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闇 527(2021年50歳編)

闇 527(2021年50歳編)

2026/04/15 wed
※この作品は、因果律に業を混ぜた小説です
前回の章


二千二十一年九月一日、水曜日先勝。

朝七時に仕事を終えると、まずはアスクルームに戻り、ベッドへ倒れ込むように眠る。
昼に一度目を覚まし、今後のスケジュールを整理した。
えーと…、今日が休みで、明日の二日は昼の十一時から夜十一時までの十二時間勤務。
それからだと、怪我をした我妻や、熱で休んだスタッフなどの状況にもよっていくらでも変化するだろう。

こうなると考えても意味がない。
目の前の提示されたものを淡々とこなせばいいだけ。

まだ眠かったが、夜までは無理してでも起きておき、時間調整をしなくてはならない。
とりあえず食事でも行くか。

大久保通りを真っ直ぐ歩き、小滝橋通りも突っ切って進む。
ようやく右手に見えてきた久しぶりの喫茶店『ラ・ムー』。

2021/09/01 大久保 ラ・ムー

頼むのはもちろん定番のハンバーグ。
ここへ来るのも、二ヶ月ぶりぐらいか?

2021/09/01 大久保 ラ・ムー

栄養をもっと補給しないとな。
ナポリタンも追加注文する。

2021/09/01 大久保 ラ・ムー

口の周り真っ赤にするような勢いで麺を放り込む。
あとはゆっくり休んで、明日に備えないと。


二千二十一年九月二日、木曜日友引。

今日はインカジ『レディ』に入り、初めての遅刻をしてしまった。

目覚ましを掛けていたが深い眠りで気付かなかった俺は、店長の斉木の電話で目を覚ます。
時計を見ると、出勤時間を十五分ほど過ぎていた。
急いで身支度を済ませ、新宿歌舞伎町へ走って向かう。

正直なところ、二十時間勤務や十六時間勤務をさせながら、中番と遅番の激しいシフト移動を淡々と言う小西には苛立ちを覚えていた。
欠員が出てしまったものは仕方ないし、穴を残りの人間で埋めるのも分かる。
だが何故俺にだけ集中させるのだろうか?
前にも十六時間勤務をいきなりした時、俺は不平不満を言わず笑顔で引き受けた。
その前例がコイツなら言えばやるだろうと、軽く見られているような気がしたのだ。

結果三十五分の遅刻。
大場系列では遅刻の罰則は厳しい処置を取る。
まず一時間分の時給は当然無く、三十分につき千円の罰金。
しかも毎月売上に応じた配当金も、半額カット。
十万円の配当があれば、この月は五万円になってしまう。
相当な痛手だが、寝坊してしまった自分が悪い。

斉木と松江へ深々と頭を下げ、遅刻してしまった事をまず詫びる。

「あ、岩上さん! タイムカード押さないでいいです」
「え、何でですか?」

「本当は自分、遅刻には厳しいんですが、岩上さんのシフトって、ここ数日滅茶苦茶じゃないですか。我妻君の怪我の穴を埋めたり、他の従業員の穴を埋めたりで」
「でも…、遅刻は遅刻ですから」

「これで岩上さんを遅刻扱いにすると、我妻君が戻って来た時凄い気にします。今回だけ、本当は駄目だけど目をつぶります。大変なシフトをさせてしまい、すみません。でも遅刻だけはこれから気を付けて下さいね」

「すみません、斉木さん……」

名義社長小西が簡単に命令した無茶な時間編成のシフト。
寝過ごしたのは俺でも、その大変さを理解してくれる上司がいる。

色々な感覚が麻痺していた。
自分はこの店で底辺。
奴隷のように言われるままただ動けばいい。
そんな感じで自身を言い聞かせていた。

それでも五十歳目前の身体。
体力的な疲労は自分でも知らない内に蓄積し、それが今回の遅刻へ繋がった訳である。

ワザと遅れたのではないが、その部分を分かってくれる人間がいた事実。
少し救われた気分になった。

「おい、松江春美! これはここだけの話なんだから、周りに言うなよな」
「分かってますよ、斉木さん」

ジョークも含んだ言い方の斉木を見て、俺も初めて笑顔を見せる事ができた。

「あ、松江さん。タバコ三箱分買います」
「え、三箱? 岩上さん、随分買いますね?」

斉木が驚いて聞いてくる。
俺はキャッシャーへ座る松江に千五百円を置き、自分のセブンスタ―ボックス以外に、二人のタバコを取って手渡す。

「え、何ですか、これは?」
「とりあえず自分からの気持ちです。斉木さんも松江さんも受け取って下さい」

せめてもの感謝のつもり。
人間はちょっとした心遣い一つで、いくらでも気持ちの持ちようは変わる。

今日を乗り切り、明日も同シフト。
まだまだ気は抜けない。


二千二十一年九月三日、金曜日先負。

二日連続の中番早出シフトの十二時間を終えた俺は、帰り道コンビニで酒を買い、公園に座って一人寂しく飲んでから、アスクルームへ戻る。
日付けが変わり、三日になっていた。

ちょうど二十四時間のプライベートタイム。
今日の夜から遅番のシフトに切り替わり、ようやく少しは落ち着けそうだ。
だが、またしても身体を時間調整で慣らさなくてはならない。
昼間に寝るようにしないと、夜仕事にならなくなってしまう。

無理して昼過ぎまで起きていて、喫茶店『ラ・ムー』へ行く。
ハンバーグを食べ、さらに追加をしよう。

2021/09/03 大久保 ラ・ムー

ドライカレーも注文し、ペロリと食べ尽くす。
本当に五十歳手前の食事量じゃないよな……。

2021/09/03 大久保 ラ・ムー

アスクルームへ戻ると、ゆっくり夜まで睡眠を取った。

早めに外へ出て、味噌チョンラーメン『利しり』へ寄る。
すっぽんエキスが入っているようなので、多分身体にいいだろう。

2021/09/03 歌舞伎町 利しり

食べてて汗を凄い掻く。
滋養強壮効果なのか?

さて、これから遅番勤務を頑張ろう。


二千二十一年九月五日、日曜日大安。

少し肌寒くなってきたこの頃。
以前一度だけ入った事のある韓国のしゃぶしゃぶ『小尾羊藥膳火鍋』に向かう。

2021/09/05 大久保通り 小尾羊藥膳火鍋

会計の際、外国人店員が何度も金額を打ち間違え、少しだけイライラした。


二千二十一年九月六日、月曜日赤口。

昼は喫茶店『ラ・ムー』。
定番のハンバーグ。

2021/09/06 大久保 ラ・ムー

夜食は久しぶりの寿楽

2021/09/06 小滝橋通り 寿楽

ここでも前と同じ焼売と春巻きの定食。

2021/09/06 小滝橋通り 寿楽

あと一週間で、俺も五十歳の大台かよ。


二千二十一年九月七日、火曜日友引。

レディで待機中、暇だったのでうたた寝し掛け、小西に起こされ小言を言われた。
この年でこんな注意をされるなんて情けないなあ……。

人に注意をしながら、小西は仲のいいスタッフとだけ笑顔で会話をしつつ、携帯電話の画面を眺めている。

別に自分を可愛がれという話ではないが、八月末に身体を張ってあそこまで無茶なシフトをこなした俺に対し、小西はまるで感謝のかの字すらない。
別段恩に着ろという訳ではない。
しかしもう少し、何かしら労わるなどの考慮をしてくれてもいいんじゃないかと思う。

日常的な買い物や掃除などの下っ端業務は、この店内で二番目に年上なすべて俺だけの仕事。
やらなくてはならない店の雑用。
俺だけにやらせるというのではなく、もう少し好き嫌いじゃない平等性というかバランスを考えてくれてもいいのにな……。

以前は自身の行動や生き様を元に、小説を腐るほど書いた。
だが今の俺を元に書いたところで、愚作極まりない駄目な主人公の話になるだけだろう。

小説を書かなくなって十年以上。
それだけは正解だ。
こんな人間が文学などへ関わる権利も何も無かったのだ。
自分自身には嫌気しか差さない。

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