ひでえ現場で働いてきた

土日は初めて行く倉庫でピッキングの仕事をする。
あまり気にしないようにしていたけれど、
昨日は昼も夜も食欲が無くて結局食べなかったし、
今朝も朝からお腹を下している。
やっぱりわたしは知らない現場に行くのが怖いのだ。





朝8時からの仕事なのに、
なぜか着替えて作業場に着いてから、
QRコードを読むように書いてあるので、
時間よりも早めに行かなければならない。
わたし的には早く行ける限界の電車で行ったけれど、
着いたらもうほとんどの人が着替えを済ませていた。
この時点でもう仕事にも付いていける気がしない。





絶対に洗濯していなさそうな、
汚い割烹着とエプロンを身に着けて現場に行くと、
タメ口のおじさんがめんどくさそうにわたし達を振り分けた。
敬語が使えなくてみんなドン引きの好きな人よりも、
ずっと酷い態度のおじさんだ。
初対面のわたし達にも、
ここで働いている人に出すような、
全く意味のわからない指示を平気で出してくる。




事務所に行ってと言われても、
事務所がどこなのかもわからないし、
道具箱がどこにあるのかなんてわかるはずがない。
「さんはん」と言われたので一体何かと思ったら、
どうやらわたしのいるテーブルが3班らしい。
誰も何も言われていないからわかるわけがないのだ。
酷いおじさんはフォークリフトに乗っても、
運送会社では見たことがないくらい、
荒い運転をしていた。
素人のわたしでも近づいたら危険だとわかるほどだ。
市場に近い倉庫の野菜のピッキングだから、
ちょっと独特なのかもしれないけれど、(偏見)


とにかく不親切極まりない。


ここまで酷い現場もなかなか無いと思う。




酷いおじさんにはとても聞ける空気じゃないので、
隣にいた同じキャップをかぶった、
絶対に変な感じのおじさんに、
恐る恐るQRコードの場所を聞いて、
急いで読み取りに行くと、



始業時間の1分前だった。



あぶねえ!!!
こんな杜撰な会社で修正依頼なんて出したくない。





始業時間になってもろくな指示はもらえないので、
みんな黙って立っていた。
鈍臭いわたしはやったことはないけれど、
なんかライブの裏方のバイトのような雰囲気だ。
本当にその場限りのとりあえず大量の人を集めて、
その日だけなんとか乗り切れればいいというか、
初対面の人に対する配慮が欠片もない現場。
たぶんこの会社は人を人だと思っていない。最低。



人を使える人がいないなら、
最初から集めなきゃいいのにと思う。




見ているだけで馬鹿みたいだけど、
でもわたしはもう使い捨てにはすっかり慣れたので、
たまにこういう杜撰な現場に当たって待たされると、
黙って立っているだけでお金になるからラッキーと思う狡い自分もいる。





誰もよくわからないままやっと作業が始まって、
ひたすらじゃがいもの袋詰めをする。
1時間後にはたぶん派遣なんだろうけれど、
わたし達よりも慣れていそうな、
絶対に怖そうなおばちゃん達がやってきた。




酷いおじさんは自分で段ボールを置いた後に、
「さっき種類がわかるほうを外側に向けてって言ったけど」
と言ってきたのでわたしは慌てて直したけれど、
「さっきそれ置いたのあんたじゃなかったっけ?」
と内心では思う。
段ボールの並べ方もろくに教えてもらえないから、
なんとなく並べていたら、
怖そうなおばちゃん達の中にいた、
若い女の子が優しく教えてくれたので、
わたしはお礼を言った。
どんなにゴミみたいな現場でも、
とりあえず低姿勢でいよう。
いつも低姿勢で誰にでも好かれるに違いない好青年の懐かしい気持ちになる彼の姿が思い浮かんだ。





本当はわたしだって、
あんな人と一緒にいたいさ。





でもわたしは使い捨てだから。
普通の人達みたいに穏やかに人間関係を構築して、
それを維持することができないし、
何よりも面倒なのが嫌だから、
いつもこうやって底辺みたいな会社に来ては、
その場限りの作業をするしかできない。

この数時間さえ乗り切れればわたしは良いのだ。
これ以上面倒なことなんかしたくない。




やっぱりわたしは、
あんな素敵な男の人に優しくしてもらえるような女じゃない。




彼との身分の違いを痛いほど感じながら、
わたしはひたすらじゃがいもを袋に詰めていく。
今日は1日これで終わるんだろう。
本当に馬鹿みたいだ。



エプロンのポケットにペンを入れようとしたら、
破けていて床に落ちた。
移動して別の計りを使おうとしたら、
画面が白く濁っていてよく見えない。
テープカッターもなかなかコツが掴めないから、
テープを止めた後に結局ハサミで切っている。
わたしが段ボールに詰めるじゃがいもの袋が、
どんどん飛んでくる。
酷いおじさんは、
「Lサイズ使い過ぎだわ」と言ってきたけれど、
そもそもどのサイズを使うか誰も言われていない。
だから目の前にあった段ボールを取っただけだ。
どう考えても最初から指示をしない社員が悪いので、
わたしは知らんぷりをした。
どうせ何もかも杜撰な会社なのだ。知るか。






やっと休憩が来たので休憩室で1人で座っていたら、
「そこはパートの席だから!ロッカーもそっち!」
と怖そうなおばさん達に注意された。
たしかによく見たら、
使い捨ての人達は隅っこに狭そうに座っていた。
こんなに席が空いているのに、



使い捨てのわたし達は、
好きなところに座ることすら許されないらしい。




お昼も狭い席で小さくなってお弁当を食べた。
近すぎて隣の人が食べているものの匂いがするし、
スマホの画面だって簡単に見えてしまう。
全然休めない。
明日は便所飯をしようかと本気で思うくらいだ。
探し物をしていた男の人も、
「それはパートのだから!」と注意されていた。




この会社はパートでもそんなに偉いんだろうか。




わたしも本業はパートだけど、
本業の会社でもそんな偉そうな口を聞いたことはない。
もしわたしの会社にも派遣の人がいたら、
わたしもそういう口の聞き方をするようになるんだろうか。
ここのおばさん達は注意しながら笑ってはいるので、
まだ優しいほうだとは思うけれど、
それでも使い捨てのわたし達が少しでも彼女達の領域に入るのは絶対に許さないようだ。
だからこの会社では使い捨ての人達に私物を盗られたり勝手に使われたりするのかもしれないと思う。




こんな会社に明日も来週も行くことになっている。
キャンセルしちゃえよと自分でも思うけれど、
わたしがそれをしないのは、
決してお金が無いからではない。




ぞんざいな扱いを受ければ受けるほど、
丁寧に扱ってもらえたときの喜びを、
はっきりと思い出すからだ。





きっとわたしはこの酷い現場の人達を見ることで、
優しくて丁寧で素敵だった懐かしい気持ちになる彼をまた思い出している。
彼らの姿に正反対のあの男の子を思い浮かべている。
だからわたしが懲りずにまたここに来るのは、
あの彼を思い出したいからだ。

自分でもわかる。






そんなことを思いながらわたしはまた、



好きでもない男に身体を売る女の気分になっていた。




彼女達も気持ち悪い男に触られれば触られるほど、
好きな男のことを思い出すんじゃないだろうか。
そうやってなんとか自分のメンタルを保とうとするのではないだろうか。
わたしは水商売はしたことがないし、
もっと辛いに決まっているけれど、
最近タイミーで好きでもない現場に行って、
怖いおばちゃん達に粗末に扱われると、
わたしはいつも身体を売っているような気になる。




だから今のわたしにとってタイミーは、
身売りや自傷行為に近いものがある。




本当はこんなことやりたくないけれど、
わたしはこれをしないと地元から出られない。
地元から出ないとわたしは誰にも会えない。
好きな人達に会いに行って笑っているには、
こうやって自分の身を売って削るような時間が、
どうしても必要なのだ。






それでもじゃがいもを詰めるだけの単純作業なので、
午後からはひたすら妄想をしていた。
わたしの本業はちょこちょこチャットが来るし、
考え事をしているとよく作業を忘れてしまうけれど、
こういう単純作業は身体が一度覚えてしまうと、
脳内は意外と自由だ。
わたしはあの彼に再会したら何を話そうか考える。
楽しくなってきてマスクの下でニヤけてしまう。
あぁ早くあの彼に会いたい!





すっかり自分の世界に入り込んでいたら、
やっと終業時間になった。
後片付けのときも酷いおじさんは、
「道具箱片付けた人なんでこれ持って行ってないの」とまた言っていたけれど、
何かを一緒に持っていくように言われた覚えはない。
そもそも備品をどこに戻すかも誰も教えてくれない。
そんなことよりも終業時間を過ぎているのに、
まだ片付けが終わらなくて、
なんで上がらせてくれないんだろうと思う。
この後たいした予定もないけれど、
こんな会社なら上がるのが定時より4分遅れただけでもなんだかイラッとするし損をした気分になる。
手を洗っても爪の間の土が全然取れないし、
眼鏡も鼻の横にも土がついて黒くなっている。最悪。




わたしは疲れていたのか、
上履きを履き替えてくるのを忘れて出てきてしまった。
でもどうせ明日も行くからいっか!と思って、
そのまま見たかった展覧会に40分歩いて向かった。