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育児で削られていく「自分」を、一冊の本が取り戻してくれた

育児をしていると、毎日「捨てる」選択を迫られる気がする。

時間を捨てる。やりたいことを捨てる。キャリアを捨てる。

そして最終的には、自分自身の「何か」を捨てることで、なんとか一日を回している。

それが「母親になるということ」だと、どこかで思い込んでいた。

そんなふうに感じていた私が、百田尚樹さんの『海賊とよばれた男』を読んで、深く揺さぶられた。

「人を切らない」と決めた男

この小説の主人公・国岡鐵造は、石油会社を一代で築き上げた出光佐三をモデルにしている。

敗戦直後の日本。会社の資産はほぼゼロ。事業の再開すら見通せない状況で、鐵造は宣言した。

「店員(社員)を一人もリストラしない」と。

まわりは反対した。合理的に考えれば、人員整理は避けられないと。

でも鐵造は動じなかった。

「人間尊重。一人の馘首もならん」

その信念を、彼は貫いた。

妻の場面で泣いた

一番心を揺さぶられたのは、鐵造の信念そのものではなく、それを誰よりも理解していた「最初の妻」の場面だった。

子どもができないことを理由に、彼女は自ら身を引く。

鐵造は「捨てない」人間だ。一度決めたことは絶対に手放さない。だからこそ、彼女は自分が「いなくなること」を選んだ。鐵造が自分から離れられないことを、誰より知っていたから。

愛しているから、身を引く。その健気さに、読んでいた手が止まった。

「諦めるのが正解」と思い込んでいた

子どもが生まれてから、こんな言葉を何度聞いただろう。

「全部は無理だから、どれかを諦めないと」

「子育て中は仕事はセーブするしかない」

「自分の時間は、子どもが大きくなってから」

言っている人に悪意はない。むしろ親切心から言ってくれている。でも気がつくと、私の中に「何かを切り捨てることが正解だ」という価値観が刷り込まれていた。

やりたいことがあっても「今じゃない」と後回しにする。

やってみたいことがあっても「どうせ時間がない」と諦める。

そうやって少しずつ、自分の中の「何か」を削ってきた。

そのまま、でいい

この本を読んで、「捨てないこと」も選択肢のひとつだということに気づいた。

もちろん現実問題、時間は有限で、体力にも限界がある。全部を同時に完璧にこなすことはできない。

でも「どれかを完全に諦める」と「捨てない」の間には、もっとたくさんの選択肢がある。

時間は減っても、続けることはできる。

完璧じゃなくても、手放さないことはできる。

今すぐじゃなくても、「いつかやる」じゃなく「細々とでも続ける」という姿勢は持てる。

鐵造が社員を切らなかったのは、「余裕があったから」ではない。極限状態の中で、それでも信念を曲げなかったのだ。

そして彼の妻は、そんな鐵造の生き方を誰よりも愛していたからこそ、自分を犠牲にした。

「捨てない」生き方には、それだけの重さがある。その重さを受け止めてくれる人がいる。そのことに、じんとした。

この本から学んだのは、「捨てない」だけじゃなかった

実はこの本を読んでいたのは、ファミサポさんに子どもを任せている時間だった。

誰かに委ねることへの罪悪感が、まだ少し残っていた頃。でも鐵造が社員を信じて手放さなかったように、誰かに頼ることは、その人への信頼の表れなのかもしれない。そう気づいたとき、ファミサポさんに子どもを預けている自分を、初めて素直に肯定できた気がした。

「捨てない」こと。そして「頼る」こと。この二つが、私の中で静かにつながった。

私が「捨てない」と決めたもの

この本を読んでから、私はひとつ決めた。

「書くこと」を手放さない。

育児が始まってから、文章を書く時間はほぼなくなった。まとまった時間が取れないし、子どもが寝た後は自分も疲れ果てている。「また今度」と言い続けて、何ヶ月も経った。

でも鐵造の話を読んで思った。余裕ができてから始めるんじゃなく、今の状況でできる形で続けることが大事なんじゃないか、と。

だからnoteを続けている。完璧な記事じゃなくていい。少しずつ、書き続ける。それだけでいい。

本が自分の考えや行動を変えることがある

『海賊とよばれた男』は、石油業界の話だ。昭和の経営者の話だ。育児とは直接関係ない。

でも本の面白さは、全然違う文脈から「自分の話」が見えてくるところにある。

鐵造の信念は、私の中で「捨てないで続ける理由」になった。

そして最初の妻の選択は、「誰かの生き方を支えるということ」の意味を、静かに教えてくれた。

育児中でも、疲れていても、完璧じゃなくても、書き続けることを選んだ。

その理由のひとつは、間違いなくこの小説にある。

あなたにも、そういう一冊があるだろうか。直接関係ない物語なのに、なぜか「自分のこと」として響いてしまう本。そういう出会いを、これからもこのnoteで記録していきたいと思っている。


読んでくださってありがとうございました。

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【この記事で紹介した本】

百田尚樹『海賊とよばれた男』(講談社文庫)

Amazonのアソシエイトとして、izumiは適格販売により収入を得ています。

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