【初心者向け】自分で発酵食品を作ろうと思った時に知っておきたい、最低限の知識と心構え
「発酵食品というのは身体に良いものらしい」
真偽のほどはさておき、こういう風潮が世間にあることは事実で、そうすると自分で発酵食品を作ってみようとするクリエイティブが豊かな方もたくさん出てきます。
作り方をある程度ちゃんと学んで、その通りに従って作ればそんなに失敗は少ないもの……である一方、SNSの海を泳いでみれば、結構危険な作り方をされている方が散見されるのも事実なので、僕はたびたび注意喚起を行うようにしています。
以前こういうツイートをしましたが、ほんと食品加工メーカーが使用する菌や酵母みたいなのは選抜に選抜を重ねたスーパーエリートなので、その辺のよくわからん野生の菌捕まえて「発酵○○」みたいなの素人が作るの、シンプルに危ないっす。 https://t.co/8rA7gb8uPR
— いつき@食品メーカーの中のひと (@itsuki26_labo) August 20, 2025
今回なぜかちょっとバズったんですが、そしたら出るわ出るわ恐怖の発酵術。ちょっとご紹介します。
「赤ちゃんの手には良い乳酸菌がたくさんついてるから、赤ちゃんの手で牛乳をかき混ぜると良いヨーグルトが出来る!」という自称自然派の人達がいましたね。
ハイよくないー!
人間の皮膚の常在菌は接していると結構共通していくものなので、赤ちゃんの皮膚常在菌は一番接している親に近い構成のはずです。なので、親がやるのと変わらない。
そしてそれ以上に、乳児期に食品を皮膚につけるのはアレルギーの原因になるのでマジでやめてほしい。子供のアレルギーの一番の原因は食品の皮膚感作じゃないかと言われてるくらいだぞ。
高校の時に生物工学科の生徒だったワタクシ
微生物チームでお勉強してたんだけど、 ヨーグルトを作る新しい乳酸菌を探す って男子が頑張ってたの思い出した
畜産科の酪農牛舎から菌を拾ってきては培養してた彼らのヨーグルト酸っぱすぎるって騒いでたな
懐かしい
乳酸菌だから乳牛にいるって思ったのかな? かわいい。
たぶんそれ別の菌ゲットしてきたと思うんだ。
塩麹とかが流行った頃、素手でベリー系フルーツを揉んで「自分菌で発酵!」って言ってる人いてめっちゃ怖かったの覚えてる。
自分菌とかいうパワーワード。皮膚にいる菌と腸内にいる菌は別物ですから、めっちゃバトると思いますよ。
「手についた常在菌がおにぎりをおいしくする」と言い張る人が、やたら自家製漬物や味噌を配るんですよね。絶対手付けないけど。 エセ科学EM菌で作ったらしいドロドロコンポスト配るのもやめて。臭いんです
ここでも出てきた自分菌。自分で食べてお腹を壊していただく分には構わないのですが、それをなぜ配ろうとするのか。そしてたびたび出てくるEM菌という概念は、エセ科学の頂点の一つみたいなものなんですが、一定の支持を得ているのが怖すぎる。
* * * * *
そんなわけで、こういう恐ろしい発酵(のような何か)の世界が広がっているのですが、一方で発酵というのは本来は身近なものだったはずなんです。微生物学の祖ともいえるレーウェンフックやパスツールが生まれるよりも遥か以前から、発酵食品は存在していたのですから。
なので、僕は家庭でも発酵食品を楽しむことは悪くないと思っています。実際に僕自身、過去に自分で酵母を起こすところからパン作りをしたことがあります。
大学院の頃、研究室のある機械の裏が酵母を起こすのにちょうど良い温度になってたので、リンゴから酵母起こしてパン焼いたことがあります。たのしかった。 https://t.co/e9aIa2MWa4 pic.twitter.com/gzS0oaMNX2
— いつき@食品メーカーの中のひと (@itsuki26_labo) January 31, 2024
ただ、微生物学の発展に伴い「こうやって作ると失敗しにくい」「こうやって作ると安全に作れる」という方法論がどんどんと確立されていきました。ただ、その知見は日常的に食品を作っている人やアカデミアには蓄積されていきますが、当然一般にはなかなか広がっていきません。学問になってしまうと、敷居が高いという話です。
そんなわけで、こういうツイートをいただくと考えてしまうわけです。
そうですね……ちゃんとした手順を本当に知りたいです(´;ω;`)ウッ…
— 涙ノ魔王獣マガコバやsh(VRC:アブラカタブラ) (@kobayashi_1999) August 21, 2025
確信も確証もなく謎物質ばかり生成し続けるのはひたすら悲しいことです。
知識も作法も知らないからです。
いつきさんは、おすすめの情報源(サイトや書籍など)をご存知ですか?
僕はそもそもどこで微生物に関する知識を学んだかといえば、やっぱり大学の授業と会社での実践によるものなんですよね。多分本も読んではいたんですが、あんまり「コレが決定版!」的なものはなかったりします。
で、微生物に関する本はたくさんあるのですが、その本の理解に至るまでのバックボーン的な生物だったり化学だったりの知識も必要になってくるのでは……となると、なかなか安易に「これ読めばパーフェクト」っていうものはないんですね。
たださっきも言った通り、発酵というのは身近なものですし、家庭でもトライしてみることはよいと思うんです。
なので前置きが長くなりましたが、今回の記事は
「こういう発酵食品を作りましょう!」
ではなく、
「発酵食品を作る準備の段階ではこういうことに注意しましょう!」
という記事です。
今回の記事を読んでいただいてから、作りたい発酵食品にトライしてもらえればよいと思います!
(また、こういう部分も気を付けたほうがいいよというのがあれば、有識者の皆様には補完いただけますと幸いです)
それではいってみましょう!
1.必要なもの
①発酵食品を作る容器(耐熱性であることが望ましい)
作りたいものに合わせたサイズを用意しましょう。耐熱性であることが望ましいというのは、僕はいったん容器に熱湯をかけて消毒することを推奨するからです。
②ビニール手袋
手を洗うことは大変重要ですが、手洗いをしても手には菌が残っていると考えるべきです。ビニール手袋をしましょう。ビニール手袋をしなかったがために食中毒を起こした事例も最近ありましたね。これも手についている黄色ブドウ球菌の増殖によるものです。マジで自分菌の考え方はクソ。
というかちゃんと手を洗うっていうことも、家庭のレベルでは不十分なケースが多いのではないでしょうか。工場だと手洗いに30秒以上はかけたうえで(手の洗い方も入職時に指導が入ります)、エアシャワー&アルコール消毒などをしたうえで手袋をしますからね。
③アルコール製剤
最重要です。煮沸消毒後の容器、身に着けた手袋にシュッシュして、限りなく無菌に近づけましょう。
ただ注意すべき点としては、アルコール製剤が乾いた後でないと、発酵に使う菌もアルコールにやられてしまいます。アルコール製剤を噴霧する、それを乾かしてから使用する、という手順を踏みましょう。
我が家はパストリーゼ77を使っています。食品にも噴霧できますしね。
④温度計
温度管理は発酵食品の最重要ポイントです。
後述しますが、おおざっぱに言うと微生物は先に繁殖したもの勝ちです。そのためには、目的の微生物には早く増えてもらわなければなりません。
微生物の増殖に大事なものは「pH」「栄養(酸素の有無を含む)」そして「温度」です。このうちpHと栄養はレシピで担保されているとして、問題は温度。
目的の微生物が何℃で増えるのかを理解したうえで、その温度が出来るだけ常に一定に保たれている場所は家のどこか、を調べるために必要です。
なんやかんや国産、タニタとか信頼できるんじゃないでしょうか。
⑤秤量・撹拌用の道具
計量スプーンとかヘラとかです。必要に応じて。使うときには必ずエタノール噴霧と乾燥を忘れないように!
⑥温度管理器具
作る食品によっては、ヨーグルトメーカーのようなある程度の温度帯で保温してくれるものが必要です。40℃で保温とかする食品だったりすると、そんな場所家庭になかなかないですしね。もちろん熱湯での消毒とアルコール噴霧は使用前に必須です。
2.必要な知識
①微生物を扱うまでについての基礎知識
こんなことを覚えておけば、とりあえず困らないのではないかと思います。
・微生物はあちこちにいるので、作業前は使用する作業台(台所・テーブルなど)はアルコールを噴霧し、清浄な布で拭いておく(布にもアルコールをかけるとよいです)
・意図しない菌が入ることをコンタミネーション(以下「コンタミ」)という。コンタミを防ぐためには、空中に浮遊している菌が入らないようにする必要があります。もちろん、手や道具などの接触由来のコンタミが一番原因なのは言うまでもありませんが(なのでしつこくアルコールを使う、と言っています)。
・マスクを必ず着用し、鼻まで覆う(口腔内の菌のコンタミ防止)。髪の毛の方もケアはしておきましょう。工場ではヘアキャップをしますが、そこまではしなくてもいいかもしれません。まぁでも、縛ってひとまとめくらいにはしてくださいね。髪の毛の菌数は相当多いです。
・熱湯消毒はおまじないに近いですが、僕はやります。熱湯を器に入れて捨てるだけの作業です。
・熱湯消毒から乾燥するまでの器は伏せて置いておけば中には菌は入りません(少し隙間を開けないと乾燥しないので、少し隙間を空けましょう)。もちろんその後、使用直前にアルコール噴霧をしてください。
②扱う菌についての知識
・前提として、上記の処理を行っても、家庭ではどれだけ頑張っても目的の菌以外がコンタミすることは避けられません。
・ただし、微生物は「最初にめちゃめちゃ増殖したものが他の菌の増殖を抑制する」という特徴があります。なので「いかに目的の菌を早く増殖させるか」が重要です。
・そのために必要な知識は、目的とする菌が増殖するための「最適なpH」「最適な栄養状態」「酸素の有無」「最適な温度」になります。
・「最適なpH」「最適な栄養状態」については、たいていのレシピで補完されていると思うので、それに従うとよいでしょう。
・「酸素の有無」は重要です。大まかにいうと、酸素が必要かどうか。これは微生物によって異なりますし、目的によっても変わります。例えば酵母は増殖する場合は酸素が必要ですが、そこからアルコール発酵をするときには酸素が無い状態にする必要があります。
・まぁたいていは酸素が必要な微生物だと思いますが、蓋に穴とかはあける必要はありません(むしろ浮遊菌が入ってくる原因になります)。たまに蓋を開けて、ぐるぐると発酵液を混ぜてあげれば良いです。もちろん蓋を開けるとき、混ぜるための器具はアルコール消毒することを忘れずに。
・「最適な温度」は家庭でいじれる唯一のパラメーターであり、失敗の原因でもあります。こちらについては「最適な温度」をレシピや増やしたい微生物について調べてもらったうえで、その±2℃くらいを発酵期間中24時間ずっとキープできるか、ということが重要になります。意外にシビアです。
・おすすめは風が通らず、エアコンの風が当たらず、光が当たらない場所です。夏場・冬場は部屋の室温もだいぶ変わると思うので、環境を整えましょう。通常部屋の温度が24~28℃くらいのイメージとして、もし30℃の条件が必要であれば、例えば冷蔵庫のような24時間稼働している機械のあたりは比較的温度が高めのはずなので、先に示した温度計を使いながら、そういうところを狙いましょう。
・ただ上記に示したようなところは、日ごろ掃除されにくい部分だと思うので、器を動かすときにはアルコールで拭くことを忘れずに。
・どうしても温度が一定にならない場合や、35℃以上の条件が求められる時は、ヨーグルトメーカーとかを使うしかないかなと思います。一番手軽で一番安心です。
・発酵中、発酵した後の状態がどうなっているかはレシピをちゃんと確認し、その状態になっていることを確認しましょう。レシピはあまり濁ってないのにすごく濁っている、変なニオイがするなどは、失敗している可能性が高いのでやり直しを検討しましょう。また、例えば酵母だとアルコールの匂いが多少していれば「ちゃんと酵母が増えているな」などの確認にも使えます。それぞれの菌で特有の匂いはあります。
・減塩・低糖などのレシピに手を出すのは(少なくとも初心者のうちは)やめておきましょう。塩も糖も、微生物のコントロールには非常に重要なファクターです。基本的にこの辺を減らすと変な菌が増えたり、目的の菌が増えなかったりすると思ってください。先駆者のレシピはいじってはいけない。
上記を理解したうえでレシピ通りに作れば、大きく失敗することはないと思います。ただ、レシピ選定において上記の項目の記載がない(消毒するとか、アルコールをかけるとか)、あるいはヤバイ行為の記載がある(手でかき混ぜる、など)レシピに関しては、別のものを選びましょう。
大丈夫です。ちゃんとしたレシピは見つかるはずです。
以上、自分で発酵食品を作ろうと思った時の最低限の知識についてでした。よい発酵食品ライフを~!
