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闇 400(問題児木幡と叙々苑游玄亭編)

闇 400(問題児木幡と叙々苑游玄亭編)

2025/11/26 wed
前回の章


二千十七年三月二十一日、火曜日先勝。

また今週から早番シフトへ戻されて二日目。
従業員の面子は、責任者の橋本、俺、そして新人の木幡が入ってくる。

酒井さん系列のインカジで働いていたが、人間関係で合わなくなり辞めようとしたところをそれならゲーム屋のラッキーハウスにと猪狩が送り込んできた。

もちろん木幡はゲーム屋未経験。
この場合、一からポーカーゲームの理屈を教えないと使い物にならないので大変だ。

この系列へ戻ってきてからそろそろ四ヶ月が経とうとしている。
その間で二回もシフトチェンジは正直勘弁してほしい。

昼と夜の生活が百八十度変わるのだ。
店長の香川の方針らしいが、このような無駄な采配はいい迷惑である。

二日前の連休のまゆまゆショックから立ち直った俺。
元々あてにしていなかった部分もあり、そこまで動揺はなかったというのが本音だろう。
二万円で現役女子大生の十九歳の唇を奪えたのだ。

あの程度の青い果実になど躍起になれない俺。
まああれはあれで良しと切り替えねばならない。

ただ横浜から夜中に戻ってきて、そのまま朝十時から仕事という報告はせめて連休前の先週の金曜日辺りから言って欲しかった。
俺と番が変わってしまう川崎は、妙に寂しそうだったのが印象的だ。

覚えは悪いが常にニコニコしている木幡を連れてドンキホーテへ向かう。
買い物の手順などを教え、次からは自分一人ですべてこれをできるように説明。

「赤崎さん、あの遅番のオカマみたいな人って何なんですか?」
「ん? …と言うと?」

「何か爪にマニキュア塗ってません? あれ、男ですよね? どう見ても」「何だか知らないけど、あのオカマ、実は結婚していてもうじき嫁さんが子供生まれるとかほざいているみたい」

「えー! 結婚してて子供が産まれる? だってあの人それで爪にマニキュアとか塗ってピンクのバック持ち歩いているんですか?」
「そんなもん俺が知る訳ねえだろ」

「あと川崎さんって何であの人あんなにどもっているんですかねー」

ちょっとこの木幡という新人。
図に乗せると羽目を外しやすいのを理解した。
人間関係が合わないとかでラッキーハウスへ来たが、原因はこの軽口だろう。

「おい、木幡……」
「はい、何でしょう?」

「木下は実際気色悪いし俺も嫌いだ。だからあいつはどうでもいい。ただよ? 川崎さんを小馬鹿にした口調はやめろ。おまえ、入ったばかりの新人だろ?」

「す、すみません……」

深く考えず直感的に楽しいからというだけで行動する男木幡。
はなっから履き違えないように違う部分は正す、もしこれで彼が嫌気差して辞めるようならそれまでの話。

俺自身がすべき事。
まず自身の安泰。
それが酒井さんの顔を潰さない事にもなるし、生活に困らない状況となっていく。

その為には木幡のような直接的な害はないものの、後々トラブルの火種になりそうな芽は摘んでおかねばならないと判断した。

すべての準備を終え、客のいない店内で休憩。
橋本が木幡を食事休憩に入れ、彼が戻ってくると次は俺にと指示する。

外をブラブラ歩きながら歌舞伎町には愛すべき店がそんなに無い事に気付く。
花道通りを真っ直ぐ行き、区役所通りを超えた先にある定食屋の『とよま』でも久しぶりに行くか。

確か最後に行ったのが飯野君と行った以来だから、新宿のクソヤクザのゲーム屋時代。
あれって二千十五年だからもう二年前になるのかよ……。

けいこにぞっこんだった飯野君へ強飲に行く前に腹ごしらえしようと連れて行った店。
俺が裏ビデオ屋メロン時代に、倉庫へ行く途中発見したんだよな。

あれが二千四年だから随分昔の事になる。
区役所通りを渡り、真っ直ぐ進むと何故かとよまの看板が出ていない。

あれ、今日休みなのかな?
ビル一階一番手前にあるとよまを確認しようとして愕然とした。

そこには別の店名が書かれていて、あのとよまが無くなっている。
この街が数少ない好きな店がまた一つ……。

あ、レストランいづみ!
とよまがもう潰れてしまったなら、あそこへ行こう。
少し距離はあるけど。

靖国通りへ出て左折。
ずっと真っ直ぐ歩き、明治通りを右へ曲がる。
デカい服ばかり売っているサカゼンの前の商店街を入ればいづみ。

またあのマスター、妙に甲高い声で「感謝の気持ちを込めてチョロッとねー」とか言ってんだろうな。
信号待ちしながら思わず一人でニヤニヤしてしまう。

横浜からこっちへ帰って来てそういえば初めてだもんな。
信号が変わり横断歩道を渡った。

「……」

レストランいづみの前に来て呆然と立ち尽くす。
シャッターが閉まったまま閉店したと告知した紙。

とよまに続いていづみまでもが……。

古きよき思い出が鋭利な刃物によってズタズタに刻まれた気分だった。

頭を抱え込みながら座り込む。
そうなんだよ…、時間って誰に対しても平等。
俺が地獄めぐりをしてようが、川越へ帰ってこようが、そんな事とは無関係に周りだって同じように経過している。

審議の程は分からないが、二度目の東京オリンピックが開催されるまでは頑張ろうと思うとあの時言っていたマスター。
亡くなってしまったからの閉店なのか、経営に行き詰ってなのか、もしくはゆっくりしたいと隠居しただけなのかは分からない。

一つ分かっているのはこの二年の間で、状況は変化してしまったというだけ。

夢遊病者のように靖国通りを歩きながら歌舞伎町へ向かう。
好きな店が二店舗共無くなっていた現実を目の当たりにして、かなりのショックを受けていた。

携帯電話が鳴る。
まだ休憩時間だろ?
何だよ……。

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