ多いものです。

一番混入事故で多いのは毛(髪)、次いで虫です。工場に寄ってどっちが多いかは入れ替わるかもしれませんが、この2つがツートップ。

もちろん、工場ではこれらをゼロにすべく徹底的に対応はしています。毛が落ちないツナギだったり、作業着のローラー掛け、毛髪チェック、エアシャワー、その他もろもろ。

虫に関しても、誘引灯の設置や防虫業者との連携など、様々な手をこらしています。

しかし、何トン・何十トンもの量、何十万パッケージの量を毎日製造している工場では、そうしたものの混入がごくまれに見られます。そしてこれらに関しては、都度メーカーからお客様へのお詫び・事故の検証がなされていく。

ただ、こうした混入での回収事故というのは、実際にはあまり大々的には報じられません。この手の事故で大々的に回収になったのは、ペヤングの事例とわらべや日洋の事例くらいだと認識していますが、あれは虫(しかも黒いアイツ)が丸々入ってたという事態だったからです。

ちょっとわかりにくかったので補足すると、最初の「虫の混入」は「ちっちゃい羽虫」を想定してます。一方で、黒いアイツはちょっと例外。あれが丸々入っちゃうのは、そら大々的に回収対象よ……
あと、どっちもSNSで先に爆発炎上したというのがあるわね。

つまり何が言いたいかというと、毛や小っちゃい虫では回収事故にはならないのです。
なぜかというと、
①安全性の面で、直ちに大きな被害が起こる可能性はほぼない
②偶発性が高い
(その製造ライン全体に問題があったのではなく、該当商品にたまたま入ってしまっただけ、という可能性が高い)
からです。

あと身も蓋もないこと言えば、毛や羽虫の混入でそのロット全部回収になると、食べられるもの相当減ると思う……。

2.回収事故になってしまうとき

では、回収事故になるのはどういうものかというと、さっきの真逆です。

つまり、
①安全性の面で、被害が起こる可能性がある
②製造ライン自体に問題があり、一部の商品で影響がとどまらない可能性が高い

場合ですね。
このどちらかでも引っかかっていると、メーカーとしては回収という判断を取らざるを得なくなってきます。

今回のよつ葉バターの件に関しては、金属線の混入ということで、食べた時に口や喉に刺さる可能性や、飲み込んでしまった時の体内での挙動を考えると、回収は妥当でしょう。

ところで、金属片が出てくるということは、機械設備に何らかの異常があったことを示します。ターミネーターが製造しているなら金属片が偶発的に混入することもあるでしょうが、人間から金属片はなかなか落ちないので、まず間違いなくラインのどこかから混入したことになる。

こうなってくると、たまたま1つの商品にしか異物が入っていない、ということにはならなくなってきます。
他の商品にも同じように入っていてもおかしくない、そう考える方が妥当でしょう。

そのため、こうしたときに世間に大々的に公表し、回収を呼びかけます。

3.回収事故というのはとにかく重い

回収を呼び掛けるのは、先ほども言った通り危害性がある可能性があるからです。そのため、とにかく広く情報を周知することになります。

結果としてどういうことが起こるか。新聞記事やニュース、SNSなどで大きく取り上げられることになります。

日本で一番見られているホームページはYahoo!のトップページらしいですが、そこのニュースの見出しの1ページ目に載ることも多いです。企業にとっては、とてもマイナスイメージを与えることになる。

言うまでもないですが、費用も尋常じゃなくかかります。
一般的にスーパーなどで売っているものに対して回収を呼び掛けたときのケースを考えてみましょう。

①消費者から

売上がなくなるのはもちろんのこと、消費者が既に買ってしまった商品は当然着払いで送ってもらうことになります。商品の価格もそうですが、送料もバカにならない。
また、代金返金に加えた別途送付品を送る場合もあり、その費用もかかる。

②量販店から

スーパーなどに送ったものはそのまま回収することになります。ここも同じように送料がかかるほか、ケースによっては売価補償が発生することもあったり。
長期的には、しばらくその商品があった棚から外される、というのが直接ではないですが大きなダメージになります。商品が置いてあるスペースというのは、常に他社との奪い合いなのだ……。


その他、特に新聞などには、場合によっては広告枠を買って呼び掛けたりすることもあるので、この辺りも結構な費用がかかります。

あとは社員も結構駆り出されます。品質管理部門や生産部門は、事故発生の原因からその対策まで、とにかく急ぎでまとめていきます。ここは不夜城化する。そこの費用(主に残業代)も必要。

またその他の社員も、スーパーでまだ商品が売られてたら買って回収したり、回収で送られてきた商品の処理などに駆り出されることがあります。回収した商品はもう廃棄になるのですが、パッケージは分別して捨てたりしないといけないからね……こういうのはメンタルに来ます。
商品かごいっぱいに今話題の回収製品積んでレジに並ぶの、キツいんすよ。

地味に心が折れるのは、全く関係ない商品が送られてくることです。◯◯味は回収だけど▲▲味は回収品ではない、でも関係ないのに送られてくる、とかね。

まぁ事故を起こした方が悪いので、勘違いで送られてきたものも同じ扱いになりますね……。

4.品質は事故から磨かれる部分もある

ここまで記載した通り、品質事故は大変深刻な事態になります。メーカーとしては、お客様に健康危害がある、あるいはそうした不安を抱かせてしまった部分は、真摯に受け止め反省しなければいけません。

ただ、これは食品に限らずだとは思うのですが、製造業というのはこうした事故の反省の繰り返しで品質が磨かれていく、というところは確かにあります。

今回のよつ葉バターの件は、該当ロットは賞味期限の全ての期間で回収になりました。これは何を意味するかというと、①予想していなかった箇所にトラブルがあった、②原因が(回収時点では)特定できなかった、のどちらかだと推察されます。

というのは、定期的に検査している工程で破損があった場合、回収期間は賞味期限よりは短くなるはずだからです。

図解。これでわかるかな……?

今回これが賞味期限の商品全て、ということは、定期的なチェック項目に入っていなかった。つまり、事故の報告があるまで気付かないところ、チェック項目から外れていたようなところで事故が起こっているのではないか、と考えられるわけです。

ダメだということを前提に、見落としてしまう部分、当初予想していなかった事故というのはあるものです。ただ、こうした見落としや、事故で得られた知見をもとに、管理体制を見直していく。事故を伝承し、後輩たちが品質を磨いていくことで、製造業は発展していくのだと思います。

今名だたる大企業も、必ずどこかで大きな事故はやらかしています。僕のいる会社もそうですが、僕が入社する何十年も前に事故を起こした日を「◯◯の日」のようにして、脈々と受け継いでいます。

繰り返しますが、基本的に事故はあってはならないものです。誰も事故を起こしたいと思ってやっているわけではない。

ただそれでも、事故はやはり起きてしまいます。そんな時は、粛々と回収に応じていただければと思います。

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