土岐川観察館(2025/8/9)
1.はじめに
おはようございます。こんにちは。こんばんは。IWAOです。8月のお盆で土岐川観察館へ行ってきました。東濃地方へ行く機会があり、いつかは行ってみたい所だと思い、それが叶いました。今回、何を見てきたのか、どこが見どころなのか、それを紹介します。よろしくお願いします。
2.構成
魚類、両生類、爬虫類の生体を中心とした展示になっていました。屋外には、ビオトープがあり、そこで「多治見メダカ」を中心とした生体が系統保存の一環で飼育されていました。岐阜県、特に、東濃地方にスポットを当て、それに関する文献情報、各自治体の調査記録なども自由に見ることができました。

3.東濃地方固有の魚
土岐川には、オイカワ、カワムツ、フナのようないわゆる「普通種」と言われる生き物も生息しが展示されていました。しかし、土岐川には、土岐川を含めた東海地方にしか生息しない「固有種」が存在します。それが、「トウカイコガタスジシマドジョウ」、「タニガワマナズ」となります。


・トウカイコガタスジシマドジョウ
トウカイコガタスジシマドジョウは、日本に生息する10種類近くのスジシマドジョウの1種で最も東側に生息するスジシマドジョウでもあります。主に水田水路、河川やワンドが生息地になっています。

東海地方には、ニシシマドジョウという別のシマドジョウが生息していますが、彼らと生息地が被ることがあり、それは土岐川においても同じです。そして、ニシシマドジョウ自身が、模様の変異や個体差が非常に大きいものであるため、個体によっては、トウカイコガタと区別するものが非常に難しい場合もあります。それ故、大きさが両者で変わらない場合、余計に区別することが難しいです。(*因みに、私は完全に間違えましたw)ただ、尾鰭の付け根の斑点が、腹側でハッキリ出ているのか、口髭が黒目の部分と比べた時に短くなるのかなどの違いがあります。そういう所で区別していくこととなります。

・タニガワナマズ
「タニガワナマズ」は、東海地方にのみ生息するナマズです。ただ、東海地方では、一般的にイメージされる普通の「ナマズ」も東海地方、土岐川に生息しています。しかし、形態的な違いというもは、顎の歯のつき方などがあるものの個体差もあるために両者を区別するのは、非常に難しいです。しかし、形態以外の面で比較した時、両者での違いは明確にあり、そこで違いが大きいことがわかります。その違いは、「生息地」と「遺伝子」です。

こちらの個体は遺伝子検査をした結果、タニガワナマズと判明
「生息地」では、タニガワナマズは河川の上流〜中流の石や水量の多い河川に生息していますが、ナマズでは湿地帯の流れの緩やかな河川や水田に生息しています。つまり、棲み分けができているということです。(*一部で生息地が被る場合があります。)
「遺伝子」では、タニガワナマズとナマズでは、大きく違うことがわかっています。日本に生息するナマズ4種の系統樹を調べた結果、最初に1300万年前にビワコオオナマズが分岐したと考えられ、その次にナマズとイワトコナマズ(*琵琶湖に生息)とタニガワマナズの共通祖先が970万年前に分岐し、そして、イワトコナマズとタニガワナマズが鈴鹿山脈の隆起と呼応して120万年前に分岐したと推測されています。つまり、タニガワナマズの近縁種は、イワトコナマズというナマズとはまた別種であるということで、ナマズとは、遺伝的な距離も大きいことです。私としては、イワトコナマズとタニガワナマズで見分けがつきにくいという指摘は、よくわかりますが、ナマズとタニガワナマズで見分けが難しいほど、似ている原因は何か、そこに対して非常に興味があります。不思議でたまりません。


イワトコナマズは、黄色くなるものがいる場合がある。
*前畑氏と田畑氏の著書である『ナマズの世界へようこそ マナマズ・イワトコ・タニガワ』で、タニガワナマズに対して、違和感を持ち、別種だと判明する経緯の詳細が書かれています。こちらも是非、ご覧ください。
・ヤリタナゴ
土岐川に何故、この生き物がいるのか?と不思議に思ったものがいます。それは、「ヤリタナゴ」です。タナゴというと、平地や湿地帯の溜池やワンドを中心とした溜池やその用水路のようにあまり流れの強くない環境に生息するイメージが強いので、山の中の川にいるというイメージとかけ離れていて驚きました。スタッフの話から、「どこかにあるであろうが、二枚貝を見たことがない。彼らの生息地に適した基質のあるような場所にそもそも行ったことがない。しかし、まとまって二枚貝やタナゴが生息しているポイントはあるのだろう」などと話していました。市町村の生物調査から、イシガイやマツカサガイなどの二枚貝は発見されています。よって、摩訶不思議にタナゴが湧き出ているというわけではないです。ただし、土岐川とその周辺に低地のような環境が全くないという意味ではないですが、結構山の中のイメージがあるため、一般的に言われるタナゴとは生息環境が特異なタナゴだと感じました。

4.両生類と爬虫類
土岐川観察館では、魚だけでなくイモリ、カエル、カメなども展示していました。その中で注目される展示は、「オオサンショウウオ」と「ニホンイシガメ」です。
・オオサンショウウオ
こちらの目玉展示でもあるオオサンショウウオは、生体で2匹展示されています。そして、彼らは過去に逃がされたチュウゴクオオサンショウウオと日本在来のオオサンショウウオの「交雑」個体です。ここで展示されていたのは、岐阜県下呂市菅田川で捕獲された個体になります。現在、オオサンショウウオは「交雑」による「遺伝子撹乱」が問題となっています。特に、京都のオオサンショウウオは、発見される個体のほとんどが交雑となり、在来のオオサンショウウオは死に体状態です。そして、全国の都道府県に交雑個体が発見され、拡散され続けていることも確認されています。岐阜県も交雑個体が確認されており、土岐川にオオサンショウウオが捕獲されているため、生息しているであろうとされています。ただ、幸いなことに遺伝子調査をした結果、土岐川で捕獲された個体は、「在来」であると確認され、純粋な土着のオオサンショウウオが残っているとされています。しかし、土岐川の下流である庄内川では「交雑」個体が確認されているため、交雑個体が遡上するリスクはゼロではありません。まして、土岐川のオオサンショウウオは、歴史史料から捕獲されていることが記録されているため、生息しているであろうものの詳細な調査がされていないために、土岐川のどういう所に生息しているのか、どういう生態をしているのか、どれくらいの個体数がいるのか、その詳細は分かっていません。


*オオサンショウウオの交雑問題についてその詳細を書いています。こちらも是非、ご覧下さい。
私の来館時は、オオサンショウウオの餌やりを見せてもらいました。エサに噛み付くのではなく、その周りの空気や水を一気に吸い込んで捕食するため、「バクン‼︎」と大きな音がします。エサやりをするとわかった途端、動きが激しくなるため、オオサンショウウオを観察し、知るにもいい機会になると思います。

・ニホンイシガメ
ここで展示されているニホンイシガメは、おそらく東濃地方に生息していたであろう個体達で、保護されたものとなります。元の生息地が不明であるため、再放流ができないものでもあります。ここで展示されているニホンイシガメには注目すべき特徴があります。それは、手足の欠損が多いということです。4体展示されている中、5体満足の個体は、1体しかいなかったと記憶しているくらいです。ここで展示されている個体の全てとは限らないと思われますが、その欠損の主要な原因と考えられるのが、「アライグマ」です。彼らは、水辺での捕食の対象をニホンイシガメにすることが多いです。ニホンイシガメは、臆病でおとなしい性格をしているため、危険を感じるとすぐに甲羅の中へ引っ込んでしまいます。しかし、アライグマは手先が非常に器用なため、甲羅に隠れたニホンイシガメを簡単に捕食します。その上、顎も非常に強力であるためにアライグマに見つかれば、逃げることはほぼほぼ不可能です。
ここでの展示個体ではわからないこともありますが、外来種は、在来の生き物に対して非常に脅威になるという事例を示せた典型例になると思います。

展示個体
ここでは、ニホンイシガメの幼体も展示されており、その幼体は、ここで繁殖したものとなります。誕生しておよそ2〜3年の個体です。このニホンイシガメの幼体が展示されているスペースの上に非常に重要なパネルがありました。それは、イシガメが生きていく上で非常に大事な概念が指摘されていました。それは、「エコトーン」です。「移行帯」とも言われるもので、季節や川の増減によって陸地や水辺に変化する地帯のことを指します。ニホンイシガメにとって、このエコトーンが重要な理由は、「生活によって使用する環境を変えている」からです。ニホンイシガメがただただ生きていくだけなら、陸地と水があるだけで十分かもしれません。ただ、エサをとり、異性と出会うという繁殖の機会を得るには、水場が必要になります。休息や日光浴をする、産卵するのには陸地が、そして、新天地へ向かうために森林を移動することも明らかになっています。つまり、ニホンイシガメというのは、生活の場面で場所を使い分け、移動能力もそれに伴い高い生き物でるということです。ニホンイシガメが生きていくには、水と陸地が繋がった環境でないといけません。それを繋ぐのが「エコトーン」です。ニホンイシガメから生き物が生きていく環境には、「空間的な繋がり」があることが大切であることが学べます。


*過去にニホンイシガメの現状と絶滅の危機についてその詳細を書きました。より詳しいことを知りたい方は、こちらをご覧下さい。
5.多治見メダカ
最後は、この土岐川観察館のメダカについて記述します。ここでは、ビオトープが設置されており、そこで多治見に生息するメダカが飼育・繁殖されています。このメダカの大事な点は、多治見「在来」の個体群であるということです。メダカは、現在、絶滅の危機にありますが、その原因・脅威の一つに「遺伝子攪乱」が指摘されています。そもそもメダカと一言でまとめられる生物ですが、メダカは、日本で1種類のみいるものではなく、日本国内だと「キタメダカ」、「ミナミメダカ」と種単位が分かれ、ミナミメダカは、「地域個体群」でさらに分かれます。つまり、同じメダカでも全く違うメダカということです。しかも、厄介なことにメダカは、観賞魚としても非常に人気が高いこともあり、養殖されたものからヒメダカのように色がついたもの、ダルマメダカのように本来の姿とは違う様々なメダカが、ペットショップを含め、販売されています。よって、ペットショップ等で売られているメダカは、その地域固有のものではない可能性が非常に高いということです。しかし、世間では、「同じメダカでも違うメダカ」、特に、地域での場合というのを理解していないことが多く、出所不明なメダカが放流され、その地域固有のメダカの遺伝子が汚染されるということが起こっています。多治見においても土岐川本流で、色メダカが見つかったことがあり、土岐川本流のメダカは、汚染され、どこまで純粋な在来のメダカがいるのか、非常に怪しいです。



ただし、土岐川観察館のメダカは、遺伝子調査の結果から在来の個体であり、汚染のないものであることが確認されており、多治見・東濃の貴重な個体群であるということです。また、この在来の個体群であることに合わせて大切なことがあります。それは、この土岐川観察館が、「博物館」としての役割を担っているということです。この土岐川観察館で、多治見の在来のメダカが、「系統保存」されているからです。ただ、保存しているだけでなく、飼育・繁殖・展示され、生まれたメダカは、場合によっては、地域の学校へ配布も行なっています。博物館というのは、ただ珍獣やお宝を収集して常設の展覧会を開催している場ではないです。では、どういう場なのか?最後の方でより詳細を話しますが、改めて、何故、その生き物や物が展示されているのか、それを考えて見なければならないと思います。
*博物館展示について詳細をこちらに書いています。こちらも是非、ご覧ください。
6.まとめ
以上が、土岐川観察館の紹介となります。土岐川というと、岐阜県の東側でそこそこ山の中にあるほっそりとした川の印象を持っていましたが、トウカイコガタやタニガワナマズのようにこういう所でないと会いにくいもの、ここにしかいないものなどと「地域性」を持っていることが分かりました。
土岐川観察館に来館し、見て実際に驚いた生き物は、「ヤリタナゴ」と「オオサンショウウオ」です。タナゴというと、低地の湿地帯の溜池や用水路に生息しているイメージでしたが、ヤリタナゴはそのイメージと違う一面が見れ、山よりの川にもいるのだと知って驚きました。土岐川で、特に個体数が多いわけではないのですが、いるところにはいます。ただ、日本で1番生息が多いタナゴでもあり、何故、日本の各地に生息しているのか、土岐川に生息しているのかが、答えの一つだと思われます。オオサンショウウオもいるとは思わなかった生き物であり、河川環境の頂点捕食者が生息していることは、土岐川の自然の豊かさを示すと同時に、生態系が安定していることを示す存在と感じます。
最後になりますが、土岐川観察館が、「博物館」としての役割を担っています。動物園、水族館のような博物館は、日常では見ることのできない珍しい生き物を展示しており、彼らを見に行くことが目的で来館する人は多く、それが間違っているわけではありません。では、博物館の役割とは何でしょうか?それは、資料や情報の「収集・調査」、「展示」、「発信」です。そのほぼ全ての役割を担っているのが、多治見メダカだと私は思います。日本全国にメダカは、確かにいます。しかし、どのメダカは全て同じ物なのかというと、それは、決して違います。この多治見メダカは、東濃地方という地域性の象徴であり、同じ生き物でも違う生き物であること、東濃地方には、どういう固有な生き物がいて、どういう自然があるのか、それを「展示」から知ることができます。また、地域の学校へ配布していることから、多治見の自然、多治見メダカの実情について情報を「発信」していることになります。
メダカに限った話ではありませんが、土岐川について生物調査を定期的に行い、調査結果を公表しています。現在の調査結果だけでなく、過去の調査結果についてもアクセスでき、どのような変遷があったのかを知ることができます。このような情報の収集と蓄積は、多治見を中心に土岐川に何がいて、どうなっているのか?を知ることができる大事な情報です。また、土岐川観察館が、ただただ土岐川にいる生き物を飾っているだけではなく、調査から発信までのその拠点となっており、土岐川についてより詳しく知るには、非常にいい施設であり、改めて、博物館として何をしなければならないのか、それを教えてくれる展示になっていたと思います。それ故、土岐川について知りたいと思う人がいたら、まずは、この土岐川観察館に来館することを強く勧めたいです。
以上になります。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。次回もお楽しみに。
