くら寿司の販促漫画で人魚姫とロボットと魔王の子が人生に悩んでいる──『回転むてん丸』の海美・シーラ、テツジン・グランキオ、キッド

寿司より設定の方が濃い漫画

『回転むてん丸』の第二期(章シリーズ)はくら寿司の販促漫画です。ここまでなら普通です。企業が子供向けキャラクターを作り、漫画やアニメで宣伝するというのは、よくある話です。

しかし、『回転むてん丸』はどこか奇妙なのです。人魚姫がいて、戦闘用ロボットがいて、世界を滅ぼすと予言された魔王の子がいます。革命によって恋人を失い、人類滅亡を目指す元貴族もいます。しかも全員、寿司の話をあまりしません。

この作品は一見、軽い子供向け漫画です。

  • 二頭身の登場人物

  • 明るい色使い

  • くら寿司のマスコットたち

しかし読み進めると、登場人物たちは重い問題を抱えています。

  • 人魚姫は自由になりたいと願う

  • ロボットは人の心を知りたいと願う

  • 魔王の子は「自分が本当に何者なのか」を知りたいと願う

  • 敵側の登場人物たちもまた、それぞれ願いと絶望を抱えている

『回転むてん丸』は寿司屋の販促漫画なのに、読者は寿司より先に登場人物の人生を心配することになります。

  • 「この人魚姫は本当に自由になれるのか」

  • 「このロボットは人間になれるのか」

  • 「この子供は怪物になるのか、それとも別の道を選べるのか」

読者は気付けばそんな疑問ばかりを考えています。

そして興味深いのは、こうした設定がただ並んでいるだけではないことです。人魚姫も、ロボットも、魔王の子も、それぞれ違う姿をしています。しかし彼らは皆、「自分はどう生きるのか」という同じ問いに向き合っています。

私は、『回転むてん丸』という作品の面白さはまさにそこにあると思います。これは寿司の販促漫画です。しかし同時に、人魚姫とロボットと魔王の子が、自分の人生について悩み続ける物語でもあるのです。

この人魚姫、恋愛より脱走したい

人魚姫と聞くと、大抵の人は恋愛物語を想像すると思います。

  • 王子様に恋をする

  • 人間の世界に憧れる

  • 悲恋を経験する

しかし『回転むてん丸』の海美・シーラは少し違います。この人魚姫が一番欲しがっているものは恋人ではなく、自由なのです。海美は人魚の国の王女です。ところが彼女は、生まれたときから父キング・オーシャンによって閉じ込められて育ちました。彼女は外の世界を知らず、友達もなく、自由に出歩くこともできません。彼女は王女なのに、ほとんど囚人です。海美の夢はとても単純です。

  • 外に行きたい

  • 友達を作りたい

  • 自由になりたい

その願いを叶えるため、彼女は人魚の国を飛び出し、むてん丸と出会います。海美は初めて見る世界、そして初めて知る人との繋がりを経験します。しかし、この作品は登場人物をそう簡単に幸せにしてくれません。海美は再び父に捕らえられ、せっかく手に入れた自由を失います。

そして追い詰められた彼女の前に現れるのが、シック・ヴァラクロロフェノルです。シックはいつも同じです。彼は苦しんでいる人間の前に現れ、その願いを叶える力を差し出します。海美の場合、その願いは自由でした。そして海美はシックと契約し、翼を持つ怪物シセラ・セイレーンに変貌します。

ここがこの物語の面白いところです。海美は自由を求めました。しかし怪物となった彼女は、その力で周囲を傷つけてしまいます。自由になるために手に入れた力が、逆に彼女自身を追い詰めていきます。シセラは力を使う度に命を削られていきます。そしてシックは、最後まで同じ提案しかしません。

  • 「もっと忌まわしき結晶に頼れ」

  • 「もっと力を使え」

  • 「もっと依存しろ」

しかしここで現れるのが、水の精霊ティアクラウンです。彼女は結晶の力に頼ることを拒否します。彼女は代わりに、自分自身の力で海美を救うことを選ぶ。そして二人は融合し、海美は復活します。

海美は「ただ自由になりたい」「ただ友達と一緒にいたい」「ただ外の世界を見てみたい」と願います。その願いはとても小さいものです。しかし、生まれたときから自由を奪われていた海美にとっては、何より大切な願いでした。だから海美の物語は、人魚姫の恋愛物語というよりも、「初めて自由を手に入れようとした少女の物語」と呼んだ方が近いのかもしれません。

心のない機械が人の心を欲しがった

『回転むてん丸』には戦闘用ロボットが登場します。ここまでは珍しくありません。しかしテツジン・グランキオは少し変わっています。このロボットが本当に欲しかったものは、最強の武器でも無敵の力でもありません。それはまごころです。

テツジンは元々、戦うために作られた機械でした。彼の設計名は「テツジン初号」です。彼は兵器として生まれ、兵器として使われるはずの存在でした。ところが彼は、一人の老女と出会います。老女にはグランキオという息子がいました。

老女はテツジンを兵器として扱いませんでした。老女はテツジンを「グランキオ」として扱いました。そしてテツジンは初めて、誰かと同じ食卓を囲むこと、誰かのために料理を作ること、誰かと一緒に笑うことを知りました。それらは戦場では決して得られなかったものでした。

やがて老女は亡くなりました。しかし彼女が残したものは消えませんでした。テツジンは「テツジン初号」という名前を捨て、自ら「テツジン・グランキオ」と名乗るようになります。これは単なる改名ではありません。戦うための機械が「与えられた役割」を捨て、「自分自身の意志で生きること」を選んだ瞬間です。彼は「兵器ではなく料理人になりたい」と願い、「敵を倒すより人を笑顔にしたい」と願いました。

だからテツジンは不思議な主人公です。彼は人間ではありません。彼は「心も持たない機械」のはずでした。それなのに、彼は誰よりも人間らしくなろうとします。彼は強さよりも絆を求めます。彼は勝利よりもまごころを求めます。彼は完成された存在ではなく、変わり続ける存在であろうとします。

ところが、この変化を受け入れられなかった人物がいます。それがアスタル・テイムです。テツジンとアスタルは同じ戦場を生きた戦友なのに、全く逆の方向に進んでいくのです。アスタルにとって、テツジンは「心を持たない機械」「迷わない強さ」「純粋な戦闘能力」「戦場における完成形」という理想でした。

しかしテツジンは変わっていきます。彼は料理人になろうとします。彼は人と繋がろうとします。彼は心を知ろうとします。アスタルはそれを理解できませんでした。アスタルは変化したテツジンを見るのではなく、過去の戦場にいた「テツジン初号」の幻影を見続けます。だからアスタルは何度も「テツジン初号」と呼びます。アスタルは目の前にいるテツジン・グランキオを見ようとしません。

アスタルは過去を手放せません。彼はシックと契約し、忌まわしき結晶の力に依存していきます。「もっと強くなりたい」「もっと完璧になりたい」というアスタルの願いの果てに待っていたのは、人間を超えることではありませんでした。それは、人間であることを失うことでした。

一方でテツジンは逆方向に進みます。彼は人間ではない存在でありながら、人間らしさを求め続けます。そしてアスタルは、人間でありながら心のない強さに憧れ続けます。ロボットは人間になろうとしました。人間は機械になろうとしました。そして最後に残ったのは、強さではなく、自分がどんな存在になりたいかという選択だったのです。

魔王になるはずだった子供は何を選んだのか

もし生まれたときから、「お前は世界を滅ぼす魔王になる」と決められていたらどうでしょうか。しかもそれが悪意のある噂ではなく、本物の予言だったらどうでしょうか。『回転むてん丸』のキッドは、まさにそんな子供です。彼は忌まわしき結晶から生まれた存在です。普通の人間ではありません。そして、忌まわしき結晶と戦う精霊からは「世界を滅ぼす魔王になる」と恐れられています。正直に言うと、この設定だけでもかなり重いです。

しかしキッドの物語が面白いのは、彼が最初から魔王になりたがっているわけではないことです。彼は世界征服を夢見るわけでもありません。人間を憎んでいるわけでもありません。ただ、「自分が何者か」について知りたいだけなのです。ところが周囲はそう見てくれません。彼が何を考えているかよりも、彼が何者だと思われているか──忌まわしき結晶、魔王の予言、圧倒的な力──の方が先に決められてしまいます。

そしてついにキッドは魔王として覚醒します。普通ならここが堕落や破滅の場面になります。「運命に負ける瞬間」になります。しかし『回転むてん丸』は少し変わっています。魔王になった後ですら、キッドは悩み続けます。彼は最後まで、「本当にこれが自分なのか」「本当にこの運命に従うべきなのか」「本当に世界を滅ぼしたいのか」を考えることをやめないのです。

そして、最終的にキッドの支えになるのが養父チア・ヴェンタ・ゾアとの記憶です。チアはキッドに答えを与えようとしません。チアはキッドに「魔王の定義は自分で決めなさい」「何になりたいのかは自分で決めるのです」「誰かに言われたことではなく、自分の目で見て考えることが大事」と言います。つまりチアは、「お前はこう生きろ」とは言いません。代わりに、彼は「自分で決めなさい」と言います。彼は子供を信じるのです。

そして最後にキッドは、チアの信頼に応えます。彼はチアとの思い出を思い出し、むてん丸との友情を受け入れます。そして彼は自らの運命に答えを返します。彼は「俺はキッドだ」と宣言します。それが、彼自身の意志で選んだ答えでした。こうしてキッドは、自らの魔王形態を滅ぼします。

世界を滅ぼすはずだった子供が、世界を救ったのです。予言だけ見れば完全な失敗です。しかしキッド自身から見れば、ようやく自分の答えを見つけた瞬間だったのかもしれません。彼は特別な力を持っています。彼は世界を壊せるほどの力を持っています。それでも最後に彼を救ったのは力ではなく、「自分は何者なのか」を考え続けたことであり、その答えを自分で選んだことでした。世界を滅ぼすと予言された子供は、最後に「俺は魔王じゃない」「俺はキッドだ」と答えたのです。

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