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大丈夫、と言いながら働いていた― 16年勤めた市役所を離れるまでの話 ―

朝は、起きられていた。

支度もして、家を出て、自転車で仕事に向かっていた。

ただ、通勤中に小さくつぶやくようになっていた。

「大丈夫、大丈夫」

誰に聞かせるわけでもなく、
自分に言い聞かせるみたいに。


私は市役所で16年働いてきた。

教育、税務、いわゆる忙しい部署も経験してきたし、
時短勤務でも成果は出してきた。

ちゃんとやってきた、と思っていた。


異動してから、少しずつ歯車がずれていった。

仕事が覚えられない。
同じことを何度も聞いてしまう。
ミスが続く。

気づけば、後輩にフォローされることが増えていた。

情けないと思った。

もっとちゃんとやらなきゃ、と焦った。


それでも、毎日出勤はしていた。

通勤中、何度もつぶやく。

「大丈夫、大丈夫」

言えば何とかなる気がしていた。


でもある日、ふと思った。

「あれ、明日から仕事行けないかもしれない」

それは突然だった。

昨日までと何かが大きく変わったわけじゃない。

でも、確実に違った。

足が前に出ないような、
体の奥でブレーキがかかるような感覚。


その日の夜、子どもを寝かせたあと、
スマホで「メンタルクリニック オンライン診療」と検索した。

時間は22時を過ぎていた。

こんな時間でも診てもらえるんだ、と思いながら予約をした。


画面越しに現れた医師は、穏やかな声で言った。

「大丈夫ですよ。お話し聞かせてくださいね」

その一言で、張り詰めていたものがほどけた。

うまく話せたかは覚えていない。

ただ、今の状況を必死に伝えた。


そして言われた。

「それは、適応障害ですね」


その言葉を聞いたとき、
少しだけ安心した。

サボっているわけじゃない。
気合いが足りないわけでもない。

ちゃんと理由があったんだ、と。


土曜日、上司にチャットを送った。

「しばらくお休みをいただきたいです」

送信ボタンを押す指が震えていた。


すぐに返ってきたのは、
「お大事にしてくださいね」という言葉だった。

責められなかったことに、
涙が出た。


その後、私は退職した。

16年続けた仕事だった。

正直、怖かった。

でも今は、あのとき立ち止まってよかったと思っている。


もし今、
「大丈夫」と言い聞かせながら頑張っている人がいたら。

その「大丈夫」は、
本当は無理をしているサインかもしれない。


壊れたのは、弱かったからじゃない。

ちゃんとやってきたからこそ、
限界が来ただけなのだと思う。





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