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闇 440(サッカー部とLGBTと矜持編)

闇 440(サッカー部とLGBTと矜持編)

2026/01/01 thu
前回の章


二千十八年一月二十六日、金曜日先負。

食事休憩中、ロト系くじをいっぱい買ってきた。
こちらのほうが当たった時の金額も天文学的金額になるし、使う額も自分で選べるからいい。

20180126 ロト系

俺は過去ビンゴ5の二等を当てている。

あの時あと数字が一つ当たっていれば一千万へ手が届くところだったのだ。
しかも買った枚数は一枚だけ。
つまり五枚買えば、チャンスは五倍に増える。
しかも似た数字をどうしても選択してしまう為、一等を当てても残りでプラス二等や三等もオマケでついてくる可能性があった。

さらにロト6やロト7。
仕方なくナンバーズまで買っている。
これはビンゴ5だけ買って金を持っていくのはさすがに浅ましいから、国へ半分寄付してやったと思う程度のせめてもの俺の恩情に過ぎない。

ラッキーハウスへ戻りテーブルの上に買ったロト系くじを並べた。
自然と吊り上がる口元。
何故俺はもっとこの方法を思いつかなかったのだろうか。
多分この辺の人の良さが、悪い奴らから利用され騙され搾取された要因の一つなのだろう。

競馬新聞を眺めていた橋本が近付いて来る。

「あれ、赤崎さん。今日は競馬やらないんですか?」
「もう競馬は懲り懲りですよ…。先週なんて土日全七十二レース全部外しましたからね。辞めるまでは言いませんが、しばらくお休みします」

「何だ、辞めちゃうんですか……」
「何かあるんですか?」

「いえ、実は来週の東京新聞杯なんですけど、自分実は一口馬主の権利持っているんですよ」
「え、あれって審査厳しいから、裏稼業じゃ持てなくないですか?」

「ええ、そうですよ。だから真面目なサラリーマンをしている友達に金を渡して、そいつ名義で持っている馬があるんですよ」
「へー、何て馬なんですか? 東京新聞杯ってGⅢですよね? そこまで行ける馬じゃ、馬主的には中々美味しい馬じゃないですか」

「まああのくらいじゃまだまだですけどね。馬はディバインコードです」
「ディバインコード…。何か格好いい名前ですね」

「実は人気は十番人気前後だと思うんですが、このレースに照準を絞っているんですね。どちらかと言うと先行馬で、距離はマイル。内枠に入れれば結構面白いかなと思い、赤崎さんへ話してみたんですよ」

人気薄だけどマイルで先行馬……。

確かに一発あれば面白いかもしれないな。
負け続けている競馬だが、そろそろプーさんの缶を使う時が来たのかも。

とりあえず今週は一切やらない。
フェイスブックでも前に投稿してしまったし。

でも、一週間我慢するという事は、二週間断食したようなものだ。
来週なら大手を振って馬券を買える。

勝負の時来たりてプーさん貯金を。
現在二十万くらいあるだろう。

仕事中俺は来週のレース展開を頭の中で描き、一人でほくそ笑む。

川越へ帰るといつもの埼玉りそな銀行の駐車場へ向かう。

「ニャー……」

いつもなら呼ぶとすぐ出てくるはずの猫たち。
あの雪降ってから以来、野良猫ニャーニャーたちがいない。
これで何日目になる?

一体どこへ行ってしまったのだ?
住み家を変えただけ?
どちらにせよ、心配だった。


二千十八年一月二十八日、日曜日大安。

今日は仕事中もどこか陽気だった。
高校時代の同級生である小谷野から連絡があり、西武台高校サッカー部の飲み会へ誘われる。

そうはいっても俺の場合、当時あまりの休みの無さのハードスケジュールに嫌気を指し、一年生終了時点で脱退しているので、正規のサッカー部員とは言えない。
そんな俺がそのような場所へ顔を出していいものだろうか?

「何回か集まっているんだけどさ、結構みんな岩上の名前出すんだよ。だからせっかくなんだしおいでよ」

彼の言葉で行く決意を決めた。
しかしこの日仕事を休めなかったので、夜十時に終わると急いで朝霞へ向かうという工程。

高校卒業以来だから、二十二年ぶり?
昔を思い出すと、ついニヤニヤしてしまう。

仕事を終えると早歩きで新宿駅へ向かった。
池袋駅まで出て、東武東上線で朝霞駅へ。
この電車に乗るのも久しぶり。
高校時代は毎日乗っていたんだけどなあ。
勢いだけで喧嘩に明け暮れた学生の頃を思い出す。

何者でも一介の高校生だった俺。

大事にベビーブーム世代だったので、一年生の頃は七百五十人の生徒が在籍していた。
全十四クラス。

それが三学年まであるのだから、あの当時西武台は二千人以上の生徒を抱えていた計算になる。
そこで出会った担任の榊先生。
思えば奇跡のような確率だろう。

さすがに全校生徒の顔は多過ぎて覚えていない。
サッカー部のメンバーでさえ、全員果たして名前を言えるのか?
まさか四十六歳になってこんな場面が来るなんてな……。

朝霞駅へ到着し、小谷野へ電話を掛け道順を聞く。
指定された飲み屋へ到着すると、見覚えの顔が多い集団が奥の座席にした。

「あ、岩上だ!」
「身体デカくなってる!」
「おー、久しぶり!」

「えーと…、黒田だよね?」
「そうだよ!」

「関屋だよね?」
「よく分かったねー!」

「末森は変わらないなあ」
「へへ、おまえは大きくなったなあ」

「杉浦もすぐ分かった」
「懐かしいし、覚えてくれて嬉しいよー」

「えーと、マネージャーやってたお二方だよね? 俺、サボってばかりで一年で辞めちゃったからぶっちゃけ学生の頃から名前は知らなかったけど」
「岩上君でしょ? 格好いい系になったんだー」

「おいおい格好いい系って何だよ?」

サッカー部連中が異論を挟む。
俺は席に座り、セブンスターに火をつけた。

「岩上何飲むの?」
「じゃあウイスキーをロックで」

「え、凄い酒強くないか?」
「どうせ置いてあるの国産かスコッチのブレンデッドだろ? そういうウイスキーはロックで飲むようにしてるんだ。好きな酒ならストレートでしか飲まないよ」

「岩上って本出したんだろ? 今ないの?」
「それが手元にはもう一冊も残ってないんだよ」

「俺さ、消防士やってんだけど、このままでいいのかなあと思っててさ」
「いいかい、関屋。君の生き方は間違っていない。俺みたいに裏稼業の人間で、傍から見ればアウトローのようになっちゃ駄目だ。君の生き方は正しいんだ。でも、それって自分じゃ分からないだろうけど、後々振り返ると正しかったと分かる時が来る」

「ねえ、岩上、俺は?」
「俺のほうはさ……」

「あ、末森! 何人の携帯勝手にいじってんだよ」
「俺の電話番号入れといたから」

まったく…、何で裏稼業で底辺の俺がこんな持て囃されるんだよ。
本当に同級生って何だかいいもんだな……。

四十六歳での久しぶりの再会は、少なくとも俺の無気力だった心の中に明るい火を灯してくれた。

楽しい時間はあっという間に過ぎる。
本当に時間って誰にでも平等なのかと思う。

名前も覚えていない一つ上の先輩たちが、後輩だった俺たちの飲み代まで格好をつけて多めに払ってくれる。

本当に有難い話だ。
金がとかでなく、このような場に呼んでもらえたという事実が。
素直に嬉しく思えた。
声を掛けてくれた小谷野には心から感謝する。

終電近くの電車で帰り、東上線なので川越市駅まで。
本川越駅を突っ切り、そのまま埼玉りそな銀行の駐車場へ向かう。

「ニャー」
「あれ、おまえたち…、一体何日もどこへ行っていたんだよ!」

足元へ数匹の野良猫が近寄ってくる。
まずは再会を喜ぶ前に、腹減っているもんな。

2018/01/28 埼玉りそな銀行の駐車場野良猫ニャーニャー

ファミリーマートへ餌を買いに行き、いつもより多めに買った。

2018/01/28 埼玉りそな銀行の駐車場野良猫ニャーニャー

雪降った日以来、初の遭遇。
今日は全部で六匹か……。

猫たちは「ニャーニャー」鳴きながらすり寄ってくる。
凄い食べっぷりだ。
好きなだけ食えばいい。

しばらくぶりなので、二回も餌を買いに行ってしまう。
とりあえずこの寒さの中、無事にいてくれて本当に良かった。

思わず手を伸ばす。
頭を撫でさせてくれる子も、三匹に増えていた。


二千十八年一月二十九日、月曜日赤口。

多少寝不足気味だが心が晴れた状態での仕事は、とても気持ちよくできた。
またあのような集まりに顔を出したい。

そうか…、これって俺だけでなく、あの場にいたみんなそうだからこそ、昨夜の飲み会の場ができるのか……。

「おい、おまえら邪魔だから着替え終わったら早くどけよっ!」

オカマの木下が目くじらを立てて、客前なのに変わらず怒鳴りつけてくる。
何だか可哀想で不憫な子だ。
結婚して子供ももうじき生まれるという立場なのに、こんな場末の裏稼業で働き常に余裕が無くカリカリしている。

このおかしな状況を見て、注意一つできない店長の香川や、責任者の橋本も滑稽なほど愚鈍で哀れな存在だ。

「ちょ、ちょっとさー……」
「まあまあ川崎さん。早く店を出ましょうよ」

「あ、赤崎さん、だ、だ、だってさー」
「いいじゃないですか、言わせておけば」

感情的になった川崎を宥めつつラッキーハウスを出る。
確かに彼の怒りは正当なものだ。
仕事を終え、着替え終わり、その場に十数秒いただけで理不尽に怒鳴られたのである。

それに対し俺のこの余裕さは何なのだろう?
昨夜の旧友たちとの出会いが、自身の根底に心の豊かさを与えてくれていたのだ。

何故木下を哀れに感じたのか?
理由は明白だ。
俺は確かに世間一般から見れば、人生のレールを外れた失敗者。
しかしそんな俺でも二十年ぶりの同級生たちは、本を出した人間…、リングの上で戦ってきた人間と敬意を持った状態で接してくれた。

木下はどうか?
本名の鏑矢という名で、ああいった集まりには呼ばれるかもしれない。
だけど久しくあった同級生たちはどうか?
男のくせにピンク色に塗ったマニュキュア。
無駄に長い茶色のロングヘアー。
三十半ばにもなって耳や口へつけたピアス。
若い女性が好んで持つようなモサモサしたピンク色のバック。
そのどれを取っても軽蔑の眼差しでしか見られないだろう。

世間一般から見れば歪なオカマに過ぎないのだ。

親しい訳ではないので、何故彼があのようないで立ちをしているのかは分からない。
今や性的少数者の総称と呼ばれるようになった『LGBT』。
Lがレズビアン。
Gがゲイ。
Bがバイセクシャル。
Tがトランスジェンダー。

あれ?
俺が新宿クレッシェンドの時に書いた表現の『ホモ』。
あれって入っていないのか?

自分がノーマルなので、LGBTについての呼び名程度の知識しかなかったが、ホモは入っていないのだろうか?
ホモとゲイは同じ意味?
以前新宿クレッシェンドを本で出した頃、変なメールが届いたのを覚えている。

『あなたはゲイとホモの違いは間違えている。即刻ホモという表現を直し、直ちに訂正するよう速やかに……』

当時何だ、この気持ち悪い奴はと、俺は全文読まずに削除した事があった。
生理的な嫌悪感から電子的な文章でさえフォルダへ保存しておくのが嫌だったから。
あの時鳥肌が立ったのをハッキリ記憶していた。

それにしても何故あんなメールを送ってきたのだろう?
それは何故か?
つまりあの部分だけ思い返すと、ホモとゲイは違う事になる。
その正確な意味合いを知らず、岩崎はホモなのかといった文章を書いたからこそ、送り主の核に触れたのではないか?
だから意味不明なメールで抗議という形をしてきたのだ。

ぶっちゃけるとホモだろうとゲイだろうと、どうでもいい。
気持ち悪いから俺には近付くなというだけ。
AKBの誰が人気あってという情報に対しどうでもいいと思うのと同じで、まるで興味がないからだ。

しかし今後俺がまた小説を書き出すという先の展開を思うと、知っておいたほうがいい知識なのかもしれない。

まずLGBTのレズ。
これは俺も分かる。
身近というか過去知っている女でいえば、古木英大絡みの牧田順子だろう。

車に乗ってから牧田順子はずっと黙ったままだった。
俺はタバコを吸い終わると「悪いけど明日も朝から仕事なんだ。何も話さないなら、帰らせてもらうよ」と冷たく話す。
「実は私…、レズだったんです……」
初めて彼女を見た時、妙に男っぽいとは感じた。
まさか自分の直感が当たっていたとは……。
俺も過去別のレズ女と遭遇した事があった。
いつだったっけ?
百合子と出会う前?

えーと…、あの時より前の事だもんな……。

百合子と出会うより前だぞ?
下手したら新宿クレッシェンドを書く前だったかもしれない。

川越のパクられた風俗嬢のいたビル跡地にできたキャバクラ。
あそこで口説いたメガネのおさげの茶髪の女。
俺にとってあの女が最初に接したレズだ。

俺は車で鶴ヶ島駅に到着し、萌花からの連絡を待つ。
三十分ほどして、彼女から駅近くのレストランの前にいると連絡が入る。
すぐ向かうと萌花だけでなく、四番目についた不愛想な美人の女も一緒にいた。
調子に乗った俺は二人共抱けるのかと勘違いし、不愛想な女の顔を触ろうとした。
「汚らわしい! 触らないで下さい!」
いきなり手を跳ね除けられる。
そして俺の顔を怨念めいた表情でジロッと睨み付けてきた。
「岩上さん…、あなたはこの子に手を出した…。そしてこの子は私を裏切った。責任取ってもらいますから!」
俺と萌花の間にしゃしゃり出てきて、いきなり激しい怒りをぶつける女。
意味がまったく理解できなかった。
「とりあえず話は聞くけど、そこのレストランで落ち着いて話そうよ」
俺の提案で、二人共レストランへ入る。
「何を急にそんな怒っているの?」
「この子は、私を裏切った。だから岩上さん責任持って下さい!」
萌花がこの不愛想な女を裏切った?
意味が分からない。
とりあえず萌花のほうを見る。
すると萌花は「嫌…、別れたくない」と泣きじゃくっている。
ここで初めて理解できた。
この二人は真正のレスビアンだと……。
怨みの籠もった目つきで不愛想女は「萌花、責任取って下さいね!」と何度も言ってくる。
面倒臭いなと思った俺は、伝票の上に一万円札を置き「勝手におまえらで好きにやってろ」と吐き捨てその場をあとにした。

通常なら男と女は結びつき、セックスもその延長で行う。
これがノーマル。
だから子供もでき、子孫繁栄になる。

まあ男目線…、いや、俺目線か。
レズビアンならまだいい。
女同士が絡んでいるところを目撃したところで、マスターベーションという行為をする事もできそうだからだ。
ブス同士だったら嫌だけど……。

次が問題のG。
つまりゲイとホモの違いを認識しておく必要が出てくる。

ゲイとは何か?
調べると男性に対して性的指向、または恋愛的指向を持つ男性。
え、これってホモじゃないの?

ホモを調べてみるか。
正式名称はホモセクシュアル?
セクシャルじゃなかったのか?
昔テレビで歌の番組『ザ・ベストテン』で「セクシャル、バーイオレット…」って歌なかったっけ?

先にこっちを調べよう。
あったあった、えーと『セクシャルバイオレットNo.1』って歌だ。
歌手は桑名正博。
何だか写真を見ると漫画家の楳図かずおっぽいな。

「……」

まず俺の変な覚え方で、ホモセクシュアルがホモセクシャルに変換。
そしてバイオレットなんてスミレの花…、紫色という意味合いなのに、ゲイに近い隠語ぐらいと勝手に脳裏へ刷り込んでいたようだ。
俺は心の中で桑名正博さんごめんなさいと謝罪する。

ついでに桑名正博の事を調べてみた。
アンルイスと結婚していたんだ、この人。
しかも二千十二年だ亡くなっているのか。

幼少の頃の俺が覚えているぐらいだ。
当時は大人気だったんだろうな。
俺は桑名正博に対し、黙祷を捧げた。

いかにこれまでの自身の知識が、歪んだ浅はかさかを痛感した。
こんな俺がLGBTを語る資格あるのか?
いやいや、今は調べているだけなんだから問題ない。
仮に俺がこのテーマを小説へ取り上げる時なんだろうな。

まずはツルツルの脳みそに皺を増やす事。
裏稼業底辺の俺にできる行動はそのぐらい。
これは知らない事をなまじっかな知識だけで判断し、叩く行為を無くそうとする意識から。
いわば無知な自身へ英知を叩き込むというもの。

よくSNSなどで炎上炎上と騒いでいるが、中には一部分だけ都合よく切り取った事例などたくさんあるだろう。
多くの人間が個人を叩くから便乗するものなどに、正義などない。
少なくとも俺は違うと生きていきたいものだ。
いやいや、落ち着けって。
物事を決めつけ過ぎるな。
そして自身を過信するな。
これは正義と思い込みながらの行動は、いずれ自分をも焼く行為に過ぎない。

何で俺はこういつも脱線してしまうのだ?
今はLGBTのGだろ?
えーと、簡単に言うと男が男に行くのがゲイ。
じゃあホモは?
本来は同性愛者という意味。
特に男性同性愛者を指して使われてきた。
え、これってゲイと同じ意味じゃないの?
ホモだけだとヒト属の学名?

さっぱり意味が分からない……。

俺の調べ方が悪いだけだろ?
同性愛で見ればいいのだ。

ホモセクシュアリティ?
英語苦手なんだよなあ……。

あ、なるほど…、ホモセクシュアルの略語がホモ。
それが同性愛者に対し使われる場合があったけど、差別的に使われてきた歴史的文脈から侮蔑とされだし、今は使われなくなったという事か。
つまり男が男を求める言い方の正しくはゲイ。
昔俺がホモと表現したのは侮蔑用語であり、駄目な表現だったという事か……。

だからあの変なメールが来た時、ゲイとホモの違いをと怒っていたのだ。
待てよ…、だったら何で新宿クレッシェンドの校正作業をする際、編集の今井貴子はそれを指摘しなかったんだよ?

誤字脱字はともかく、乞食やルンペンという表現は駄目。
じゃあ、何て書けばいいんだとの問いに、ボロを纏った男とか……。

いや、そんな事どうでもいい。
問題はドビュッシー作曲月の光をピアノで演奏した俺に対し、あの女は『ドビッシー?』と赤線を引きやがった事が許せないのだ。
そんな自身の無知さを露呈した事をやるぐらいなら、あの時ホモを指摘しろよ!

「……」

まああいつはもう癌で亡くなってしまっているから、後の祭りだよな。
俺が悪かった。
ゆっくり眠ってくれよな。
もう責めないから。

電車は本川越駅に到着する。
あ、木下がLGBTの何に所属するかを調べようとしたのに、結局レズとゲイしか分からないで着いちゃったよ。

あんなオカマ野郎よりも、今は猫でしょ。
横断歩道を渡って駐車場へ行くと、俺の姿に気付いたニャンタッタが先頭で車の陰から出てくる。

2018/01/29 埼玉りそな銀行の駐車場野良猫ニャーニャー

二月になったらまた雪が降るとか天気予報で言っていたが、この子たち大丈夫か?

「ニャー」
「あ、はいはい。ごめんね、お腹減ってるもんね。ちょっと待っててね」

急いでコンビニへ向かい、猫の餌を買う。

2018/01/29 埼玉りそな銀行の駐車場野良猫ニャーニャー

まあ仮にまた雪が降ったとしても、こうしてこの子たちは無事だったのだ。
どこかで寒さを凌げるところを知っているのだろう。

「また明日も来るからいい子にしているんだよ」
「ニャー」

俺は猫の頭を優しく撫でてから、家に戻った。


二千十八年一月三十日、火曜日先勝。

一月も二日で終わりだというのに、外は相変わらず寒い。
ラッキーハウスへ出勤して着替えをしていると、木下の怒鳴り声が聞こえてくる。
同じ遅番の木幡に対して怒っているようだ。

「いいか? 伝票ってのは一部上場企業だとこうやってまとめるんだ。おまえはバラバラだから、ちゃんと覚えとけ!」
「は、はあ」

え、一部上場企業がどうのこうの今言っていなかったか?
聞き耳を立てて木下理論を聞く。

「違うだろ! ホチキスの向きはこうだよ! こういうのは一部上場企業は徹底しているんだからな。分かってんのかよ?」
「わ、分かってますよ」

俺は一応一部上場企業と呼ばれる会社で働いたよな、何度も。
まずSFCG、次に大日本印刷、KDDIもそうか。
佐川急便ってどうなんだろ?
まあどちらにしても、木下理論は聞いた事ないぞ?
誰もが知るような大会社四社で実際に働いたが、一部上場企業だとホチキスの向きがなんて今初めて聞いた。

だいたいあんなオカマみたいな奴を一部上場企業は絶対に雇わない。
何故なら会社の品位を損なうから。
爪にマニュキュアを塗り、口にピアスをするような男が社内にいるだけで、多大なイメージダウンにしかならないのを分かるからこそだ。

そういえば以前吉岡の話だと、入った頃はゲームのクレジット計算も碌にできず算数ドリルからやらされたと言っていたぐらいだ。
間違ってもそんな馬鹿が、一部上場企業で働けることはない。
どこで覚えたのか知らないが、一部上場企業に憧れがあるのだろう。

あまりにも滑稽で、ついセブンスターを吸いながらニヤついてしまう。

「おい、赤崎! おまえ、何がおかしいんだよ?」

懲りずに胸倉へ掴み掛ってくる木下。
俺はこの馬鹿の右手首を固定すると、左斜めに捻り身体を仰け反らす。

「何やってんですか、赤崎さん!」

慌てて香川が止めに来るが、注意するほうを間違っているだろうが。
本当にこの店は頭のおかしい奴が多い。

「香川さん…、いきなり怒り出して胸倉を掴んでくる方を先に注意しなきゃあ駄目ですよ。俺は火の粉を払っただけなんだから」
「そうは言っても完全な暴力行為ですよ?」

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