高校生・大学生向け【いわきその先図鑑】様々な分野の専門知識をかけあわせ、地元・いわきで挑む研究開発(株式会社クレハ)
株式会社クレハ いわき事業所
青山 綾希さん
株式会社クレハいわき事業所は、サッカーグラウンド約150個分の広大な敷地に様々な工場があり、「NEWクレラップ」の原料やリチウムイオン電池の材料、医薬品など100種類以上の製品を生み出しています。
クレハが大切にしているのは「どこにも無ければ、創ればいい(ナケレバ、ツクレバ)」という精神。
今回お話しを伺ったのは、故郷で研究者として働く青山綾希さん。
いわき市で生まれ育ち、京都での大学生活を経て、再び故郷に戻り「農薬」の研究に挑む青山さんの歩みから、私たちが未来を切り拓くためのヒントを探ります。
「絞り込めない」という迷いを、可能性に変えた選択
青山さんは、高校時代は理系で「化学」に興味を持っていました。
しかし、大学進学を考えたとき、理学部も工学部などの様々な選択肢があり、やりたいことを絞りきれずにいました。
そこで、学べる分野が広く、入学後に自分がやりたい研究分野を見つけるために「農学部」を選択しました。

進学した京都の大学で青山さんが研究したのは、有機化合物を設計・合成する「有機合成」と生命の反応を解明する「生化学」。
通常はどちらか一方に特化することが多い中、青山さんが所属した研究室はその両方を研究しながら、化学と生物について学ぶことができる貴重な環境でした。
社会に貢献したい想いと故郷への想い
博士課程まで研究を続けた青山さんは、「目に見える製品で社会に貢献したい」と企業に就職することを考えます。
また、自分が行っていた研究が「農薬」の研究開発に近かったことから、まずは農薬の研究ができる企業を探しました。
そして、世界に目を向けると食糧不足が争いの原因となっているところもあり、農業に関わることは食糧の問題だけではなく、飢餓や紛争など世界の様々な問題解決にもつながっていくと考えました。
青山さんが就職先を探している中で目に留まったのが、「株式会社クレハ」でした。
実は青山さんにとって、クレハはあまりに身近すぎる存在でした。
幼い頃からまちの至るところにあるクレハの看板を見て育ち、生まれた場所はクレハのグループ企業が運営する「呉羽総合病院」。
「クレハは幼いころから身近な存在でしたが、まさかクレハで研究者として働くということは想像していなかったです」と笑いますが、同社が掲げる「ナケレバ、ツクレバ」という挑戦的な風土・環境は魅力的なものでした。

緻密さが求められる農薬の研究開発を、地元・いわきで担う
青山さんは、いわき事業所内にある中央研究棟で農薬の開発に携わっています。
周辺には工場もあり、「研究室での発見を、工場での生産につなげるための議論をすぐにすることができます。このスピードは研究者にとって代えがたい魅力です」と話します。

青山さんが行う農薬開発は、非常に緻密な作業です。
ターゲットとなる菌や物質を阻害しながら、人間や周辺の環境には影響を与えてはいけない。
日光に分解されすぎてもいけないし、土壌に残留してもいけない。
「薬の研究は人体の影響を考えますが、農薬の場合、自然界への影響も考える必要があります。膨大な条件を一つひとつクリアし最適解を見つけ出すことが、農薬研究の難しさであり、醍醐味でもあります」と青山さんは語ります。
AIも活用。様々な専門分野を組み合わせて課題を解決
現在、青山さんが新たに取り組んでいるのが、AIやシミュレーションを活用した農薬の開発です。通常は、手作業で新薬の候補を探し出しますが、数万、数十万という化合物の中から、候補を考えるには人間の力だけでは限界があります。
そこで、青山さんは、過去の実験データをAIに学習させ、有効な分子のパターンや構造を予測させるという取り組みをしています。

驚くべきは、そのスキルの習得方法です。
青山さんは入社後に、週末に大学のオンライン講座を受講しながら数学や情報学を勉強し、実際の仕事で実践しながらAIの知識を身に着けました。
大学・大学院で研究した生物・化学、そこに「情報」という3つ目の視点が加わったことで、物事が3次元の立体として見え、解決策を考える角度も増えたと話します。
自らの領域を限定せず、新しい道具を取り入れる姿勢。
それこそが、複雑化する現代社会で「その先」を切り拓く力になるのです。

いわきという場所が教えてくれる、「自分」を失わない生き方
青山さんは研究の最前線に立ちながら、地元・いわき市の良さを改めて感じています。
「一緒に働いている方もいわき出身者が多く、人の温かさを感じます。気候の穏やかさやご飯も安くておいしい」
また、企業の研究開発部門は首都圏に置かれていることが多い中、いわきで働くことには良さもあると青山さんは語ります。
「都会では人が多いのでどうしても誰かと自分を比べたくなることもあると思いますが、いわきだと自分を出せるのがよい。それから都会に比べれば通勤時間も少なく、自分の時間を作れるというよさもある」
知識の「0と1の差」を埋める
最後に、青山さんはこれからの未来を担う高校生や大学生に向けて、大切なメッセージを届けてくれました。
「知識において『0と1の差』はとても大きく、少しでもその分野を知っているだけで、自らの世界を広げたり、あるいは専門的な会話も少し理解することもできます。どの教科の勉強も意味があると思います」
今、皆さんが学んでいる数学や英語、理科。
それらが将来何の役に立つのか分からなくなる時があるかもしれません。また、やりたいことを絞り込めないと焦ることもあるかもしれません。
それらをいつか誰かと繋がるための準備だと捉えてみてください。いつか全く異なる分野の専門家と出会ったときに、共通の言語で会話を始めることができます。
青山さんの人生が示すように、バラバラだった知識がいつか繋がり、自分だけの「武器」になる日が必ず来ます。
そのためには、今目の前にある学びを疎かにせず、自分という可能性を信じて探究し続けること。青山さんは今日も、故郷いわきで世界の未来を創るための研究を続けています。
皆さんも、この「いわきその先図鑑」をヒントに、自分だけの「その先」を探してみませんか。
