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呼び出し|掌編小説集「かわたれドキ」#1

 隣の席の宮津さんが実はカラスであることを知ってしまったのはまったくの偶然からだった。僕は彼女がカラスであるなんてちっとも疑っていなかったし、彼女と特に親しいわけでもなかった。そのことを知ったのはなんの変哲もない水曜日の放課後で、校舎裏のゴミ捨て場でのことだった。

 僕は当番で教室のゴミ捨てをしている最中だった。ゴミ袋の中はちびた鉛筆や消しかす、黒くて大きな埃、自由帳の切れ端なんかでいっぱいで、背の低い僕にとってそれはちょっとした大荷物だった。僕はゴミ袋を抱えながら校庭側から校舎の裏手に回った。校庭から続いていたレンガの道は次第にアスファルトへと切り替わり、やがて三階建ての校舎の影に入った。校舎裏は薄暗かった。室外機が低い音を立てていて、だだっ広い駐車場があった。明るい校庭側と比べると、それはまるで世界の表と裏のようだった。

 ゴミ捨て場の側まで来たとき、僕は猫の声を聞いた。それも威嚇したり呻ったりする声だった。僕は抱えたゴミ袋の脇から目を遣ると、猫と宮津さんが激しい喧嘩を繰り広げていた。彼らの周りには引き裂かれたゴミ袋が散らばり、中からいろんな生ゴミが引きずり出されていた。二人はその混沌の合間でじりじりと間合いを見極め、稲妻のような攻防を繰り返していた。猫は吠えた。宮津さんも吠えた。赤いランドセルを背負いながら、口を大きく開いて。端正な顔立ちが歪んでいた。僕は咄嗟に近くにあったベンチの陰へ隠れ、その様子をそっと覗いた。なんだか見てはいけないものを見ているような気がした。

 すると、猫の繰り出した鋭い爪が宮津さんの二の腕を強かに引っ掻いた。猫の爪は肉の抵抗に逆らいながらずるずると振り下ろされた。血が出る、と僕は思った。ところが、彼女の引き裂かれた白いシャツの内側からはなんと黒い羽根が飛び出した。まるで羽毛クッションが破れたときのように。僕は目を疑った。すると宮津さんは引き裂かれたシャツを起点としてまるで風呂敷を開くみたいに、一匹のカラスへと変態していった。カラスは闇雲に羽をばたつかせながら、徐々に高度をあげ、高い夕暮れの空へと飛び立っていった。僕はその光景を呆気に取られながら眺めていた。ゴミ袋をじっと抱きしめながら。

 宮津さんから屋上に来るように言われたのはそれから三日後のことだった。算数の教科書を取り出すために机の中に手を入れると、見覚えのない紙きれが入っていた。

 今日の放課後、屋上運動場に来ること 宮津

 僕は隣の席の彼女を見た。彼女は素知らぬ顔で黒板の方を見ていた。どこか不機嫌そうな仏頂面で。

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