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ようこそペプチドの世界へ!

最近Xで化粧品関係の方々とも繋がるようになりまして、流れてくるタイムラインの中でペプチドが結構面白い扱いをされてたんですね。

まぁそれで調べてみると、結構保湿とかそういうキーワードで出て、なるほどそういう感じなんだ、こういう世界もあるんやな……と思ったのです。

さて、僕は研究所時代は専門がタンパク質でございまして。

タンパク質を使った素材研究となると、ほぼペプチドになるわけです。
なのではい、ペプチドに関しては一家言あるんですよ……。

そんなわけで、食品におけるペプチドとは何かというところを紹介するのが今回の記事になります! ようこそペプチドの世界へ!


1.そもそもペプチドって何よ?

スゲー初歩的な話から行くので、ペプチドが物質として何を指すかわかっている方は飛ばしていただいて結構です。

タンパク質という栄養素があります。

タンパク質が分解するとアミノ酸になるというのは、中学理科で習ったかと思います。つまり、タンパク質はアミノ酸からできています。

このアミノ酸が2個以上くっついたものをペプチド、と言います。

わかりやすいようなわかりにくいような
アミノ酸とペプチド、タンパク質の図

さてアミノ酸は私たちの身体を構成する分としては20種類、自然界にはもっとたくさんの種類があります。ただまぁ、食品としては20種類の中の組み合わせになるものが多いです。コラーゲンペプチドみたいにヒドロキシプロリンが入っている(というかそれをもってコラーゲンとするみたいな)ものとかもあるけど。

さて、
アミノ酸が2個くっつくと「ペプチド」
アミノ酸が3個くっつくと「トリペプチド」
といいます。これらは総称。

先ほどアミノ酸は20種類と述べましたが、ジペプチドになるとその組み合わせは20×20=400種類、トリペプチドになると20×20×20=8,000種類と、累乗で増えていきます。4つくっついたテトラペプチドになると160,000種類。
わけわからん。

その中には生理活性(身体に何かしらの影響を与えるもの)や特殊な機能があることも多く、食品ではしばしばそれらを使って健康機能を謳ったり、商品の設計に役立てたりしています。

余談:何個くっつくとペプチドと呼ばなくなるか、というところは定義もなく若干難しいところがありますが、100個とかくっつくと「ペプチド」というより「タンパク質」って感じがします。血糖値を下げる「インシュリン」とかはアミノ酸51個で出来てますけど、あれはタンパク質だよなーとか。

食品カテゴリーで言うと、アミノ酸が2~4個くらいくっついたものを指すことが多いです。これからご紹介するのもそうしたペプチドになります。

2.食品におけるペプチドの生理機能って?

……を語る前に、そもそもにしてアミノ酸自体にも結構生理活性はあるのです。

例えばアミノ酸の一つグリシン。なぜか睡眠の質向上機能が報告されています。
あの味の素さまがおっしゃっている。機能性表示食品まである。

例えばアミノ酸の一つヒスチジン。なぜか日常生活で疲労を感じる方の疲労による、頭が冴えない・注意力低下といった状態を緩和し、一過性の疲労感を軽減することが報告されています。機能性表示食品はここの文章変えたらだめだからね、長くてごめんね。
あの味の素さまが以下略。

そしてアミノ酸がつながったペプチドになると、これがさらに特殊な機能を持つようになるのです。スゴイネ!

それではいろいろ紹介してみましょう。

①グルタチオン

グルタミン酸-システイン-グリシン(Glu-Cys-Gly)の3つのアミノ酸が並んだトリペプチドです。これ、日本では医薬品。たった3つのアミノ酸が並んだだけなのに。

効能または効果
○薬物中毒、アセトン血性嘔吐症(自家中毒、周期性嘔吐症)
○慢性肝疾患における肝機能の改善
○急性湿疹、慢性湿疹、皮膚炎、じんま疹、リール黒皮症、肝斑、炎症後の色素沈着
○妊娠悪阻、妊娠高血圧症候群
○角膜損傷の治癒促進
○放射線療法による白血球減少症、放射線宿酔、放射線による口腔粘膜の炎症

https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00070843より引用

まぁとにかく抗酸化作用が強くて。
単純な組成なのでタンパク質分解したら結構検出されたりします。そしてなぜかコク味の指標になったりもします。カルシウムセンシングレセプター(CaSR)に反応するのよな……。

医薬品なので、食品に使うことは厳禁です。たまに恐ろしいのあるけど、日本ではダメです。海外ではサプリで売ってたりもするけどね。

アカーン()

②ラクトトリペプチド

食品におけるペプチドの先駆けと言ってもいいかもしれません、ラクトトリペプチド。バリン/イソロイシン-プロリン-プロリン(Val/Ile-Pro-Pro)という3つのアミノ酸で出来たトリペプチド2種類です。VPPとIPPね。

構造としてプロリンが2つ付くというのは珍しいかも。プロリンもアミノ酸の中ではかなり特徴的な構造があるので、ペプチドになると変わった機能を持つことが多いですね。

アンジオテンシン変換酵素阻害活性というと難しいですが(あとで出てくるけど)、血圧を下げる機能があります。カルピス株式会社が発酵乳から見出したペプチドでした。なぜか今は「年齢ペプチド」と名前を付けて売ってる。なんだそのネーミング……。

ちなみにカルピスは結構ペプチドに力を入れているんですが、昔「ラクトノナデカペプチド(NIPPLTQTPVVVPPFLQPE)」とかいう超長いペプチドを機能成分とした商品を出していました。多分機能性表示食品取ったペプチドでは最長だと思う。

ある日オーケーストアで49円で投げ売りされてたので飲んだら、大変好ましくない味がしました……。
覚えておこう。ペプチドはあまりおいしくない。

③サーディンペプチド(バリルチロシン)

機能性表示食品となるペプチド素材としてはこれも大きいと思う。イワシを分解して作るペプチド……ですが、構造がバリン-チロシン(Val-Tyl)なので、まぁ結構タンパク分解物には出てくる。生理活性を出すには量が必要というのは、それはそうですが。

機能はラクトトリペプチドと同じくアンジオテンシン変換酵素阻害活性による血圧低下機能。ただ値段見たことないけどこっちの方が多く使われている印象があるので、安いんじゃないかな。


④ゴマペプチド(ロイシルバリルチロシン)

上のバリルチロシンにロイシンが付いたやつ……!
ということで、サントリーの胡麻麦茶に入ってるやつです。効果はアンジオ以下略による血圧低下作用。ただ、こっちはトクホなので、エビデンスレベルとしては機能性表示食品よりしっかりしています。

ちなみに同じ効果ならサーディンペプチドでええやん、と思われるかもしれませんが、ペプチドにアミノ酸を後からくっつけるというのは非常に困難です(てか出来るの?)。あくまでイワシを分解したらバリルチロシンが取れた、ゴマを分解したらロイシルバリルチロシンが取れた、という話で。

これはもう本当に勝手な推測ですが、ごま油取ったあとのゴマの残りの部分とかを原料にしてるんじゃないですかね。アップサイクルの付加価値化の基本は、バイプロ(主要製品の残りの副産物)をどう加工するかなので。


⑤イミダゾールジペプチド

これはヒスチジン側鎖にイミダゾール環を持つジペプチドの総称です。代表的なのはカルノシンとかアンセリンですね。

元々は「渡り鳥ってなんであんなに何千キロも止まることなく飛べんの?」っていう話から来ていて、調べたら翼の付け根にこういうペプチドがたくさんあったよ、っていうところから来ています。鶏むね肉とかにも多いですね。

機能としては抗酸化がメインで、効果としては「日常生活で生じるからだの一過性の疲労感を軽減する」というところで機能性表示食品になっています。最近では脳機能の話でもちょこちょこ出ているかな。

⑥まとめ

代表的な生理活性ペプチドを紹介しました(グルタチオンは食品じゃないけど、食品にも実際にはよく入っているので……)

ジペプチドとかトリペプチドがほとんどですが、これは実際に血中から検出できるペプチドとなると、ジペプチドとかトリペプチドがほとんどになるからです。

どういう意味かというと、ペプチドを摂取してそれがちゃんとペプチドとして効果があるか、という点において、ちゃんと血中にそのままのペプチドの形で存在している、という状況証拠が必要になるからですね(分解されて吸収されていると、ペプチドではなくアミノ酸に効果があるのでは? となるので)

あまり知られていないかもですが、タンパク質は分解されてアミノ酸の形で吸収されるだけでなく、ペプチドの形でも吸収されます。あまり大きいペプチドは吸収されないのではないか、というのは、自分が見てた時も、血中から検出されるペプチドにテトラペプチド以上はほとんどなく、ジペプチドとかトリペプチドばかりだからでした。

生理活性だけでなく、ペプチドの形で吸収されるのは栄養素的な面でも良いことがあって、単純にジペプチドなら単純なアミノ酸の2倍アミノ酸が吸収されるということもあり、そういう効果を活かしたペプチド商品なんかもありますね。


3.食品におけるペプチドの物性機能って?

ここまではペプチドの生理活性について語ってきました。
しかし食品においては、ペプチドは生理活性だけでなく食品の物性改良機能を持たせることがあります。この辺はほぼ業務用向けなので、あまり市販で見かけることはないですね。

①風味向上

これは一番よくあるやつです。「たん白加水分解物」とか「酵母エキス」とか書かれているものの中には、ある程度ペプチドも含まれていますし、それらの多くは風味向上を目的として使われています。

ペプチドとして一番代表的なのはグルタミルバリルグリシンですね。グルタミン酸-バリン-グリシン(Glu-Val-Gly)で構成されたトリペプチド。これは単独で食品添加物にもなっていますが、もの凄いコク味付与をするペプチドです。

まぁやっぱり、グルタミン酸自体が旨味を持つだけあって、グルタミン酸を含むペプチドは結構味に関係してくるものが多いです。

②発泡性

タンパク質は泡立ちますが、ペプチドの泡立ちの速さはその比ではないです。泡というのは僕は水と空気の乳化と捉えているのですが、分子量が大きいタンパク質よりも分子量の小さいペプチドの方が配向が早い。マニアックな話ですみません。

それはともかくとして、ノンアルコールビールに大豆ペプチドが入っているのはそれが理由と思っています。具体的な商品名挙げるのもですが、ドライゼロとかそうじゃないかな。泡ジョッキ缶の泡すすった時、いつものペプチドの味がしたもんね……。

ペプチドの泡の特徴としては、泡立ちが早く持ちはあまり良くない、というところがあります。泡の持ちは分子量の大きいタンパク質の方が、ちゃんとネットワーク構造を作る。
そういう機能を活かして、ケーキとかで応用されている例もあったりするみたいですね。

その他、乳化安定性だったり冷凍製品の保水性だったりで活用されている例もあります。こういう商品は生理機能のように物質が特定されているというよりは「〇〇(タンパク質)を分解したペプチド」という形で紹介されることが多いですね。

4.おわりに

そんなわけで、食品業界におけるペプチドについてご紹介しました。

ペプチドは本当に機能が多様で、色々な原料を分解してペプチド化すれば、ちゃんと調べると何かに使えるんじゃないの、というものが多いです。食品だけじゃなく、化粧品とかにもね。

なので少し胡麻麦茶のところで触れたように、食品の未利用部分に含まれているタンパク質を分解して機能性ペプチドとする、みたいな活用が出来るわけです。大豆ペプチドが安く、また広く研究されているのも、油をとった残りの部分を使っているので原料が豊富にある、みたいな部分はありますね。アップサイクルという意味で、食品残渣のタンパク質を分解してペプチド化、というのはやりやすく、価値を生みやすい技術と言えます。

また、加工食品でのメリットとしてはペプチドは表示で「たん白加水分解物」と書けること、それにより他社から技術を隠すことが出来る点です。その部分が各社の商品設計のノウハウだったりする部分があります。タンパク質を扱っているメーカーだと、外販してない、社内限定素材やPB商品もペプチドの場合は多いんじゃないかな。

一方で、大体のペプチドは味がかなり微妙というのもあります。グルタミルバリルグリシンみたいなのはかなり稀有な例で、大抵は特殊な苦みや旨味があったりでなかなか利用方法がピーキーになりがちなのも、ペプチドの特徴ではあったりしますね。そこもまた、素材づくりとしては腕の見せどころではあるのですが。

そんなわけで、なかなかに奥深い食品のペプチドの世界をご紹介しました。もうちょっと実務に近い話(分析のノウハウとか)もそのうちしてみたいなぁ。

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