闇 392(世界中の誰よりきっと編)
闇 392(世界中の誰よりきっと編)

2025/11/12 wed
前回の章
二千十七年一月二十三日、月曜日先勝。
無事本川越駅へ到着。
今日はフレンチワイズ一軒のみだったが、至福の時を過ごせた。
駅を出て歩き、横断歩道を渡る前に左方向を眺める。
同級生篠崎が働く居酒屋『大漁丸』の明かりが見えた。
朝から仕事だけど、ちょっとだけ寄っていくか……。
「おう、岩ヤン、毎度! 昨日は悪かったね」
「ん? 何が?」
「ほら、三軒くらい金出してたじゃん」
「あー…、まあ…、いいんだよ。格好つけたかっただけだし。青りんごサワーとさ、ウイスキーのロックちょうだい」
「はいよー」
携帯電話を見ると、翌日の二十三日になっていた。
もう君代はとっくに家へ着いているところだろう。
酒が目の前に置かれ、適当につまみを注文する。
タバコに火をつけ、ウイスキーを口に含む。
「岩ヤン、今は川越戻ってきたんでしょ?」
「うん、今は実家だよ」
篠崎が話し掛けてくる。
「仕事は新宿だっけ?」
「まあ新宿って言っても歌舞伎町だし、裏稼業だけどね」
さらりと口にしたが、俺が二十代から三十代の頃は、ゲーム屋という職業に対し恥に思っていた。
なので地元川越の人間には会員制のバーで働いていると嘘をついていた俺。
裏稼業とまでしか言えなかったが、四十五歳にしてそういったものの捉え方が自分でも知らない内に変わってきたのかもしれない。
「裏稼業って何してんのよ?」
そう言って笑う篠崎。
彼は身長が百六十センチちょうどぐらいで背は大きくないが、中学時代みんなから『スタローン』と呼ばれていた時期があった。
映画『ロッキー』や『ランボー』で一躍有名になったシルベスター・スタローン。
篠崎はちょっとだけスタローンに似ていた。
小さいから差し詰め『ミニシルベスター・スタローン』といったところか……。
「何よ? 何、人の顔見てニヤニヤしてんのよ?」
「いや…、相変わらずシルベスタースタローンに似てるなあと……」
「目が少しタレ目ってだけじゃねえか!」
彼とどうしょうもない話をしながら、地元ってこういう事なのかとふと思った。
その辺を歩いているだけで、こうして昔から俺を知っている人間がいる。
あの暗くずっと一人だった二俣川とは全然違うのだ。
まさかあれほど逃げるように飛び出した川越に戻り、こうして癒される時がくるなんてな……。
人間なんてちょっとした事でいくらでも幸せになれば不幸にもなる。
物事の捉え方や考え方一つで、そうなってしまうのである。
あの当時の俺は、それに気付かなかっただけ。
今が凄いとかではなく未熟なままなのだ。
仕事を終え川越に戻り、ここで軽く一杯飲んでから家に帰る。
うん、何だかいい感じのルーティンなんじゃないだろうか。
さっきまで一緒にいた増川君代の存在が大きい。
幸せを実感できた俺は、心に余裕がある状態。
なのでこのような感覚になっているだけかもしれないな。
金も無い。
仕事といっても裏稼業のゲーム屋。
しかし何だろう?
このふわふわとした感じの充実感は?
普通に起きればある仕事。
働けば毎日手に入る金。
当たり前の事なのに、それが何だかとても嬉しい。
人へ驕り歩き、女の飲み屋で散財し、誰かに金を貸さず、賭博もしなければ、金なんて勝手に貯まっていくのだ。
今みたいのを庶民的な生活と表現したらいいのか?
いやいや、昨日から今日に掛けていくら使っている?
まだその辺の境地へ辿り着くには十年早い。
…十年というと、俺は五十五歳……。
ヤバいでしょ、それはさすがに……。
「だいたい帰りはこんくらいの時間になるの?」
「ん、何が?」
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