見出し画像

塩分と塩味の感じ方、健康とフードテック

1.日本人は塩分を摂りすぎなんだッ!!

以前前田敦子さんが子供の食事から極力塩を抜いている、という話がありましたが、そのポストには結構「塩分不足はヤバい」「塩分不足は死ぬ」というコメントがついておりました。

まぁそれは事実としてはそうなんですけど、実際には現代社会では普通の食生活をしていると結構過剰気味に塩を摂ってしまうのです。

上に示した表は厚生労働省の日本人の平均食塩摂取量ですが、男性で11.0g/日、女性で9.3g/日(2018年)です。
そして、日本の摂取基準は男性7.5g、女性6.5gです。ワオ大幅超過。

さらにさらに、この基準は日本だけ特にゆるめです。たぶんこれ、まともに設定しちゃうと遠すぎて誰も守らなくなるからではないでしょうか。
世界の基準は、5.0g/日です。

つまり、普通の食事をしていると思っている私たちは基本塩分摂りすぎです。マジで。あすけんで食事記録取ってみたら分かりますが、飽和脂肪酸と塩分は大抵の人で「過剰」になります。もちろん僕も。

ではなぜこんなことになっているのか。「私あんまり塩辛いもの食べてないんだけど……」と思っている方も多いかもしれません。

実はそれが塩分の難しいところで、割と食材そのものに塩分が含まれていると場合が多いのです。例を挙げるとこんな感じ。

食パン6枚切り1枚:0.8g
うどん1玉(麺のみ汁なし):1.4g
かにかま(1本):0.3g

とりあえずネットで拾った数字

実際の食事で考えてみましょう。あすけんのアプリを使ってこんな朝食を考えてみました。

・食パン(6枚切り):1枚(マーガリンを塗る)
・ミックス野菜サラダ:両手に一杯くらい(キャベツ・ニンジン・レタス・きゅうり、ノンオイルドレッシングをかける)
・明治ブルガリアヨーグルト(プレーン):50g(小鉢くらい)
・コーヒー(ミルク入り):1杯
・ハムエッグ(ハム1枚卵1個、醤油をかける)

なんというか、余裕ある朝の朝食ですよね。これ食べすぎだとまで言う人はあまりいないと思います。
で、これの栄養成分出してみましょう。どん。

飽和脂肪酸もバカ高い

塩分なんと3.9g!!
この食事を3食したら12gです。というか、日本のゆるゆる摂取基準を物差しにしてなお、1日の目安の半分をこんな朝食で超過しています。
減塩の難しさを少しわかっていただけたのではないでしょうか。

2.食パン vs マックフライポテトの塩分

さて、最近こんなツイートがバズってしまいました。

さっきの食事を塩辛いと感じない人も、マックフライポテトは塩辛いと感じる人は結構多いのではないでしょうか。しかし、マックフライポテトは実はそんなに塩分は高くないのです。Sサイズをここでは例に挙げましたが、よくセットについてくるMサイズでも0.7g。これ、食パン(マーガリン抜き)より塩分少ないです。

ちなみに「あんなオペレーションなんだから量なんか適当だろ」みたいなレスも多かったですが、公式で出す以上20%も30%もズレた値は出しません。そしてこんなことを言う人は、塩が0.7gと0.8gでどれだけ塩辛く感じるかの差をわかっていません。実際に0.1gの塩を舐めてみると、どれだけその量が塩辛いかわかると思います。

ではなぜこんなことが起こるのか。それは、私たちの舌というのは食品の表面の塩分しか感じることが出来ないからです。雑に図示すると下図のような感じです。

3分で作った図

要は食品の中に練り込まれた塩分というのは我々は感じることが出来ないのですね。もちろん咀嚼すると表面は増えるので多少塩を感じますが、実際の食品というのはもっと細かく均一に塩分が分散していることがほとんどです。

そしてこれが、パンとポテトの塩分と塩の感じ方そのものになります。言うまでもなく、左側がパン、右側がポテトのイメージですね。

塩は味付けもそうですが、それ以外にも機能があり、どうしても使わなければいけないシーンは多々存在します。

少し前までホームベーカリーが流行っていたので作ったことがある方も多いと思いますが、パンって作るときに塩を入れますよね。あれは味付けはもちろんですが、パンの骨格を作るグルテンの強化(パンのコシを強くする)のためにも必要ですし、細かく言うと酵素活性阻害機能といって発酵しすぎないようにするような効果もあります。
塩を入れないと、パン生地がまとまりにくくなったり、膨らみすぎたりします。パンを作るうえでの加工上、塩が必要になっているんですね。

なので生地自体に塩が練り込まれ、結果として塩味は感じにくいけれど、それなりの量の塩が入っている。

一方でポテトの場合、じゃがいもにも油にも塩は入っていません。塩は最後、上からかけるだけです。もちろん時間が経つと湿って内部に吸収されていきますが、揚げたてのポテトは表面の塩をダイレクトに感じる仕様です。

なので、同じような塩の量、あるいは塩の量が少なくても、塩味の感じ方は逆転するということは往々にしてあり得るのです。

3.食品加工における塩の役割

先述した通り、食品加工において、塩は単なる味付けだけで使われているわけではありません。

先ほどのパンの例もそうですし、他の例ではかまぼこやちくわのような練り製品もそうです。これらの練り製品は、塩によって魚の肉のタンパク質が溶け、練られる過程で新たなタンパク質のネットワーク構造が出来るため、あのプリンとした食感が生まれます。

同様の例としてはハンバーグもそうでしょう。こねるときに塩を入れると肉に粘りが出て良くまとまりますが、あれも肉のタンパク質が溶けてこねる過程でのネットワーク構造形成によるものです。

また、漬物は塩辛い食品の代表格ではありますが、あれも味付けのために塩辛くしているのではなく、保存性を高めるために塩を使っています。塩によって野菜の水分を外に追い出し、乳酸発酵を進めることで保存性を高めるという先人の知恵の結晶ですね。

発酵の調整という意味では、チーズもそうかもしれません。特にチーズの場合は塩の量や使い方(まぶすか塩水に浸すか)などで味わいや特性がまるで違ったりします。

そんなわけで、こうした食品は美味しいのですが、一方で塩の量が多くなりがちだったりします。

4.健康とフードテック

言うまでもないかもしれませんが、食塩の過剰摂取は血管や消化器に負担をかけるため、高血圧や腎疾患、胃がんなどの原因になるとされています。一方で先述した通り、多くの日本人は食塩を既に過剰摂取している状態です。

なお、先のツイートでみそ汁を例に出したところ「みそ汁は塩分の量ほど健康に悪影響を与えない」的なレスもお見かけしました。たしかに、食品の中には血圧を下げるペプチド(バリルチロシンとかMKPとかね)もあり、大豆タンパク質が分解された味噌には確かにそういうのも多少含まれてはいるでしょうが、塩の影響をキャンセルできるほど強い効果なんてないので、マジで過信しない方が良いです。

そんなわけで減塩というのは健康長寿を目指すためには意識した方が良い項目ですが、散々説明してきた通りなかなか難しいのも事実です。

ただ例えばマックフライポテトが良い例ですが、「塩系の味付けは最後に表面だけにする」というのは、味を落とさずに減塩が出来る良い例の一つです。塩は本当に効果が強くて、0.1g、0.2gでもダイレクトにその強さを感じることが出来ます。

また、減塩をフードテックでやろうという流れもあります。かつてソルトチップという商品を出したベンチャーもありました。見なくなっちゃいましたが。

これもまさに「人間は表面しか塩味を感じない」を逆手に取った良い商品でした。チップを上あごに貼っておくと徐々にチップが溶けて塩を放出し、塩味を感じさせてくれる、という商品で、このチップ自体には0.04gしか塩が含まれていない。病院食向けみたいな商品でしたね。
(ただ実はこれ買ったことあるんですが、チップが上手く張り付かなくてイライラしました。アイデアはよかっただけに……)

そして昨今、注目を集めているのはキリンのエレキソルトでしょう。電気の力でナトリウムイオンを集め、減塩食品でも塩を強く感じさせるという商品で、すごく話題になりました。今は抽選販売になっているよう。19,800円するのに……。

公式ホームページより引用。
明治大学の宮下先生との共同研究。いつかお話ししてみたい。
こないだ講演をようやく聞くことができました。めっちゃ喋りが上手かった。

なんと新型になって、値段も24,750円になって再登場。今は在庫もありそう。
でも個人的にはカップのほうがいいなぁと思う。汁物は塩分多いんすよね。

そして味の素の「電気調味料」。微弱な電気で味覚を刺激することで塩味を強く感じられる技術ということで、こちらもまた別のアプローチで減塩食品を美味しく食べられるようにしようという試みです。

公式ホームページより引用。
装着している間(咀嚼している間)塩味を感じられるのが良いところかも。

このように、減塩に対して様々なフードテックも生まれています。
一般食品も減塩食品はどんどん増えていますし、サプリや機能性食品でも少しずつ塩の排出を促す商品も出てきています。この辺りは今後もアツい話題なのだろうなと思いますね。

この記事を読んでいただいたなら、改めて日々の塩の摂取量などを振り返ってもらえると良いのかなと思います! みんな、長生きしようぜ!

* * * * *

Xでも日々食品に関する発信をしています!
こちらからどうぞ:https://x.com/itsuki26_labo
記事が気に入っていただけたら、ぜひ「スキ」もお願いします!

いいなと思ったら応援しよう!